41-1 醸造所を作ろう
前章のあらすじ
パティアさんに会いたい。ヘンリー・グスタフ男爵は気を揉んでいた。
そこに突然ネコヒトとイリスが現れて、物資の調達を依頼した。
詳細は廃品の鉄とガラス。魔界羊。ホップとビール酵母。農具と工具。男爵はこの依頼を受けた。
その二日後、里の東部結界前にパティアたちの姿があった。
パティアがオールワイドの術を発動させると、里の結界が部分的に拡張される。
これにより付近に待機していたネコヒトたち物資調達班と、合流することになった。
パティアは興奮した。魔界羊の巨大さともふもふっぷりに。男爵も待望のパティアに腹を撫でてもらえて、表現しかねるほどにご満悦だった。
かくして物資が調達され、里の開拓が新境地に入ってゆくのだった。
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醸造所と、人間が住むにはいささか小さな家々
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41-1 醸造所を作ろう
・ウサギさん
パティ公を一人にしたくないだろうに、ネコヒトの野郎が危険を冒して、カスケードヒルから物資を調達してきてくれた。
なら俺たちは、そのがんばりに報いるしかないだろう。
んなわけでよ、必要物資が調達されたことにより、今日より手分けして動き出すことになった。
しっかしまた移民が増えやがったか……。
あ、いや、嫌ってわけじゃねぇ。
ただ人が増えると、それだけ何もかも入り用になるからな……。
戦争からの疎開が目当てとはいえ、ペースが速すぎる。
また70人も人口が増えた。猫と一緒にワンコまでやってきた。
ネコタンランドはざっと計算して、500人の村となっていた。
でよ、今、里の南にとある区画を作っている。
それはネコヒトの民のための特別区画だ。
平たく言えば、ネコヒト族のためのミニチュアサイズの住宅街だな。
やつらはどいつもこいつも、パティアのいる古城で生活したがるが、こうも移民が増えてゆくと、古城も少し手狭になってくる。
さらに増える可能性を想定すると、住宅街の建造は急務だ。
まあミニチュアサイズなら、材木の消費や労力を抑えられるって事情もある。
ついでに加えるなら、俺たち人間より小さな家で暮らす連中がいると、なんかそんだけで、里の町並みがおもしろくなる気がするじゃねぇか。
その工員はもちろんネコヒト族だ。
夏場のやつらは昼間は寝て過ごして、涼しい早朝と夕方以降に働く。
そいつらを俺が指揮して、ちょっと小さな町を作ってるってわけだ。
で、こっちが本題だ。
ネコヒト族が寝ている昼間は、醸造所作りの現場に俺は加わっていた。
こっちの工員は、そう、酔っぱらいどもだ。
「おう、あっちが落ち着いたからきたぜ。どんなもんだ?」
「おやウサギさん、相変わらず、ムダに働き者ですニャー」
酔っぱらいの代表格と言えば、ネコヒト族の変わり者、泥猫ことクレイの野郎だ。
「お前さんこそ、似合わねぇ努力してくれるじゃねぇか。暑いなら城に引っ込んでもいいんだぜ?」
「論外ですニャ」
「いいかね、ウサギくん。我々は酒がなければ生きてはいけないのだよっ!! 一日でも早く、自給できるようにしなければ、心が死んでしまうではないかね!?」
酒は嗜好品だ。飲めなくても別に死にやしねぇ。
飲めないのは、やっぱ辛れぇけどな……。
そんなわけでよ、酒を飲みたかったら、酔っぱらい同士で力を合わせるしかなかった。
「バカをやっていないで、手伝え、バニー」
「俺は一応監督役なんだけどな。よっと……」
小さい建物じゃ温度管理ができねぇ。
それに夏に仕込むなら、気温の落ち着いた地下倉庫が必要だ。
そこで俺たちはまず地面をスコップやクワで掘り、地下空間を作る作業から着手している。
