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41-6 苦悩するミゴーと少年ヌル

・嫌われ者


「う、ううっ……もう無理だ、明日にしてくれ……。なんでこの俺様が、こんなことしなきゃならねぇんだよっ、えぇっ!?」


 調子はどうだって聞かれたらよぉ、俺はこう答えるぜ……。

 うるせぇぶっ殺すぞテメェッ、最低に決まってるだろうがよぉっ!!


「今日中にお願いします。明日には明日の予定が入っています」

「ニュクス様ならこの程度の仕事、涼しい顔でさっと終わらせていましたよ。貴方の半分以下の時間で」


 口の減らねぇ野郎どもだ……。

 ぶっ殺してやりてぇけど、それもできねぇ……。


「俺はニュクスじゃねぇ! めんどくせぇ仕事押し付けんじゃねぇ、ぶっ殺すぞ!!」

「なら適当に判を押して、終わらせてしまえばいいのです」


「アホが! 俺たちを騙くらかそうとしてる書類が、こん中に混じり込んでるかもしんねぇだろがよっ!」

「一応、そういった書類はこちらで跳ねているつもりですが」


「うっせぇ! 俺はな、人に出し抜かれるのが大嫌いなんだよっ!!」


 俺には敵が多い。今日まで散々、人の恨みを買ってきたからだ。

 そしてそれは俺が殺戮派の長になっても変わらねぇ。やつらは手を結んで、必ず俺を破滅させようとする。


 ついこの前までは良かった。

 絶対に誰も逆らえねぇニュクスの大将が、俺の後ろ盾だった。


 だがそのニュクスが消えた!

 そんで俺の天下が来て、クソみたいな面倒事だけが残った! ニュクスは頭おかしかったけどよ、俺にとって理想的な大将だった!


「そういった性格は、支配者向きだと思います」

「ある意味、貴方はニュクス様の後継者に、最も相応しい方なのかもしれません」

「うるせぇ! アイツがよ、んなこと考えてるわけねぇだろがっ!! ニュクスの野郎は全部を投げ捨てて、俺たちの前から姿くらましやがったんだからよぉっ!!」


 これはただ判を押すだけの仕事だ……。

 だが俺様を追い落とそうとする、バカの目論見が混じってるかもしれねぇ……。


 ただ一つの救いはこいつらだった……。

 俺はニュクスの宮殿の主となり、蒼化病を煩った使用人たちに囲まれる生活を始めた。


 言っとくが毎日じゃねぇぞ! 承認が滞ると好き勝手やるやつが出てくるからよぉ、前線から戻るたびに、しょうがなくニュクスの尻拭いをしてんだよ!


「ぐぁ……眠い……。この砂時計がなくなるまで、休ませてくれ……」

「いえ、最低限ここまでは判をいただかないと困ります」


 俺は頭を抱えて、俺には小さい書斎にうずくまった。

 一匹狼を続けてきた自分には、信用できる仲間がいない……。


 新しい軍団長ミゴーに媚びるやつは山ほどいるが、いざこいつが裏切るかもしれないと思うと、どうしても頼れねぇ……。


 ニュクスが残した、こいつらだけが俺の頼みの綱だった……。

 こいつらはニュクスに大恩がある。ニュクスの言葉を守って俺に従っている。だから裏切らないと信じられる……。


「う、ううっ、うぁぁぁぁ……なんで、なんでこうなった……。なんでだ……」


 俺には裏切らない宰相が必要だった……。

 だが、俺は嫌われ者のミゴーだ……。


 俺の元々の取り巻きは戦いにしか能のないバカばかりだ……。

 認めねぇ……。今日までのツケを払わされているなんて、俺は絶対に認めねぇ……。


「頭を抱えていないで、仕事をして下さい。貴方はニュクス様に命じられて、そこにいるのです」

「それとも、全て私たちに任せますか?」

「いや、テメェらは裏切らねぇ……それは確信している……。だが、世の中には汚ねぇ野郎が山ほどいるんだ! それをテメェらが見分けられるのかよっ!? 油断したらよ、俺たち身包み剥がれてぶっ殺されるかもしれねぇぞ!?」


 だから俺は、一枚一枚の書類をしっかりと確認して、怪しい物を棄却しなきゃならなかった……。


「その強烈な猜疑心、やはり独裁者としては理想的です」

「貴方ならニュクス様の代わりになれます」


 俺はニュクスに守られていた……。

 そのニュクスは軽薄で恩知らずの俺を、度量一つで使いこなした。


 裏切られることを承知で、誰かを信用しなければ、成り立たねぇのか、この世界は……。


「俺は裏切り者だ……。長老を、恩師を、仲間だって平気で裏切ってきた……。ああ、やっぱダメだ、誰も信用なんてできねぇ!」


 裏切り者に忠義を尽くすやつなんていねぇ……。

 だから俺は書類を一つ一つを吟味して、慎重に判を押していった……。

 恨むぜ、本気で恨むぜ、ニュクスの大将よ……。



●◎(ΦωΦ)◎●



・蒼化病の少年


 イリスに跨がり、僕は森を駆けていた。

 どういうわけかイリスは僕の隣を離れない。


 ときどき姿をくらます時もあったが、何をするのも一緒だった。

 イリスからしたら、僕は森で拾った可哀想な子供なのかもしれない。


「どうしたの? ぁ……っ」


 イリスが急に立ち止まった。

 不思議に思った僕は辺りを見回してみると、森の奥に首狩りウサギの姿があった。


 見た目はかわいいけど、とてつもなく危険な魔獣だと教わった。

 僕はその凶暴なウサギに弓を向けて、矢をつがえた。引き絞り、外さないように慎重に狙いを定めてから、放つ。


「あ……!?」

「アオォォ……」


 また外してしまっていた……。

 せっかくバーニィさんにわがままを言って作ってもらったのに、これじゃ宝の持ち腐れだ……。


 弦の作成者のゾエさんによると、最高の出来上がりだそうだった……。

 僕が落ち込む間もなく、首狩りウサギがイリスの姿に驚いて逃げ出すと、追撃が始まった。


「ガウッッ! ……アォォーッッ♪」

「イリス、お疲れさま……」


 首狩りウサギの反撃をパンチ一発で叩きふせて、イリスはたった一噛みで狩猟を済ませていた。

 それから背中の上の僕に、絶命したウサギを差し出す。それを僕は受け取って、背中のリュックに押し込んだ。


「ねぇ、イリス……。僕って、ここにいる必要ある……?」

「アオッ♪」


 あると、イリスは肯定してくれた。

 けど僕は背中に乗っているだけだ。イリスの動きを鈍らせる邪魔な重りでしかなかった。


 それでも僕は、受け入れてくれたみんなの役に立ちたかった。

 カールは僕と同い年くらいなのに大工仕事ができて、剣もそれなりに使える。


 対する僕はただの役立たずだ……。

 せめて弓くらいはと思ったのに、撃てど撃てどまったく当たらない……。

 才能ないのかな……。


「はぁ……」

「アォォォー……アォ、アォォ……?」


 僕のため息に反応して、イリスがやさしい目と声で慰めてくれた。

 イリスからすれば、僕はやっぱり、森で拾った捨て子のような存在なのだろうか……。

 とても対等な関係とは言えなかった……。


「わっ、イリスッ、今度はどこに行くのっ!?」


 すると何を考えたのか、イリスは僕を湖に連れて行った。

 そしてかと思えば、森の奥へと一目散に姿をくらましていた。


 狩りに下手くそな弓使いは要らないってことなのだろうか……。

 とうとう僕はイリスにまで、見捨てられてしまったようだった……。


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