39-7 真夏日だ。ガキどもを連れて水浴びに行くぞ、うへへ…… - おっさんは見た -
「はぁぁ……気持ち、いい……。冷たい……」
「だからよー、今度よー、目立たない向こう側の岸でよ、こっそり俺と泳ごうぜ?」
「そんなの、恥ずかしくて、死んじゃいますよ……」
「死ぬわけね―って。……ん、アイツら何を――おいこらっカールにパティ公! お前らどこ行こうとしてやがる!」
ところがマドリちゃんとよろしくやってると、リックちゃんの目をかいくぐって、パティアとカールが湖の中心を目指していた。
「うわっバレた! 逃げるぞ、パティア!」
「お、おー!」
「こら待て! リックちゃんに、行くなって言われただろ悪ガキどもめ!」
しょうがねぇんで、俺は上着だけ脱いで湖に飛び込んだ。
うひゃぁっ、気持ちいいぜ。
水没林の陰から飛び出した二人を追う。
「バニー! こっちは確保した、カールを捕らえろ!」
「おうよっ!」
「つかまったー……。うしおねーたん、はやいなー」
犬かきしかできねぇお子さまは、リックちゃんに即捕まっていた。
おやさしいリックちゃんが俺の出番を残してくれたので、おっさんも全力で水をかいてカールを追いかける。
「なんでおっさんがこっちなんだよぉーっ!?」
わははっ、おっさんから逃げようなんて10年早いぜ。
悪ガキをとっ捕まえて、リックちゃんとマドリちゃんに向けて手を上げた。
「お前にはリックちゃんのおっぱいは早い! おっさんのおっぱいで我慢しろ!!」
「うげっ、気持ち悪ぃこと言うなってのっ!」
それから岸にカールを連れ戻して、マドリちゃんの隣に戻った。
「悪ぃなマドリちゃん。全くあのクソガキは、誰に似たんだか……。ハンスのやつの落ち着きは、ぜんぜん遺伝しなかったみてぇだな……」
親父さんのハンスは大したやつだ。
元パナギウム軍ってことで、多少ひいき目に見ている面もあるがよ。
ボウガンの腕といい、かなり使えるやつだ。なんでも任せられる安心感がある。
「ぼ、僕は……」
「ん、どうかしたか、マドリちゃん?」
熱中症か? 顔がいつになく赤い。
「僕は、わ、私は……嫌い、じゃないです……。バーニィさんの……嫌い、じゃないです……」
マドリちゃんは意味深に主語を抜いていた。
脱いだ上着だけは無事だが、今から上を着てもしょうがねえな……。
「そうか。深くは詮索しないでおくわ。マドリちゃん、もう一度足浸けとけ、熱で頭ふわふわしてるだろ?」
「はい……ふわふわするので、そうしてみます……。やっぱり、暑いです……」
かわいいな……。やっぱり、女物でもいいから、水着着た姿とか見てみてぇな……。
クークルスちゃんならド天然だし、そうですか、うふふーの一言で作ってくれるかね……?
「バニー」
「おっ、どうしたリックちゃん?」
なんか危なっかしいんで、手を貸してやっていると、水面からおっぱい――じゃなくて、リックちゃんが現れた。
いや、だが、しかし、これは……でけぇ……。
「日を浴びたい。少し代わってくれ。……ん、どうした?」
「ぇ……あ、ああ……わかった、任せとけ」
ついついおっさんは、水面に浮かぶたわわなやつに目を奪われていた。
いや、水滴が水玉になっていてよ、それが朝露のように谷間に落ちて、感動的でいい眺めだったんだ……。
「頼んだ」
リックちゃんが伸ばした手を強く引いて、俺は釣り小屋にリックちゃんを引き上げた。
普通はそうはいかねぇんだが、さすがリックちゃんだ。息も乱さずにはい上がった。
「んじゃよろしくな」
「ああ、任せろ」
軽くリックちゃんとハイタッチして、俺は湖に飛び込んだ。
ただちょっとマドリちゃんのことが気になってな、ふと後ろを振り返ってみた。
するとそこには、リックちゃんの胸を、なにやら執拗に見つめ続けるマドリちゃんの姿があった。
「その、マドリ……。もう少しその、見るなら見るで、相手に気づかれないように、見てくれ……」
「あ……す、すみませんっ、変な意図はなくて……。ただ、大きいなって……」
どんなにかわいくても、そっちだけは永遠に成長しないんだよな……。
「バニーッ、今度はカールとヌルだ! 捕まえろ!」
「おうさ! おいこら待て、カール! ヌルも止まれっ、止まらんとおっさんのおっぱい吸わせんぞっ!」
「ウゲェッ、逃げろヌルッ、怪物乳毛男だ!」
「誰が乳毛男だコラァァッッ!!」
「ひぃぃっ、ま、待ってよカールッ!」
ガキどもとの終わらない追いかけっこで、その後に腰と膝がガタガタになっちまったが、まあ、こういう日も悪くない。
隠れ里に訪れた、楽しい真夏日が過ぎていった。
「僕――私は、その、男らしいと思います……」
「おう、怪物乳毛男にフォローありがとな、マドリちゃん……」
マドリちゃんは、マジでいい子だ……。
正直な、怪物乳毛男は言い過ぎだろうと、おっさんは小さく傷ついていたんだぜ……。
●◎(ΦωΦ)◎●
後日談、少し暑い日――
その日はしばらくぶりの休日にして、昼前から湖に釣り針を下ろしていた。
すると何か妙なものが視界を横切った。
「あ、あれは、まさか……」
水着を身に付けていない、褐色の尻が見えた……。
裸のリックちゃんが湖を人魚みたいに泳ぎ回っていたんだ。
色っぽい。だがスケベ心を満たすにはあまりに遠い。
おっさんは目をおっぴろげて、遙か彼方のリックちゃんを鑑賞した。
どうも向こうもこちらに気づいたようだ。
しかしな、距離という壁がある。なんでもありはしない。
リックちゃんは、俺に見られているというのに、気にせずに泳ぎ回った。
まさかリックちゃんにそっくりの、人魚なんじゃないかと最初は思ったね……。
まあいい。小さな幸せを噛みしめながら、俺は岸辺でかかる川魚を釣り上げていった。
しかしリックちゃんを見つけて、4匹目を釣り上げた頃だろうか。
「ん、リックちゃんがいないな……。帰ったか? しっかし、いい眺めだったな……。あれはいつか揉んで――うっ、うおぉぁっ?!」
そろそろ昼飯だろうし、俺も帰るか。
そう思ったところで、リックちゃんがいきなり水中から現れたので、俺は大声を上げるはめになった。
だってよ、サバーンフィッシュを抱えた、全裸だったんだぜ……。
「し、下処理を頼む……。それと、その……恥ずかしいから、あまり、目で追うな……。バニーは、オレを見過ぎだ……」
「お、おう……任せてくれ。いやだがな、追うなってのは、無理がある。リックちゃんは綺麗だ。最初は人魚かと思った」
「そうか……。なら、せいぜいそこで見ていろ……」
その日のリックちゃんはどう考えたって大胆だった。
よくわからんが、ネコヒトのやつが帰ってきて、俺にもツキが回ってきたかもしれん。
良いものも見れたしよ、開拓を明日からもがんばっていくか。
へへへ……リックちゃんの気まぐれに感謝だぜ……。
来月から4日に1回更新にさせて下さい。
書くのが楽しくてしょうがない作品なのですが、忙しく、時間の都合が取れなくなっています。




