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42-4 ネコは大手を振うそうです

 大口の買い物はタルトたちに任せて、わたしは旧市街を歩きました。

 ここはレゥムの街の貧民街です。その旧市街に再開発の兆しを見ることになるとは、わたしは予想もしていませんでした。


 これからのレゥムは、ギガスラインと冒険者たちの街というだけではなく、魔界との貿易の要所となることが既に見えています。

 恐らくはカスケード・ヒルとの通商が最も大きくなることでしょう。


 さておきわたしは道を進み、少し羽振りの良くなった旧市街を抜けると、大聖堂のある中央を目指しました。

 目当てはヘザーの花屋です。


「あっ、ネコだー!」

「おっきい! かわいい!」

「あっああっ、すみません兵隊さん、うちの子がご迷惑を……」


 道中、子供の注目を何度も浴びました。

 ネコヒト族は特に人間の子供を刺激する見た目のようで、子供たちに取り囲まれることすらありました。


「いいですか、わたしは猫ではありません。ネコヒトです。猫たちがわたしたちの真似をしているだけであって、元祖はネコヒトです。よく覚えておいて下さいね」

「ネコヒトさんは、猫の親戚ってこと?」


「いえ、全然違います。ネコヒトと猫は別の生き物です」


 子供に説明しても理解などされませんでした。

 別に構いません……。わたしの生涯の中で、もう一万回は繰り返したやりとりですから……。


 かくして子供と親御さんと別れると、わたしはヘザーの花屋をローブに身を隠さずに、堂々と正面玄関から訪ねました。


「ああっ、ネコちゃんっ!!」

「エレクトラム・ベルです」


「うんっ、久しぶりネコちゃん!」

「……まあ、一人くらい大きな子供がいても構いませんが」


 ヘザーはわたしを見るなり、こちらの目の前に飛び込んできました。

 この方には皮肉なんて効きません。わたしとの再会を心より喜んでくれていました。


「それでそれでっ、今日は何のご用っ!?」

「実はあなたに頼みがありまして」


「ほんとっ、また大口のお仕事くれるとかっ!? 喜んでやるよっ!」

「ええ、これからいつもの男衆たちが、種や農具の注文にくるので、その準備をしておいて下さい」


 いっそこのヘザーもうちの里に誘いたいくらいです。

 ただそこまでの縁があるわけでもなく、誘いにうなづくとも思えませんでした。


「大口の仕事キターッ! ネコちゃんはほんとっ、商売の招き猫だよね!」

「そしてそれが済んだら、わたしの買い物に付き合ってはくれませんか?」


 子供たちへのみやげを悩んでいると伝えると、彼女は喜んで応じてくれました。

 それから遅れて男衆がやってきて、必要な物を必要なだけ売ると、わたしとヘザーは店を閉めてバザー街へと向かうのでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 人でごった返すその場所には、いかにも魔界都市カスケード・ヒルから来た雰囲気の、少し柄の悪い連中まで店を開いていました。

