表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
406/443

40-1 会いてぇ……ああ、パティアさんに会いてぇ…… - 会いてぇ -

「断る! 戦場のド真ん中を突っ切れとか、そんなもんは商人の仕事じゃねぇ!」

「フフフ……そうですか。さて、今回はプランが4つあるそうでして」


 人を見透かすようにネコ野郎が笑いやがった。

 その尻尾を小さく揺らして、俺は依頼を受けること前提で話を進めた。舐めやがって!


 最初からそのつもりだったが、やっぱコイツは気にいらねぇ!


「人の話を聞けやっ! こっちは断るって、言ってんだろがよっ!!」

「はて、パティアにもう会いたくないのですか?」


「会いてぇっっ!!」

「では頼まれてくれますね?」


 会いてぇ……一秒でも早く会いてぇ、パティアさん、パティアさん……っ。

 パティアさんの笑顔のためなら、俺は、俺は……!


「ちっ……しょうがねぇな! てめぇの頼みなんぞ聞きたくねぇが、パティアさんっ! がお喜びになられる話なら、特別に聞いてやらぁっ!」


 やったぜ、これでパティアさんに会える!

 パティアさんに会えるならなんだってするぜ、俺はよぉ! ああパティアさんっ、俺のパティアさん!


「アォォ~?」

「不思議そうですね。ですが男爵はこういう方なのですよ、イリス」


 しかしよく見ると、この大山猫もなかなか悪くない……。

 ネコ野郎は例外として、ニャンニャンに悪い子はいない。後で触っても構わないだろうか……。撫で撫でしてぇ……。


「はっ、よろしくな、イリス!」

「アォッ♪」


 ちくしょぅ、俺のバカ野郎。もうちょっとやさしく言ってもいいじゃねぇか!

 なんでこんなことができねぇんだよ!


「では話を戻します。プラン1、里の放牧地で羊を飼育したいので、まずは魔界羊を一頭手配して下さい」

「パティアさんに羊のミルクに毛皮かっ、悪くねぇ! よしわかった! なら若くて乳の出がいい魔界羊を、4頭ほど確保してやる!」


「いえ、4頭となるとこちらは予算オーバーなのですが」

「別にテメェのためじゃねぇ! パティアすわぁんっ、のためだ! 一匹じゃパティアさんがミルクを楽しめねぇだろがっ!」


「おやそうですか」


 またあの目だ。このネコ野郎は、いつだってこっちを見透かしてくる。

 だから嫌いだ。歳取ってんのはテメェだけじゃねぇぞ。


「ですがこれでは、あなたに貸しばかり作るようで、尻尾の付け根がぞわぞわしてきますね」

「やっと自分の立場がわかったかよ。テメェらは、俺がいなけりゃ物資の調達にすら困る立場だ! よーくわかっただろうネコ野郎が!」


 ネコ野郎に貸しを作るのは気分がいい。

 だがそれだけじゃない。あの隠れ里はまだまだ育つ。俺はその成長を見届けたい。


 それにバーニィ・ゴライアス、あの男は面白い。アイツの夢を見届けるのも悪くねぇ。


「では、報酬としてこれを差し上げましょう」

「ん、なんだそりゃ……宝石か。んん、見慣れねぇやつだな……」


 仰々しく考える素振りをしてから、ネコ野郎が俺に妙な石を押しつけてきた。

 それから窓際に立ち、カーテンを引くと日光が石を照らした。俺の目の前で、石の色合いが変わってゆく……。


「これは、まさか、アレキサンドライトか……!」

「ご名答です。オオガラスがパティアの人形を盗む事件がありましてね、その巣から拾ったものですね」


 俺はつい硬直していた。

 その宝石は色彩を変えるその特色と、極端な希少性から、文字通り桁違いの価値を持つやつだ……。


 それに今は穏健派が西パナギウム王国と結んだご時世だ。

 人間の王朝や富豪に売れば、さらに価値が膨れ上がることになる……。


「はっ……ふてぇカラスもいたもんだぜ……」

「ええ、手を焼かされました。さて、これでどうか、この先もネコタンランドを、あなたにお任せしてもかまいませんね?」


「テメェ、なんで俺によこす? 自分で換金すれば、テメェは億万長者だぞ……」

「おや、そんな価値があったのですか」


 価値を知っているくせに、ネコ野郎はすっとぼけやがった。

 俺を信頼している。そういうツラが気に入らねぇ!


