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42-7 古の亡霊 1/2

 初日はまだ良かったのですが、二日目になると魔軍正統派の軍勢をやり過ごすことになりました。

 様子をうかがってみたところ、それは穏健派と西パナギウムの通商破壊を目的とした部隊のようです。 


 タルトたちを連れていなければ、軽く攪乱してやっても良かったのですが、今はタルトと物資の護送が最優先でした。

 しかし彼らが戦争に明け暮れてくれたおかげか、魔界の森の魔物は一時的に数を減らしていました。

 特にグールは発見しにくく、気づかずに近付くと突然こちらに喰らいつこうとしてくるので、護衛を行う上では最大の障害物でした。


 ところがここに来るまで、わたしたちは一匹もそのグールと遭遇せずに済んでいるときます。



「ビールッビールッ、地酒っ地酒っ、姉御のドレスッ!」

「バカな歌ばっか作ってんじゃないよっ、荷台の下敷きにされたいのかいっ!」


 里に着いたら男衆たちにはたっぷりと礼をしないといけません。

 カスケード・ヒルとの交易が行われるようになった今、ネコタンランドとの取引は、彼らにとって前ほどのうま味はありません。


 これからも取引を続けるならば、なんとか利害の帳尻を合わせたいところでした。


「里まで後どれくらいだい?」

「そうですね。これならば明日の昼過ぎには着くかと思います。皆さんがこの辺りの地理に慣れてくれたおかげかと」


 樹木の上のわたしを見上げて、タルトは少し疲れた様子で汗を拭いました。

 そんな姿を見るとふと思います。里で暮らすとして、彼女にはどんな持ち場が似合うだろうかと。


 そのまま彼女の才能を活用するならば、何かを指揮する監督役でしょうか。人身掌握という部分では、誰よりも秀でていると思います。


「どうかしたのかい?」

「いえ、なんでも。それよりも側面の警戒を忘れないで下さいね」


 どんな仕事をしたいかと聞くつもりでしたが、やはり止めました。

 彼女はバーニィとリセリと共に暮らしたい一心で、こうして決断してくれました。ここで仕事の話をするのは無粋です。


「バーニィのバカはさ、こうしてる今も、女の尻ばっかを追いかけてるんだろうね……」

「ええ、それはまあ、四六時中とは言いませんが、仕事中以外は女の尻のことを絶対に忘れない男かと」


 その日も暗くなるまで道ならぬ道を進んで、身を寄せ合ってわたしたちは夜をやり過ごしました。

 穏健派と西パナギウムの関係がさらに進めば、この森にいつか街道が生まれるのでしょうか。とても想像できません。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 三日目の昼、もう少しで里だというところでわたしは奇妙な痕跡を見つけました。

 それはわたしの主人、魔王様が使っていた紋章です。それが大木の幹に刻まれ、何者かへと宛てられたメッセージとなっていました。


 この紋章を知るものは、今となってはそう多くありません。

 ましてやうろ覚えではなく、正確にこれを描ける者ともなると限られます。


 さらに進むとまた同じ紋章が現れました。

 これは通常のケースではありません。わたしは後方へと引き返しました。


「ルートを変更します。一度、カスケード・ヒルに待避しましょう」

「ふぅん、冒険者狩りの拠点カスケード・ヒルかい。一度行ってみたいとは思っていたよ。だけどどうしてだい?」


「わかりません。300年前に魔界を束ねていた存在、魔王イェレミア様の紋章が、この先の大木に刻まれていました。わたしへのメッセージの可能性があります」

「なら、その差出人がヤバいってわけかい」


「ええ。最悪の想定するならば、この差出人は――魔将アガレスです。魔王様の血族を語る不届き者です」


 ルートを変えてわたしたちはカスケード・ヒル側に向かいました。

 しかしそれすらもヤツの手の内だったのか、わたしたちは待ち伏せされていたようです。

 わたしたちはここで出会ってはならない者と、出会ってしまっていました。


「はっ、ハズレを引いちまったみたいじゃないかい。アレがアンタの言う、アガレスかい?」


 正面に魔軍正統派の軍勢が約50名。その中央に全身鎧を身にまとった巨躯の男がいました。

 アガレスという存在はただただ目立ちます。顔は兜に覆われうかがい知れず、常人では歩くことも叶わない重鎧を平然と使いこなします。


 異様なそのたたずまいに、タルトと男衆は鋭い警戒を向けていました。

 穏健派のサレは不死者ゆえに生き残り、殺戮派のニュクスはあまりに強大なその魔力ゆえに、そもそも対等に戦える敵が存在しませんでした。


 残るアガレスは常に鎧をまとった慎重な男です。それゆえにこの男は今日まで生き延びてきました。

 わたしが悪運に愛されてきたのならば、アガレスは慎重さに愛された男です。それがたった50名の護衛と共にわたしの前に姿を現しました。


「やはりあの紋章は、あなたの仕業でしたか」


 わたしはその異様な存在の前に進みました。

 配下がわたしを止めようとしましたが、アガレスはアガレスらしくもなく、それを許したようです。

 わたしがアガレスを倒せるはずがない。配下たちもそう思っているのでしょう。


「姉上様のお気に入り、ベレトートルート。待っていた」

「あなたがわたしのことをまだ覚えていたとは、これは意外ですね。魔王イェレミア様の後継者を騙る不届き者、アガレス」


 彼は魔王様とは血の繋がりがありません。

 そんな男が後継者を名乗るなど、当然許されることではありませんでした。


「我は魔王イェレミアの意志を継ぐ者……」

「フフフ……何を言い出すかと思えば、魔王様の意志? 魔王様は不毛な争いを何よりも嫌いましたよ。付き合うのもかったるいと」


 わたしは誰よりも魔王様を知っている。魔王様の名声を悪用しようとする者からすれば、アガレスからすればわたしは都合の悪い存在です。


「多くは言わぬ。我らに服従しろ、ベレトートルート。従わねば、貴様の里を滅ぼす」

「お断りします。わたしはあなたと一緒に自滅する気はありません」


「ネコタン……ランド……」

「……はい?」


 アガレスの低い声からは場違いな言葉でした。

 こういった名前にしてしまったものは仕方ありませんが、やはりここぞという時に締まりません……。

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