これがなかなか簡単じゃない。大量の土を掘り返して、地下空間を建物として形にしようっていうんだからな。
俺はリックちゃんと一緒になって、これから地下室となる広い陥没を広げていった。
「こんなものでしょうか。タルなんて作るの、子供の頃以来ですよ」
「だが俺たちの作ったタルで、美味いビールができると思うと、なかなかこの仕事は熱いな」
「ミャーもとってもわかりますニャー♪」
パウルとハンスが意気投合して、クレイがそこに加わった。
酔っぱらい同士で同盟みたいなやつが結成されていた。
酒気を逃がさない、密閉度の高いタル作りも重要だ。
酒気が弱かったら、もうそれはただの苦いジュースだ。
俺たち酔っぱらいどもは、こうしてのんびりと、残り少ない酒の備蓄を念頭に、醸造所作りを進めていった。
「ミャー……やっぱり、日陰でゆっくりさせてもらいますニャ……」
「おうそうしとけ。お前さんは十分がんばったぜ」
「そうしますニャ……」
地下室だけでも先に作ってしまえば、タルに小麦とホップ、麦汁を加えて、ここに保管するだけだ。
その後に上の設備を完成させればいい。とにかく、酒を仕込んで、酒を保管する場所を急いで作らなきゃならない。
城で仕込むという計画も考えたが、城で酒を仕込むなと叱られた。
外に醸造所があった方が効率的なので、まあ反論はあったがこうすることにしたんだ。
なのでまずは雨を防げる地下室と、酒樽だ。
酒樽を沢山作って、沢山仕込む。そうしたら、俺たちの人生はバラ色だ。猫生も混じるが。
「バニー」
「ん、どうしたリックちゃん?」
ひたすら掘って掘ってほりまくってると、リックちゃんに声をかけられた。
リックちゃんには珍しい、自然体の笑顔だ。
「これは、意外に楽しいな。ビールが完成したら、二人で乾杯しよう」
「ああ、わかるぜ。お、そうだ。いっそ風呂で一杯やるか?」
「はぁっ……。調子に乗るな、このスケベめ……。お前は、誰にだって、調子がいい……」
遠回しに女ったらしだって言われちまった。
軽薄で悪いな。だがこれが俺だ。もう偽る気はない。
「ならばその役、我が輩が変わってやろう。エッヘン!」
「いや、お前さん相手は遠慮しとくわ……」
ゾエが風呂場で一緒に飲んでくれるそうだ。
だが丁重に断りたい。
「待ちたまえウサギくんっ、なぜ、なにゆえに、我が輩には興奮しないのかね、キミィィッ!?」
「なんでって、そりゃ……そうだな……。同類を見ているような、妙な気分になるからかね……?」
「酷い! 君ごときと同レベルなのかね、我が輩は!?」
「いやお前さんの方がハイレベルではあるぜ。てか、いいからよ、酒飲みたいならその手を動かせよ……」
酒が少なくて困ってるっていのに、酒が入ってるみたいな明るい集まりだった。
あとどれくらいかかるかな。早く仕込んで、寝かせて、みんなで夜を騒ぎてぇわ。
「ミャ……ちょっとだけ、おやすみするニャ……」
「おいクレイ、こんなところで寝るな。ったく、ちょっとこのニャンコを城に戻してくるわ」
クレイの軽い体をおぶって、俺は古城に戻った。
ただそれだけで暑苦しい。
「ミャーが女だったら、ウサギさんにベタ惚れするところニャァ……」
「おう、お前さんが雄猫で助かったわ」
醸造所の完成にはまだかかりそうだ。
それにあんなでけぇ羊が4頭もきたんだ。
放牧地の方も広げなきゃならんしな、忙しいなんてもんじゃねぇぜ……。
いや噂には聞いていたが、魔界の羊はいくらなんでもデカ過ぎだろうが……。
羊毛に包まれているせいもあるだろうが、総面積で馬よりもデカく見える。
だが、何よりも酒こそが最優先だ。そこは譲れねぇ。俺とリックちゃんは掘って掘って掘りまくっていった。
投稿の順番が間違っていたので差し替えました。
ごめんなさい!