 ついこの前まで迷宮の宝を巡って争っていたというのに、彼らの商魂たくましさにわたしも驚かされました。


「子供の喜ぶものかぁ……簡単なようで難しいよね、それ」

「はい。何せ大人は子供の気持ちなんてわかりませんからね」


「ふーん、昔は子供だったのにー?」

「でしたらあなたは、子供の頃の自分が何が好きだったか、具体的に覚えていますか?」


「お花!」

「……なるほど」


「あとね、カエルとかカタツムリも好きだったかな! クワガタとか!」

「……こっち側でしか手に入らない物が理想です」


 当時のヘザーが男の子と混じって、野山を走る姿が目に浮かびます。

 パティアがあのまま大きくなったら、こんな感じの女性になるのでしょうか……。


「うーん……だったら、あ、あそこで売ってる飴とかっ!? 小さくて軽くて保存も利くからおみやげには最適じゃない?」


 色取り取りの飴を、瓶詰めして売っている店がありました。

 物が物ですから、お値段も相応です。


「それは前に買って帰りました。手堅いとは思いますがね、最後の手段です」

「うーんそうかぁ……」


「まあ飴でもいいですね。飴が嫌いな子なんていませんし」

「じゃあ飴にしようよ! 飴なら私いい店知ってるよっ! あ、それと娘がいるんだっけ……?」


「わたし、そんな話しましたっけ?」

「したよ!」


 みんなのおみやげを買ってきてと言われた手前、パティアだけの何かを買うわけにもいきません。

 わたしとしては、ひいきしたいところでしたが。


「だからさ、少し値段張るけど、香水とかどう? リップとかもいいかなっ!」

「……はい? あの子に、香水とリップですか……?」


 リップを塗った娘を想像してみました。

 絶対に使いこなせません。ベリーが食べにくいからと、唇を拭ってしまう姿が見えます……。


「……いえ、パティアには背伸びなような気もしますね。少しどころではないほどに」

「そうかぁ、でもそうなると悩むなぁ……」


「すみません、わがままばかりで。……そうですね、やはりリップと香水にしましょう。なんだかそれはそれで微笑ましいので、ありかもしれません」


 パティアはともかく、年頃の女の子はとても喜ぶでしょう。

 小さな子や男の子は食い気の方が勝るでしょうしね。


「あ、あとガラス玉とかどう?」

「いいですね。では一通り、子供が喜びそうなおもちゃを買っていきましょうか」


 宝石をお弾きにするような里ですが、ガラス玉には宝石にはない美しさがあります。


「でも男の子が喜ぶようなのって、なんだろ……ううーん……」

「フフ……」


 香水を付けて、リップを塗ったうちの娘を想像してみるとつい笑ってしまいました。

 しかし考え直してみたところ、ちょっと男の子っぽく育て過ぎたような気がしてきます。

 いっそ色気付かせて、女の子らしい趣味を覚えさせてみるのもいいのでしょうか。


「どうしたのー?」

「いえ、なんでもありません。……ヘザーさえよければ、今度里に遊びに来て下さいね。ネコヒトとイヌヒトだらけですが」


「もちっ、喜んで行くよ! 店のことがあるから、難しいけどさー……そういうバカンスもいいよね!」


 魔族が大手を振るって人間の街を歩き、人間と騒がしく語り合う。

 こんな未来が来るとは、やはりわたしには夢や蜃気楼を見ているような気持ちになりました。


 今やこの西パナギウム所属レゥムは、救いようもないこの世界の可能性そのものです。

 わたしは自由にレゥムを歩ける幸せを満喫しました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



その少し後、パティアは――


 シスター・クークルスとの入浴を終えると、パティアは森で拾った野生の麦を手に、放牧地へと向かいました。

 魔界羊の好物なので、手渡しであげたかったそうです。


 それから太陽が魔界の暗雲に近づき、隠れ里に夕方が訪れました。

 クークルスはパティアのその後が気になったそうで、裁縫仕事の手を止めて放牧地に向かいました。


「あら……ふふふ……」


 すると放牧地の端に、パティアと魔界羊の姿を見つけました。

 ブロンドの愛らしい少女が、羊の毛皮を枕にして眠っていたそうなのです。


 午前に水遊びをして、その後結界の外にまで行って採集をして、勝手に里を広げた後ですから、疲れるのも当然です。


「うふふ……クーちゃんも、混ぜて下さいな~♪」


 シスター・クークルスいわく、しろぴよとピッコロは特に仲が良いそうです。

 しろぴよがピッコロの背に乗って、一生懸命小さなくちばしで馬の毛繕いをしている姿が見えました。


 それがとても気持ちいいらしく、ピッコロは嬉しそうないななきを何度も上げていたそうでした。

 ちなみにファゴットの方は他の魔界羊と一緒に、パティアを取り囲んでいたようです。


「本当に平和ですね、この里……。まるで、神様の作った楽園みたいです……」


 クークルスもパティアに寄り添って羊毛に顔を埋めると、急な眠気が訪れました。

 気持ちのいい夕方の風とふかふかの羊毛には、逆らいようがなかったそうでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 日が沈み、夕飯になっても帰ってこない二人を心配して、リセリとジアが放牧地を訪れました。

 するとそこには、親子にように仲睦まじく寄り添いあって眠る二人がいたそうです。


「こっちは心配してたのに、のん気なもんだなぁ……」

「うん……。ねぇ、なんだかクーさんって、パティアのお母さんみたいだよね……」


「それわかる。はぁ、私もこういうお母さんがよかったなー……クーさん超やさしいもん」

「うん……。私のお姉ちゃんも、来てくれるかな……」


「来るに決まってるよ。ジョグさんとしては、ママハハみたいなのが増えて、大変かもしれないけどね、あははっ!」

「お、お姉ちゃんはママハハなんかじゃないよ……っ」


 リセリ、タルトは必ず連れて帰りますのでご安心を。

 バーニィとジョグの立場がどうなるかも、なかなか見物でしょうね。


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