41-4 続・秘密の水浴び - サメの話 -
「サメとか……いないですよね……?」
「サメって、なんだ?」
「本で読んだんです。海には、人を喰う魚がいるって……」
「マジか……いや、相手魚だろ?」
「でも、人間の二倍の体長を持ったやつもいるそうですよ……?」
「そりゃ、そりゃまたでけぇな……。けどよー、そんなでけぇやつだったらよ、そもそもこの湖に住めねぇだろ。このへん淡水だしよー?」
たぶん、湖の底の方に海水の層があるんだ。
その近くに釣り針を下ろすと海の魚が釣れる。僕はそう考えている。
「サメ……出たらやっつけて下さいね……? 背ビレが発達していて、それが海面に姿を現すそうですから……」
「なら安心しろ。長らくここで釣り人やってるが、そんなもん見たことねぇよ」
バーニィさんの言葉に安心して、僕は湖の奥に入った。
僕のお腹の辺りの深さまでやってくると、バーニィさんが立ち止まる。
約束を守って、バーニィさんは手を離さなかった。
「冷たくて気持ちいいですね……。はぁ……こんなことなら、もっと早く入るべきでした……」
「そこは立場上しょうがねぇだろな。……しかしサメ、か」
「さ、サメの話は止めて下さい……」
「いや、サメって美味いのかねぇ? デカいってことは、それだけ食料になるってことだろ?」
そうだった。バーニィさんはとても強いんだった。
バーニィさんならサメなんて素手でやっつけてくれる。
「特に美味しいとは書かれていなかったので、たぶん……そういう魚は不味いと思いますよ……?」
「そうか、でかいワイルドボアは美味いのにな。うしっ、そいじゃ、まずは浮く練習だ。俺が支えてやるからよ、ちょっとやってみな」
「はい……お願いしま――ひぁっ?!」
バーニィさんが僕を水面の上でうつ伏せにさせて、僕のお腹と胸に触った。
「変な声上げんなよ、セクハラしてるみてぇじゃねぇか」
「す、すみません……」
せっかくクークルスさんが水着を作ってくれたんだから、泳げるようになりたい。
ちゃんと報告できるように、集中しなきゃ……。
「どうだ?」
「し、沈みます……」
「そりゃそうだ。もっと両手両足を伸ばせ」
「膝をあまり曲げずに足を上下させるといいぞ」
バーニィさんの言葉通りにやってみた。
まだ下から支えられながらだけど、僕の身体が浮き始めた。
「ひっ、ひうぁっ!? そ、そこはダメ……バーニィさん……っ」
胴体と両足の付け根を支えられた。下から……。
「変な声上げんなよ……んじゃ手ぇ離すか?」
「それはもっとダメですっ!」
「ははは、んじゃもうちょいがんばれ。なかなか筋がいいぞ、マドリちゃんは模範的だな」
「本当ですかっ!? 僕、がんばります……っ。はぁっはぁっ、ん、ぷぁぁっ……」
少しずつ慣れていった。
少しずつバーニィさんの支える力が減っていって、最後は指だけで僕のお腹を持ち上げるだけになった。
やがてそれが取り払われた。僕は沈まず、それどころか支えがなくなると前に進み出す。
「わっわっ、止めて、下さい、バーニィさんっ……」
「はははっ、泳げてるじゃねぇか!」
「ま、曲がれないんですっ、あっあっ、深いところいっちゃう……っ」
「そりゃ大変だな」
すぐにバーニィさんが僕に追い付いて、僕を岸の方に誘導してくれた。
あ、危なかった……。後少しで、足が付かずに溺れてしまっていたかもしれない……。
「はぁっはぁっはぁっ、はぁぁっ……。ああすると、前に進むんですね……。ビックリしました……」
「んなの当たり前だろ。要領はいいんだけどマドリちゃんは不器用っていうかよ、お前さんなかなか面白い生徒だぜ」
「どうやったら曲がれるんですか……?」
「曲がりたい方向に身体をちょいと曲げてよ、足の動きも――いや、めんどくせぇ、とにかく実践あるのみだ!」
「え、ええっ!?」
僕はもう一度、バーニィさんに身体を下から支えられて、あちこちを触られた。
それから針路を湖の奥ではなく、岸にそってのコースを泳いでみると、ちょっとずつ曲がり方がわかってきた。
バーニィさんが見せてくれた通りに、見よう見まねで僕はがんばった。
「ふぅ、ふぅ……疲れました……」
「あ、いけね……」
「え、どうかしましたか?」
「いや、マドリちゃんとキャッキャウフフと遊ぶつもりが、ガチで泳ぎの練習させてたわ……。これ、息抜きになってるか?」
「なってます。バーニィさんのおかげで、泳げるようになれました。楽しいです!」
「おう……嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。やっぱ反則だぜ……」
バーニィさんがまぶしそうに僕を見た。
真夏の日差しに水面が照らされて、ただキラキラとしていたせいだったとしたら残念だ。
「もっと教えて下さい。バーニィさんのやってる、あの速い泳ぎ方も知りたいです」
「いいぜ。ただその前によ、岸で少し休んだらな」
「それは、恥ずかしいです……」
「いいから弁当食おうぜ。リックちゃんがよ、リードを頼むって持たせてくれたやつだ」
最初は水辺で軽くはしゃぐつもりが、気づけば夢中で泳ぎの練習をしていた。
バーニィさんと僕は岸に上がって、弁当をつつきながら温かな真夏の森と湖を眺めた。
楽しかった。今日みたいな楽しい日がもっと続けばいい。
今度は僕からバーニィさんを水遊びに誘おう。
二人で語り合ったり、泳いだり、ゆっくり釣りをしてみたり、そんな幸せな余暇が過ぎていった。
●◎(ΦωΦ)◎●
「釣りなら、バーニィさんがお爺ちゃんになってもできますね」
「マドリちゃん……頼む、老後を連想させる話題は勘弁してくれ……」
残念だ。僕が女の子ならバーニィさんと結婚して、子孫を残せたのに。
超天才錬金術師一巻が、今だけKindleアンリミテッドでお得に読めます。
2巻も4月30日に出ますので、ぜひ読みにきて下さい。
2020/04/13
また誤投稿していたので修正しました……。
分割を間違えていたので、前回のエピソードの半分を削除しました。ごめんなさい!
次回はパティアともふもふたちの明るいエピソードになります。本当にうっかりが多くてごめんなさい!




