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41-4 続・秘密の水浴び - 水着 -

41-4 続・秘密の水浴び


「ついたぜ」


 バーニィさんと夢中でお喋りしていたら、もう湖の反対側に到着してしまっていた。

 なんだか凄く名残惜しい。

 水浴びなんかよりも、すぐそこの木陰でゆっくりと話の続きをしたい気分だった。


「なかなか悪くないだろ? さあ行こうぜ」


 そんな僕の手をバーニィさんが力強く引く。

 僕は新しい物事に挑戦するのを、苦手としている面があるのかもしれない。

 いかにも冷たそうな水面を見つめて、やっぱり水浴びなんて止めようかと本気で迷った。


「わっ……!?」

「はははっ、何変な声上げてんだよ。脱がなきゃ入れねーだろ?」


 バーニィさんがいきなり上着を脱ぎ捨てた。


「そ、そうなのですが……いきなりだと、同性でも驚きます……」

「ふーん、そういうもんかね? ん、今日の湖はなかなかあったけぇ方だぜ」


 僕にはない逞しい体躯が現れた。

 上着の次は子供みたいに靴まで蹴り捨てて、一直線に湖へと足を浸けていた。


「本当ですか……? でも、やっぱり脱ぐのは、僕、抵抗が……。ぅぅっ、とても恥ずかしいです……」

「ははは、男同士なんだからあんま気にすんなよ。あ、そっちが恥ずかしいなら、俺も全部脱ぐか?」


「……え? な、ななっ、それって、どういう理屈なんですか?!」

「マドリちゃんの場合、ドレス脱いだら肌着とパンツだけだろ? ならおっさんもズボンなんてはいてらんねーな、っとよ!」


「うわ……」


 バーニィさんがパージした。

 重装備を身に付ける仕事に就いていただけあって、足腰の方も鍛え上がっていた。


 リックさんとベレトさんの影にかすみがちだけど、バーニィさんもまた最強格だ。

 僕とは体格がまるで違っていた……。


「そ、それなんですけど……。相談したら、水着を作ってくれました……。クークルスさんが」

「マジで?」


「はい……。僕、着替えた方がいいでしょうか……?」

「クーちゃん、グッジョブだぜ……。着替えようっ、着替えるべきだっ、せっかく作ってくれた水着だ、ありがたく着替えようぜ!」


 青い空をバーニィさんが見上げたので、僕もつられて天を仰いだ。

 半分は魔界の暗雲、もう半分は快晴の不思議な世界がここにある。


 健康的な日差しが降り注ぎ、青い木々が気持ちよさそうに木の葉をそよがせていた。


「頼む。マドリちゃんの水着を俺に見せてくれっっ!!」

「あ、はい……。着替えてきますね……」


 細かな砂浜となっていた岸辺から、僕は森の中に引き返した。

 それから僕は、僕を偽るドレスに手をかける。


 ウィッグを取り外して、そろそろ髪も伸びてきたのでこれもいらなくなるなと、どうでもいいことを考えた。


 いきなり髪が短くなったら……。

 やさしいクークルスさんが作ってくた水着姿を見たら――バーニィさんはどう思うだろうか。


 それと全然関係ないけどあの岸辺の砂、あれは石が削り取られてできたものだと思う。

 でもこの湖に波なんてない。あの砂、どこからやってきたのだろう。


 やはりここの湖は、海と呼ばれる世界と繋がっているのだろうか。

 この湖の底がどうなっているのか、いつか見てみたい。


「おーい、まだかー? おっさんもう待ち切れねぇぞ。よし、手伝うかっ!?」

「へ……い、いやっ、いいですっいらないですっ、そういうのっっ!」


 慌てて水着の肩紐を通して、のぞかれるくらいなら自分で行くと僕は元の岸辺に戻った。

 そうすると、バーニィさんの目がすぐに見開かれていた。


「ぬわはああああっっ!?」

「えっえっ、へ、変ですか……っ? だって、しょうがないじゃないですか……お、男ですって、言うわけにもいかないですし……!!」


 クークルスさんはこの水着のことをワンピースと言っていた。

 貴重なスパイダーシルクを使って、薄手で着心地のいい水着を作ってくれた。

 これなら混浴の時間でも、城のお風呂にどうにか入れるかもしれない。


「あーそうか、そうだった、クーちゃんは知らないんだったな……。いや、これは、クーちゃん……よくやった、クーちゃんさすがだぜ……! ありがとう、クーちゃん……」

「はい、僕もあの方は天才の域だと思います。けど……そんなに見ないで下さい、恥ずかしいですよ……」


 急ぎだったのでスパイダーシルクの脱色はしなかった。

 濃いグレーの配色がバーニィさんを刺激した。そんな気がした。


「似合ってるぜ。怖いくらい似合ってるぜ、反則だぜマドリちゃん!」

「ほ、本当ですかっ!? 嬉しいけど、でも、少し複雑です……」


「ま、ネコヒトの野郎が見たら、ひっくり返るかもわかんねぇな! だがまあ、この際もういいだろ、開き直っちまおうぜ!」


 バーニィさんが手を差し出した。

 僕はその大きな手に、恐る恐る自分のもの差し出して軽く結んだ。


「さあマドリちゃん、遊ぼうぜ!」

「きゃっ!?」


 バーニィさんの性格からして、そうなる気がしていた。

 彼は強引に僕の手を引いて、倒れそうになった僕の肩をもう片手で支えた。


「変装のストレスたまってんだろ、発散しようぜ。ていうかあの髪、付け毛だったんだな……」

「はい。でもだいぶ伸びてきましたから、髪を切ったことにすればこのままでも……大丈夫でしょうか?」


「ああ、涼しげでいいと思うぜ。あ、そういやよ、マドリちゃんは泳げるのか?」

「それは……」


 軽く水に浸かったり、カールたちがしたように水を掛け合うくらいの遊びならできる。

 というより最初はそのつもりでいた。


「ないっぽいな。水が怖そうにしてたもんな」

「怖いってほどじゃないですけど、泳いだことはありません……。やってみたかったんですけど、危ないからダメだって父上が……」


 父上からすれば、世継ぎのリード・アルマドを、不慮の事故で失うリスクすらかけたくなかったのだろう。

 僕たち一族は長寿で高い魔力を持つ反面、子供があまり産まれない。


 目に見えない天秤が世界のバランスを取っているのだと、父上が言っていた。

 今ならそれもわかる。寿命と生存能力の両方を持った生き物は、増えすぎてはいけないのだ。


「ん……んじゃちょいと練習してみるか? ほら、手握っておいてやるからこっちこい」

「あ……。あの、バーニィさん……」


「お、どうした?」

「手、離さないで下さい……思ったより、怖い……」


「おいおい、それも反則だろ……。大丈夫だ、おっさんが守ってやるから安心しな」


 どうしてみんなこの湖で泳げるのだろう。

 海の魚が現れる湖で、カールとパティアなんて湖の中央に泳いで行こうとする。


 怖くないのだろうか……。

 水中の下に、僕たちの知らない怪物がいて、気づいたら足に噛み付いてくるかもしれないのに……。


先日は誤投稿してしまってごめんなさい!


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