表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

417/443

41-7 白化病の青年

 靴を脱いで、冷たい湖で足を冷やしながら、僕は水面を眺めながらたそがれた。

 こんなことしていないで、みんなところに戻って、畑仕事を手伝うべきだ。


 けどそんな元気も出ない。

 イリスが魔界の獣を狩って、僕の手柄にする……。そんな毎日だった……。


 帰りたいけど帰る元気がない。

 イリスが迎えにきてくれたら帰れるのに。そんな他人任せの自分にも嫌になった。


 ところがその時、背中の森から足音が響いた。

 サボっているのがバレてしまった。いやよく考えたら、向こう側に潜んでいるのが魔界の怪物だったら、これは命の危機だった。


 焦りと共に背中側に振り返ると、僕はあまりの驚愕に後ずさって、湖へとお尻を漬けることになっていた。


「やぁ、こんなところで何をしているんだい?」

「だ、誰……っ!?」


 僕は警戒した。

 なぜならその人物は、肌も髪も真っ白で、人間にはとても見えない姿をしていたからだ。


 それと凄く綺麗な顔をしていた。

 だけどどこか冷たい印象のある青年で、言葉にできない不思議な雰囲気があった。


「僕は敵ではないよ。ベレトートルート・ハートホル・ペルバストの友達さ。フフフッ、ねこたんと呼んだ方が君にはわかりやすいかな……?」

「ぇ……エレクトラムさんの、知り合い……ですか?」


「そうだよ。とても古い友達だ。とてもね……」


 言葉を交わしてみると、穏やかでやさしそうな人だった。

 それでもどうしてか、冷たいというか、怖いという感情を抱く。

 いやそれより、この姿は、もしかして……。


「その肌、僕の病気に似ています……」

「これかい? これは病気ではないよ」


「え、じゃあ、自分で白く染めてるんですか……?」

「は、はははっ、そういう発想はなかったな。いいかいヌルくん、そもそも蒼化病も、この白化病も、病気ではないんだ」


 病気ではない。笑ってそう言ってくれる彼に、小さな好感を覚えずにはいられなかった。

 彼が言うと奇妙な説得力があって、信じたくなってしまった。


「それ、どういうことですか……?」

「信じられないと思うけど、人間も魔族も、元々は同じ種族だったのさ」


「え、う、嘘ですよそんなの……。だって、例えばネコヒトと僕たちじゃ、全く違う生き物ですよ!?」

「そうだね。でも長い月日を経れば、生物は別の姿に変われるのさ。そして君たちの肌が蒼く染まったのは、ご先祖様のどこかに魔族がいるからだよ」


 だったら、僕たちを迫害した人間が正しいってことになる……。

 僕たちを魔族に種を仕込まれた混血だと、酷いことを言うやつらがいた。そいつらが正しいなんて認められない……。


「その気持ちは痛いほどにわかるよ。迫害者の方が正しかったんだって、悔しく思っているんだろう? それは違うよ」

「ッッ……けど、でも、アイツら、酷いんだ……酷いんだよっ!! いつも挨拶を交わしていたお爺さんが、僕の肌が蒼く染まると、化け物だって言い放った! 肌の色が変わっただけで、僕を、人間扱いしてくれなくなったんだ!!」


