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42-1 旅の理由 - ビール半月分の情報 -

前章のあらすじ


 ネコヒトは大山猫のイリスと共に、カスケード・ヒルに買い出しに出かけた。

 一番の目当ては魔界羊。彼はグスタフ男爵と接触し、羊と新たなヒヌヒトの移民者たちを率いて、戦場となっていた森を秘策を用いて突破し、見事隠れ里へと帰還した。


 一方、バーニィは本当に節操がなかった。

 魔界羊のおっぱいとカールはどこかが似ていた。


 里にバターが供給され、放牧地が広がり、馬たちと魔界羊がイリスの介入で仲良くなった。

 また隠れ里の森にて、ヌルの前に白化病の青年が現れた。

 彼は蒼化病の真実性を告げると、力を欲するヌルに魔法を教えてくれた。


 日々が流れゆき、ついに酒飲みたち待望のビールが完成した。

 酒樽が開けられ、賑やかなひとときが過ぎてゆく。

 作詞作曲・グスタフ男爵によるパティアさん賛歌は、獣系魔族の中で大流行を始めていた。



 ・



――――――――――――――――――――――

 ネコはお節介に行くようです

  +しろぴよとパティアのなんでもない日常

――――――――――――――――――――――


42-1 旅の理由 - ビール半月分の情報 -


 わたしたち毛皮を持つ者たちにとって、真夏日は天敵です。

 昨日もパティアと一緒に過ごしたいがあまりに、多くのネコヒトとイヌヒトが熱中症に倒れました。


 おとなしく城や、森の日陰で過ごせと言われても、元気にお日様の下を駆けてゆくパティアを見ると、ついつい後ろを追ってしまうそうでした。

 魔界側と違って、こちらは天気がいいですから勝手がまだわかっていないのでしょう。


 逆に積雪が始まってしまえば、毛皮を持つ者と持たざる者の役割が反転します。

 なので夏休んだ分、寒い季節にわたしたちが、がんばればいいのです。

 そう伝えたら、そういう問題ではない。パティアさんの笑顔のためだと切り捨てられました。


 さて、前置きが長くなりました。

 今回の一件も、発端はクレイのもたらした情報からでした。

 どうやら外で情勢の変化が起きたようです。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「それは本当ですか?」

「本当にゃ。ビール半月分を賭けてもいいみゃ」


「ずいぶんな自信ですね」

「突破できない要塞に、いつまでも攻撃を続けるほどアガレスもバカじゃないみゃ」


 パナギウム王国側、南部ギガスラインから正統派が撤退した。

 クレイはわたしを見晴らし台に呼びつけて、重要な情報をもたらしてくれました。


「つまり今が遠征のチャンスということですか」

「そういうことみゃ。あっち側の物資を調達するなら、今のうちですみゃ」


「あなたは結界に閉ざされた里にいながら、どこからそういった情報をつかんでくるのでしょうね」

「にゃ、種明かししたらおまんまの食い上げみゃ。いくら大先輩でも、こればっかりは秘密みゃ」


 クレイが穏健派のサレと繋がっていることは既にわかっています。

 しかし結界の外側で戦争が行われているというのに、どうやって外部とやり取りしているのやら、どうにも気になってなりません。


「まあいいでしょう、深くは聞きません」

「そうして欲しいみゃ」


「ではクレイ、あらためて言いましょう。わたしはあなたを信用していますよ」

「みゃっ!? いきなり何言い出すにゃ!?」


「同胞として、これでもあなたの知略を買っているつもりです。これからもこの里のために、力を貸して下さい」

「ぅ……そうきたかみゃ。そういう返しが、一番困るみゃぁ……」


 今さらコレがシベットとパティアを裏切るとは思えません。

 わたしと同じ沼に落ちましたね、クレイ。


「しかしこの遠征、問題があるみゃ」

「はて、魔界側で何か異変でも?」


「そっちじゃないみゃ。ミゴーさんが青い顔して、政務で死ぬほど苦労してるとは聞いたけどみゃ~♪」

「アレの顔は元から青いでしょう……」


 仕事を投げ捨ててもおかしくないというのに、ミゴーなりにがんばっているとは意外です。

 あの暴れん坊が、巨体で政務に追われる姿を想像すると、笑ってしまいますがね。


「ミゴーさんは立派な人格破綻者(サイコパス)だけど、人に騙されるのが死ぬほど嫌いな人みゃ。そういうところが、わりと魔将に向いてたっぽいみゃ」

「フフフ……それが意外ですね。少なくとも良い為政者ではないでしょうが」


「組織が崩壊して、他のいけ好かない派閥に併合されるよりはマシだと、ミゴーさんの配下もミゴーさんで妥協するつもりみたいみゃ」

「妙な話ですね。それで、そのことがなんの問題なのですか?」


「これは脱線みゃ。一番の問題は、なんといっても! パティアのことみゃ。あの子になんて言って出かけるつもりにゃ?」

「もちろん、そのまま事実を伝えるつもりです」


 ギガスライン側の戦いが落ち着いたとはいえ、この仕事はわたしにしかできません。

 代わりが利かない以上は、行くしかないでしょう。


「あっちに行ってあんなことがあったのにかにゃ? パティアだけじゃなくて、みんなが心配すると思うみゃ」

「ですが行く他にないでしょう。バックアップは任せましたよ、クレイ」


「大先輩がいない間、本当に大変だったみゃ……。お節介はもう止めて、向こうで頼まれごとをされても、全部断ると約束してほしいみゃ……」

「ええ、そうしたいところですが、先の予定なんてわたしにはわかりませんよ」


 ときにリスクを冒した方がいいこともあります。

 あのとき、わたしがサラサールを倒すと決めなければ、人間の国々は仮に生き延びても、版図の半分以上を失ったことでしょう。


 そうなれば次にニュクスは、この里の人間を差し出せと言ってきたはずです。

 彼の信じる、種族の浄化という救済のために。

 ニュクス。あの日、魔界に逃げてきた哀れな少年。彼は今、どこで何をやっているのでしょうね……。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 それからすぐにわたしはパティアの姿を探しました。

 城の廊下に戻ると、そこにパティアと親しくしている女の子が通りがったので、わたしは声をかけました。


「パティアを知りませんか?」

「あ、エレクトラムさん! パティアなら、クークルスさんのところで、お裁縫を手伝ってます」


「フフフ、これはご丁寧に。助かりましたよ」

「あのっ、前みたいに、また触っても、いいですか……?」


「ええ、どうぞ」

「わーい! あっ、ふわふわ……やっぱりジョグさんとは全然違う……」


 蒼化病の子供を胸に抱いて、わたしはまたニュクスを思い出してしまいました。

 ニュクスはわたしがこの子たちを拾ったと聞いて、どう感じたのでしょうか。

 ずるいと嫉妬したのでしょうか。わたしが手を差し伸べれば、彼には別の人生があったのかもしれません。


「どうしたの、エレクトラムさん?」

「いえ、あなたを見ていたら古い友人を思い出しまして」


 ですがすみません、ニュクス。

 あの頃のわたしは、まだパティアとバーニィに出会っていませんでした。

 今は殺戮派を捨てたあなたの新しい人生が、よりよいものになっていると願うばかりです。


長らくお待たせてしてしまってすみません。

もしかしたら以降、週1更新くらいになるかもしれません。


色々と悔しいことが重なりまして、新作に力を入れて、気持ちを切り替えていかなくてはならなくなりました。

どうかご容赦下さい。新作、公開したらぜひ応援して下さい。

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