39-6 聖女エルリアナはお熱いのがお好き
・どうあがいても永久に処女
「えっ、本当!? あの二人ってそういう関係だったの!?」
「あらー、聖女様は気づいてなかったんですかー?」
「だって、人間とワイルドオークよ……っ!? ああでも、そう言われてみると、ああ、そうなんだぁ、ふふふ……っ♪」
「ウフフ……初々しくて、もう見てられませんよね~♪」
私は英霊。肉体を失ってもう300年経つ。
ご飯を食べることも、走り回って笑うことも、眠る喜びさえも私にはない。
だから私の数少ない楽しみは、人とのお喋りと、人ののぞき見だけ。
今のクークルスの話は、そんなわたしをはしゃがせるのに十分だった。
「毛深いワイルドオークと、小柄で盲目の少女の、禁断の愛……。キャーッ♪ いいわいいわっ、いいじゃないその組み合わせっ!」
「あらー……聖女様って、意外とこういうお話好きなんですね~! ふふふ~♪」
好きなんてもんじゃないわ。私にとって恋の話は生きがいよ。
もう心臓どころか身体すらないけれど、恋バナをすると心の心臓がドキドキと高鳴るの!
「他には他には!? 他にはどんな恋の芽が里には眠ってるの!?」
「そうですねー……カールちゃんとー、ジアちゃんの関係はご存じですか~?」
「もちろんよ。実はね、のぞき見もしてた!」
「あらー」
カールはかわいい。ジアもかわいい。
どっちも正直になれないところが、恋愛小説みたいで最高!
「はー……でも、私もああいうボーイフレンドがほしかったな~……」
「ええ、わかります。つい羨ましくなっちゃいますね~♪」
私の思春期に男の子の陰なんてなかった。
修行修行の毎日で、使命を帯びて里を出たらクーガを見つけて……。それから、クーガと魔王が消えて、ふと気づいたら、裏切られて、処刑されていた……。
私の人生ってなんだったんだろう……。
いいな……羨ましいなー……。
「うーん……じゃあ、あの二人もくっつけるとして……」
「あら、くっつけちゃうんですかっ?」
あの子たちもいい子だから、私の分まで恋愛を楽しんで欲しいな……。
「あのね、クークルスさんだから言うけどね……。英霊ってね……」
クーガの末路がああなってしまったように、人ならざる力に手を染めたわたしたちに、まともな死後なんて残されていなかった。
私、どうやったら天国に行けるんだろう……。そう思ってから300年が経った。
それにこのままエレクトラム・ベルが無害な存在として、この村のただの最長老として生きるのならば、私の使命はもう終わってしまったことになる。
「英霊って、凄く暇なの……」
「まあっ、そうだったんですかっ!?」
「うん、だってこんな体だから、あまり楽しみがないの……」
「それは、とてもご不便しているでしょうね……。心中お察しいたします……」
私はシスター・クークルスが気に入った。
宗教家には正直、失望していたけど、この人は違う。
やさしくて、意識せずとも人のために動ける、きっとこの人こそが本物の聖女だ。
「いいの。だってね、私ね、恋が芽生えて、結ばれるのを見るのが好きなの! キュンキュンしちゃうの! それをのぞき見できるなんて、この里はいいところだわ!」
「それ、わかります。とってもわかります、ふふふ……♪」
クークルスは自分の両手を合わせて、縫い針に宿る私に笑顔を向けた。
時折、目を見張るほどの早さで、縫い仕事を進めながら。
「それでそれで、他にはどんなカップルがいるの!?」
「やっぱりそこは、バーニィさんでしょうか」
「え……。いや、あのおじさんは別にいいや……」
「あら、バーニィさんお嫌いですか? 明るくて、やさしくて、ちょっとエッチだけど、かっこいいと思いますよ、私は」
確かにあの人、若い頃は格好良かったんだろうな。
それに凄くパワフルで、今ではこの里のリーダーみたいなものだし、立派な人だと思う。だけど……。
「うーん……でも若くないしなぁ、見守ってても、あんまり面白くないかな……。やっぱり若い子がいいよ」
「あらー……。そういうものですか、聖女様?」
渋いとは思うよ。でも、おじさんはやっぱりな……。
「そうだ、アルス様は?」
「アルスさんですかー? そうですね~、アルスさんは……禁断です」
「えっ、そこ詳しく! 何々、何がヤバいの!? 禁断ってどういうこと!?」
「はい、それが……。キシリールさんと、最近……仲が、少し良すぎるような……。あ、でもアルスさんって――」
「キターー!! つまり、男同士の愛!? くっつけよう!!」
「あら……あらら……?」
困り顔でクークルスが首を傾げた。
これはいい話を聞いた。私は英霊だけど、非生産的な関係にだって好意的だ。
だって、愛は障害が大きいほど燃え上がるもの!
「確か、騎士様と騎士様だよね!? ふぁぁーっ、いいっいいっ、それいいよっ! くっつけよう!!」
「はい……。まあ、問題ない、気もしますねー……?」
ないわ。それにここは魔界辺境、神様だって見ていない。
イケメンとイケメン……はぁっ、ため息が出てきそう。
「他には!?」
「そうですね~。うーん……バーニィさんと、イヌヒトのラブレーちゃんが――」
「ううんっ、私ね、あのおじさんにあまり魅力感じないから、それもいいや」
「あらぁ……バーニィさん、素敵ですよー? ちょっとエッチですけど、面倒見が良くて、やさしくて、明るくて、みんなに慕われています」
それはもう聞いた。でも私から見たらただのおじさんでしかない。
「うん、噛ませ犬役にはいいかも。でも、ヒーロータイプじゃないかな……」
「噛ませ……あら、そうなんですね……」
クークルスがまた困った顔をして、そのまま凄い速度で裁縫仕事を進めていった。
しばらく仕事に集中する彼女を、私はのぞき見る。
私が男だったら、クークルスをお嫁さんにしていた。
クークルスにふさわしい相手って誰だろう。うーん……カールのお父さんのハンスさん?
あ、でも年齢が離れすぎかな……。
「あ、そういえば、あえていうならもう一組――」
「え、誰々っ、誰と誰っ!?」
「でかふくさんをご存じですか?」
「……え、誰? というかそれ、人名、なの……?」
デカフク……どこの国の人かな。
デ・カフクさん? あのネコヒトたちの中に、そんな人がいるのかな……。
「いえ、私も直接知っているわけではないのですが、リックさんが言ってたんです。お城の井戸は迷宮に繋がっていて、そこには、でかふくと呼ばれる、大きなフクロウが……」
「あ、それ知ってる。名前、私の知ってるやつじゃないけど、喋るフクロウなら知ってる」
でかい、フクロウ……だから、でかふく?
誰がこんなあだ名を付けたんだろう……。
ノーブルオウルさんの性格を考えると、絶対に怒りだしそうなあだ名だ……。
「あら、ご存じでしたか~」
「昔ちょっとね……。あ、それで、ノーブ――じゃなくて、そのでかふくさんがどうかしたの?」
「はい。それがなんでも、そのでかふくさんのところに、最近――しろぴよさんが、頻繁に出入りしているとか……」
「え゛……!?」
「リックさんがソロで迷宮を下っていたら」
「えっ、あそこをソロ!?」
待って待って、頭が追いつかない。
リックさんって、そんなに強いの!? あそこをソロなんて、危ないよ!
「しろぴよさんと、でかふくさんが、毛繕いし合っている現場を見てしまったそうで……」
「はぁっ!? え、何やってんのアイツッ!?」
「ふふふ、これも、里の恋のお話でしょうか♪」
「恋……恋かなぁ、それ……。鳥類と鳥類だし、ううーん……。ううぅぅぅん……」
聞かなきゃよかったかも……。
想像つかない。誤報だと、思いたい……。
「あら、聖女様も怪しいとお思いですか~?」
でもこれでわかった……。
アレにはもう、人間だった頃の記憶なんて残っていない……。
今はただの、ただの脳天気な鳥類だ……。
私は頭を抱えて、しばらくうなり続けるしかなかった。
「だけど猛禽類と、小鳥って……愛し合えるのかな……」
「そこは大丈夫です♪ しろぴよさんは、この里で一番の紳士ですから♪」
「ないない、それだけは絶対ない……」
「そんなことはありません。あの子、パティアちゃんに、よくお花をくわえてくるんですよ」
アイツが花……? ノーブルオウルさんと、怪しい関係……?
ぅぅ……ダメだ、受け付けない……。こんなの聞かなかったことにしよう……。
天国に行って、別人に転生してみたいと思うこともあったけど、これって考え物だ……。
ごめんなさい。投稿するエピソードをまた間違えていました。
差し替えました、ごめんなさいー!!
2月22日、にゃんにゃんにゃんの日だそうです。ねこたんおめでとう!