 僕に魔族みたいな強い力があれば、復讐したと思う……。

 アイツらは、アイツらこそ化け物だ……。

 あんな人間、地上から全て消えてしまえばいい……。


「ぁ…………」


 憎しみに歪んだ僕を、彼は抱き寄せて、背中をさすってくれた。

 そうだ。僕は確かに人間に絶望した。でもバーニィさんたちは凄くやさしい。みんな尊敬できる人たちだ。


「昔の僕を見ているかのようだ。僕もね、その昔……いや、やっぱり本気で引かれそうだから、あの話は止めておこう」

「え……。もしかして、迫害したやつらに、仕返ししたんですか……?」


「違うよ。僕はただ救ってあげたんだ。僕は憎しみを捨てて、世界を救おうとしたのさ。まあとにかく、君の中の魔族の血が、君たちの肌を染め上げたのさ」

「そんなの、信じられれません……」


 僕は己の手を見つめて、邪悪なあいつらの意見こそが正しかった現実に苦悩した。

 仮に僕が魔族の血を引いていたからといって、それがなんなんだ。


 エレクトラムさんやリックさん、ラブレー、クレイさんみたいなやさしい人たちも沢山いるのに。


「ヌル、僕はね、人と魔族の二つに分かれた世界を、一つにしようとしたんだよ。この里のやり方とは、全く別の方法でね……」


 彼は抱擁を解くと、僕の肩に手を置いてそう言った。

 やさしいけど冷たい。それでいて、僕を震え上がらせる圧倒的な何かを持っていた。


「貴方は本当に、エレクトラムさんのお友達なんですよね……?」


 急に怖くなって、彼の手をふりほどいて湖に向かって後ずさった。

 するといきなり彼は指先を、僕から左手の岸辺を指す。


 魔法だ。指先に鋭い氷の矢が生まれて、それが奥の岸一帯を凍らせた。

 驚きのあまりに僕が湖から飛び出して、岸辺に腰を抜かしたのは情けないけど、誰だって当然のことだ。


「僕は弓も剣も教えられないけど、魔法なら教えてあげられる。君には魔法の才能があるよ。さすがに、魔王の生まれ変わりには及ばないけれどね……」

「本当ですか……? 才能、あるんですか僕?」


「少なくとも弓よりはずっとね」


 この人凄い……。この人に教われば、僕でも戦えるようになる……?

 もうみんなのお荷物は嫌だ。イリスの背に乗るには、もっと強い力が必要だ。


「お願いです、僕に教えて下さい! えっと――白い、お兄さん……?」

「フフフ、それって僕のことかい? うん、困ったな、自分の名前を考えていなかったか……」


「ええっ、自分の名前ですよ……?」

「うん、本名はとてもまずいんだ。そうだな、僕のことは、アポロとでも呼んでくれ。さて、では早速始めようか、ヌル」


 真っ白な肌の青年アポロに、僕は魔法を教わった。

 彼は厳しかったけど的確で、すぐに尊敬できる指導者だと僕に感じさせた。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「やった……やりました! 僕やりましたよっ、アポロさん!」

「素晴らしい。君は僕と同じで、氷の魔法が得意なようだね」


 僕はアイスボルトという下級の魔法を習得した。

 僕が舞い上がる姿に彼はまぶしそうに微笑んで、それから急にめまいでも覚えたのか、木の幹に上体を倒れ込ませた。


「えっ、だ、大丈夫ですかっ!?」

太陽(アポロ)という名前は、皮肉が利きすぎていたかな……。ごめん、僕は夏と日差しが苦手でね……そろそろ、おいとまさせていただくよ」


「で、でも、少し休んでいったら……」

「森の中なら大丈夫さ。また日をあらためて授業にくるよ、ヌル」


 心配する僕に笑いかけて、アポロは森の奥へと去っていった。

 すると待ちかまえていたかのように、イリスが入れ替わりで僕の前に戻ってきた。


「アオォォーッ♪」


 口にくわえた2匹の首狩りウサギを地に下ろして、甘えた声でイリスが鳴く。

 そんなイリスに、僕はアイスボルトを披露した。

 氷の矢が湖にぶつかって、水切りみたいに遙か彼方に飛んでゆく。


「ほらっ、これでもうイリスのお荷物にはならないよ! さあ、ウサギをみんなに届けたら、今度こそ一緒に狩りをしようよっ!」

「アォッ! アォォォォーッッ!!」


 僕はその日、初めて自分の手で獲物を狩った。

 向こうも生きるのに必死だけど、僕たちだって必死だ。命を殺める罪悪感よりも達成感の方が遙かに勝った。


 それにしてもアポロさん、少し怖い雰囲気の人だったけど、どこか寂しそうなところがあった。

 彼は僕たちの苦しみを深い部分まで理解してくれる、数少ない人だ。


 また会えるといいな……。

 いっそアポロさんも、この里で一緒に暮らしたらいいのに。

 今度会いに来てくれたときに、そう伝えてみようかな……。

宣伝

 超天才錬金術師2巻、ついに来週発売です。

 買って損のない一冊になっていますので、GWの暇つぶしにでも使ってやって下さい。

 ねこたんも書籍化したいです……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
[気になる点] ええ!!イリスの正体って… というか、あの人はブルたんじゃないのにパティアにメロメロなのか?
[一言] 魔法を使う白い山猫…うわあ解答出ちゃったよ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