「あるに決まってるだろバカ野郎! 戦争中は、こういうのを取引する連中が増えんだよ! 戦争特需ってやつだ!」

「そうですか。では注文の続きです。プラン2、工具と農具がまた不足しています。リストアップしてきましたので、これらを手配して下さい」


 メモ帳を受け取った。少人数だけじゃ運び切れない、結構な量だ。

 多くの荷台か、荷馬車が必要になるだろう。


「工具……工具か。悪いが工具はな……」

「何か問題がありますか?」


「ある。一部の工具は、戦争に持って行かれて手配が難しいな……。逆に農具は、余り気味でダブついてはいる。……いっそ鍛冶職人の移民者でも、募ったらどうだ?」

「ええ、それも考えましたが、そうなると精錬された金属が必要になるでしょう。付近で鉱石が得られるわけでもありませんから――リックは喜ぶでしょうがね、里の労働力をそちらに割く余裕はありません」


 延べ棒をこっちで買って、あっちで加工すれば融通が利くだろうが、安上がりとは言えねぇな。


「そして、プラン3です。くず鉄と使い物にならなくなったガラスを下さい。可能ならば、次の機会までに、砂漠の砂を仕入れておいてもらえると」

「変な注文しやがるな……」


「ええ、錬金術師のゾエという女性が、ガラスや鉄を生き返らせてくれるそうです」

「ゴミをよこせか……。まあいいがよ、あまり商会としちゃ、受けたい仕事じゃねぇな……」


 ゴミが売れると勘違いして、その後も俺たちに売りつけようとしてくるやつらが出るからな。

 そういう勘違いをされると困る。


「最後のプラン4。ビールの酵母とホップが欲しいそうです」

「おおっ、酒かっ!」


「あなたも食い付きがいいですね……。ええ、カスケードヒルと安全な貿易ができない今、酒の枯渇が深刻だそうで。私はどうでもいいのですがね、酔っぱらいどもが発狂しそうなのです」

「ケッ、飲みたいときに酒が飲めるのも幸せの一つだぜ。なら飛び切り強い酒も持っていってやるか……」


 しかしネコタンランドのビールか。

 ああ、パティアさんの手で作られた酒が飲みてぇ……。


「以上ですが、今日明日中に手配して、明日は里に入れるように急いで準備をして下さい」

「グスタフ商会を舐めんな、今日中に手配してやる!」


「ええまあ、パティアのことを考えると、それが理想なのですが。ですが今回は……」

「とにかく俺に任せとけ、どうにかしてやる! だが、どうやって正統派にバレずに、里まで物資を運ぶつもりだ? 魔界羊なんて、メェメェやかましいぞ?」


 夢が膨らんだところで悪いが、こいつが危険な依頼なことは変わりねぇ。

 商会の人員にも危険手当てを払わなきゃ、不満が高まるしな……。


「それなのですがね、ある抜け技を使う予定です」

「抜け技なぁ? テメェのお得意ではあるが、大丈夫なのかよ?」


「ええ、明日の日没、里東部のとあるエリアで待機していれば、後は安全に里へ入ることができます」

「わからねぇな。つまりどういうことだ?」


「わたしたちが結界に入るのではなく、結界がわたしたちを飲み込むのです」

「そうかよ。全然わからねぇわ……」


 だがそれにはきっと、パティアすわんっ! が噛んでるに違いねぇ!

 ああ、早く会いてぇ……パティアさんのために、最高の羊さんを用意しなくちゃならねぇな!


 パティアさんが羊を見たらよ、喜ぶに決まってる。

 ああ想像するだけでやる気が増すぜ!


 そして、そのご褒美に、俺はパティアさんに、お腹を撫で撫でされてよ、へ、へへへ……。

 完璧な仕事をするしかねぇな……。


次回更新分、分割の都合でかなり短くなります。

それと宣伝です。

皆様のご支援おかげで、超天才錬金術師2巻が4月30日に発売します。

買って損のない楽しい一冊になりましたので、どうか1巻ともども買い支えていただけると嬉しいです。

必ず楽しめます。2巻は特に仕上がりがいいので、楽しみにされていて下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
[良い点] ブルたんのツンデレ具合が相変わらず良いなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