40-1 会いてぇ……ああ、パティアさんに会いてぇ…… - ぶるたん -
前章のあらすじ
隠れ里でねこたんの歓迎会が開かれたその翌日、パティアは一日中ねこたんに張り付いて暮らすことに決めていた。
ねこたんはそんなパティアに呆れながらも、パティアを連れて結界の外へ狩りに出る。
ネコヒトの民を獲物の運搬部隊にして、数多くの食肉を確保するが、ねこたんとパティアは思わぬ者と遭遇する。
それは蒼化病を患った少年ヌルと、少年を守る白い大山猫のイリスだった。
パティアとジョグに気に入られた二人は、ねこたんの杞憂もよそに隠れ里へと招かれる。
そしてその晩、パティアとの混浴にヌルが真っ赤になったり、音楽に満たされる文化的な夜に感動を覚えたりもした。こうしてヌルは定住を望んだ。
また別のある日、真夏日が訪れた。バーニィたちが子供たちを引率して、湖での水浴びを楽しんでいる頃、聖女エルリアナは驚愕の噂を知る。小鳥しろぴよと、巨大猛禽類のでかふくは、どうやらデキていた。
苦労性のキシリールは、ハルシオン姫に残された最後の騎士として生きることを決め、姫君との関係を進展させた。
それをのぞき見していたエルリアナは、恋の種にあふれる里に歓喜する。
亡霊(英霊)である彼女は、残りの人生を縁結び役として使おうと、心に決めるのだった。
ネコタンランド最高……。
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戦場となった森をくぐり抜けて、
魔界羊やその他諸々を買いに行こう
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40-1 会いてぇ……ああ、パティアさんに会いてぇ…… - ぶるたん -
・犬の男爵さん
「会いてぇ……ああ、パティアさんに会いてぇ……。もう限界だ、戦場を突っ切ってでも会いに行くしかねぇ……!」
「落ち着いて下さい、男爵様。前線が移動するまで、残念だがネコタンランドには近寄ることもできない。先日そうご自分で言っていたではないですか……」
そう、そうだった。会いに行きたいがその願いは叶わねぇ。
最悪は隠れ里を、パティアさんを危険な目に遭わせることになる……。
「グルルルル……だが諦めきれねぇ……。パティアさんに、ポンポン撫で撫でされててぇ……あの愛らしい微笑みを向けられながらなぁ……」
「はぁ……」
秘書が戸惑っていたが関係ねぇ。
そろそろ決断の時だ。どうにかこうにか、裏技を考え抜いて、隠れ里に行くしかねぇ。
正統派と穏健派の争いはまだまだ収まりそうもない。
長年の膠着が鬱憤となって、両軍を激突させていた。
穏健派のサレもサレで、魔王の血族を騙るアガレスに、前々から頭がきていたんだろうな。
「ぁぁぁぁ……やっぱ堪えられねぇぞっ!! ああっああもうっ、いっそもうっ、商会なんて捨ててあっちに定住するか……!?」
「えっ!? ちょっと、男爵様っ、この稼ぎどきに何を言っているんですか……!? この大事なときに、男爵様が抜けたら成り立ちませんって!」
ケッ……。戦争特需ってやつでな、ヘンリー・グスタフ商会は今儲かっている。
だがいくら金を稼いでも、パティアさんに会えない人生なんて生きる希望があるか!? いや、あるわけがねぇ!!
「戦争終わらねぇかな……。それかネコ野郎がよ、フラッとよ、ここに現れたりしねぇもんか……はぁ……」
アイツの力があれば――当然リスクはあるだろうがよ、隠れ里に物資を運べる。
そうしたらそのついでによ、パティアさんの笑顔が見られるじゃねぇかよ!
「た、大変です男爵様……ッ!」
「ああっ!? こっちは真剣にパティアさんに会う方法を考えてんだっ!」
「そ、それどころではありません! か、怪物が……!」
「怪物だぁ? ケッ、その怪物が俺を訪ねにきたとでも言うのかよ。戦争を知らない小僧がっ、なら俺がぶっ倒してやるよ!」
「い、いえ、それが、ベレ――ヒィィッッ!?」
「ウォァァッ、化け猫ォォォッッ?! ママッッー?!」
ヘンリー・グスタフ商会本部に、とんでもねぇ連中が現れた。
さすがの俺も肝を潰し叫んだ。まさかこんな者が現れるなんて、誰に想像がつくか。
白くてバカでかい大山猫だ。
しかもその背の上に、ネコ野郎が騎乗していやがった……。
「おやおや、威勢がよかった割に、ずいぶんと情けない声が上がりましたね。……お久しぶりです、男爵」
「で、ででで、出やがったなネコ野郎ッッ!! ど、どういう非常識な現れ方だクソがッッ!!」
「アォォォ~?」
白いネコヒトが背から下りると、その大山猫は甘えるようにヤツに額を擦り付けていた。
俺は書斎机の上でひっくり返った体勢を整えて、立ち上がる。
「森の魔物と勘違いされても困りますからね、隣に置いておきたかったのですよ」
「ならせめて馬で来いやっこのアホ猫がッッ!!」
「戦場となった森を、ハイドを使っているとはいえ、馬で抜けるのは危険かと。ですがこのイリスならば話は別です。馬よりも素早く、しなやかで隠密を得意とし、何より単純な戦闘力が高いですから、非常に有用です」
「アオォォーッ♪ グルルル……♪」
「おやおや、少し煽てただけなのに、ちょろいですねあなたは」
「アォッ♪」
猫が猫とじゃれ合ってやがる……。
だが、そうか。コイツの顔を見たら、ホッと気が抜けてきた……。
無事だったんだな……。本当によ、心配させやがってよ……。
「というかテメェッ、何しに現れやがった! こっちは呼んでねぇぞ、ネコ野郎が! ああ猫臭ぇっ!」
「あなたに頼みがあってきました」
「へっ、誰がテメェの頼みなんかを聞いてやるかよっ! 出直してきやがれ!」
昏睡状態だって聞いたときは、パティアさんが不憫で不憫で、俺は商会を捨ててあっちに移住しようかと思ったくらいだ……。
無事でよかったぜ……。このクソジジィがいねぇと、何もかもが成り立たねぇ……。
「その割に、自慢のご尻尾が、左右にブンブンと揺れておりますが……?」
「イライラしてんだよっ、これはよぉっ!」
「まあ別になんだって構いませんが。さて、頼みというのは、里の開拓にまつわる話でして――これをご覧下さい」
するとネコ野郎が大きな布袋を書斎机に置いた。
中から出てきた物は見慣れた物だ。
あの彫金師のアンが仕上げた、魔石と銀を使った装飾品の数々だ。
指輪にブレスレット、手の込んだブローチまであった。
外で戦争が起きて以来、買い手も見つからず、溜まりに溜まっていたようだな。
「あの小娘、いい仕事しやがるぜ。お得意様が欲しがってたからな、まあコイツは貰っといてやる。だが勘違いするな。俺とテメェが取引したんじゃねぇ! 俺とアンが取引したんだからな!」
「ブレませんね、あなたは」
「うるせぇ! で、そっちの要求はなんだっ!?」
「いつも通りです。あなたに物資の手配を頼みたいのです」
ここで素直にやる、と言ったらコイツはつけあがる……。
パティアさんのためなら喜んで応じるつもりだ。
だが、一応最初は突っぱねておくか……。
投稿ペース落としました。
その分、長く続けて参りますので、どうかゆっくりお付き合いくださると嬉しいです。




