41-8 醸造所の酒樽を開けよう - パティアさん讃歌 -
「ボクも残念だよ、酔った彼をからかいたかったのにな」
「ならソイツを警戒されたのかもな。酔っぱらった俺とお前さんがそろったら、キシリールは俺たちの完全にオモチャだ」
とはいえじきに夕飯だ。飯を食いにきたところに、お姫さんに捕まるのが見えているな。
ネコヒトの話じゃ、パナギウムの方もなあなあでまとまったみてぇだし、姫も騎士も好きに生きたらいいんじゃねぇのかね。
「ミャ! 景気付けにクレイ、歌いますにゃ! 作詞作曲 ヘンリー・グスタフ男爵――パティアさん賛歌、どうかご静聴下さい、にゃ!」
パティア讃歌だと? いや、なんじゃこりゃ……?
しかしイヌヒト族とネコヒト族の間では、既に人気の一曲らしい。
よくわからんがべらぼうに盛り上がっていた……。
「パティアさんー最高だぁー!」
「パティアさんーおやさしいー!」
「パティアさんー大好きだぁー!」
「パティアさんー愛してるぅー!」
シュールだ……。イヌヒトとネコヒトの両方が、クレイの歌声に合わせて斉唱していた。
あの犬男爵、詩的センスの欠片もねぇな……。
「二番行くにゃ!」
「それ二番もあんのかよっ!?」
「わははっ、愉快愉快! 作詞があの男爵殿かと思うと、これは笑えるなっ!!」
ゾエ、ニャンニャンワンワンを煽るようなことを言うんじゃねぇ。
しかし二番もなんというか、お遊戯会レベルを越えるこたぁなかった。
「パティアさんーちっちゃいなー!」
ま、歳の割にちんちくりんだな。
「パティアさんー最強だにゃー!」
そうだな。あの性格で良かったとすら思うわ。
ネコヒトの努力の賜物でもあるだろう。
「パティアさんー撫でられたいなー!」
この部分だけ斉唱の音量が倍増した。
そうか、獣系魔族たちにとって、この歌は共感の塊なのか。
「パティアさんー愛してるぅー! 早くあいてぇー! にゃー!」
結局、男爵さんの魂の叫びじゃねーか……。
「盛り上がったところで、三番行きますにゃ!」
「まだ続くのかよっ!?」
「うふふー、私この歌好きです♪ 誰にでも歌えますし、明るくて楽しい気分になれますからー♪」
ま、それはあるかもしれんな。洗練された音楽ってのは、常人には合わせ難い部分があるもんだ。
その先の酒盛りは獣魔族のノリに流されて、ハチャメチャに賑やかに盛り上がっていった。
やがて飯時が来た。
いつもより豪華な肉料理がテーブルに並んで、酒を飲むやつ、飲まないやつが入り乱れて、とにかくみんなで派手に騒いだ。
今夜はバイオリンもリュートもねぇ。
木碗や陶器をスプーンで鳴らして、お上品とは言えねぇが、楽しいひとときが過ぎていった。
●◎(ΦωΦ)◎●
「リックちゃんが酔いつぶれるとか、こりゃ珍しいな……」
「うふふ……今ならおっぱい触り放題ですねー♪」
「い、いいのか……!?」
「はい、バーニィさんはダメですよ~♪」
だよなぁ……。
宴の席がたけなわとなると、リックちゃんがクーちゃんに介抱されているのを見つけた。
「なら我が輩が触ってあげようではないか、ワキワキ……」
「ゾエさんも、手つきがいやらしいからダメですよー? あらー?」
ゾエがやってきた。千鳥足でな……。
そいつが小瓶を取り出して、錠剤をクーちゃんに手渡した。
「我が輩愛用の胃腸薬だ。今度薬の合作でもしよう、シスター・クークルス!」
「あら準備がいいんですねー♪ ありがとうございます♪」
「準備の良さは錬金術師の命である。肝に銘じよっ!」
「はい、銘じますね~♪」
変人ゾエもそれなりにここの連中と打ち解けてるみたいだ。
さて、困ったな。宴がもう終わりかと思うと、急に眠くなってきやがった。
部屋まで戻るのは大変だからな、少しあの隅っこでしばらく横になるか……。
俺は少しだけのつもりで、食堂のちょいと汚れた地べたに寝転がった。
●◎(ΦωΦ)◎●
「ウサギさん、起きないとキスしちゃいますにゃー? あー、あとちょっと、あとちょっとで、唇と唇が……。みゃぁ、起きませんにゃー……」
なんか猫くせぇ……。
ほっといてくれよ、俺はここで寝る。
美味い酒を飲んだ床で寝れるなら、俺はそれでいい……。
そんでよ、朝目覚めたら、お祭りの終わりを実感すんだよ……。
「どうしたの、クレイ?」
「おやお二人さん。これ見て下さいにゃ」
「あ、バーニィさん……」
「なんだ、バーニィのおっさんかぁー。だらしねーなぁ……」
ん、なんか、カールとマドリちゃんの声がするような……。
「どうしましょうかにゃー」
「そうだね、三人でバーニィさん部屋まで運ぶ……?」
「けどよー、大酒飲んだおっさんはイビキうるせーし、パティアと一緒に寝かせるわけにはいかねーなー……。マドリ、うちで引き取ろうぜ」
「ぇ……い、いいの……? カールは嫌じゃないの……?」
「嫌も何も、その後に俺たちはパティアたちの部屋で寝ればいいじゃん」
よくわかんねぇけど、俺はここを動かねぇぞ……。
ここが気に入ったんだ、ここで寝る。最高に美味いビールの染み着いた床で寝れるなら、俺は本望だ……。
「じゃあ、向こうに着いたら私は残るよ……。たぶん、ラブレーも同じこと言うと思うから……」
「ふーん……こんなおっさんの、どこがいいんだろなー」
止めろ、俺はここで寝るんだ。
動かすな、どこに連れてゆくつもりだお前ら……。
ああ、城の外は、床よりヒンヤリしてて気持ちいいな……。
●◎(ΦωΦ)◎●
翌朝目覚めると、食堂の天上はそこになかった。
なんだろうか、左と右の両方の手に、何か重い物が乗っている。
「あ…………?」
左手に寝間着のマドリちゃんがいた。
右手にふかふかのラブ公がいた。
「…………ん、んん?」
記憶がねぇ……。
なんで俺、こんなところにいるんだ?
ま、まさか、いや、そんなはずがねぇ……何も、何も間違いは起こってないはずだ……。
「うっ……あた、あたた……」
つーか、飲み過ぎた……。
頭痛ぇ、こりゃ二日酔いだ。全身がダルいぞ……。
「ぁ……バーニィさん、おはようございます。昨日は、とても楽しかったです、僕」
「お、おう……あ痛っ……」
俺、なんでここにいるんだ……?
マドリちゃんはピッタリとくっついたまま、幸せそうに笑って、二度寝に入っていた。
酒、次はもう少しだけ自重しようか……。
マジで何が起きた、何が起きたんだ、この状況……。
ラブ公の毛はふかふかで、俺に二度寝をしろと誘っていた。
情報要請により、ストックの維持が難しくなっています。
そのため次回登校日を未定とさせて下さい。ごめんなさい。
GWが明ければ、作業場としている店が開くので、それからストックの確保に入る形になります。




