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39-4 隠れ里と大山猫を連れた少年 - はじめまして猫です -

 蒼化病の少年ヌルはともかくとして、問題は大山猫のイリスの方でした。

 どうやってこれを里の者に紹介したものやら、わたしは深く考え込まされました。


 時刻はもう夕方前にさしかかり、森の中は少しずつ薄暗くなり始めています。

 今夜はいったいどんな夜になるのやら、バーニィがヌルとイリスにどんな反応をするのやら、年甲斐もなく妄想が膨らみました。


「イーリースー、ちゃーんっ♪」

「アオォォ~♪」


「イリスちゃんっイリスちゃんっイリスちゃんっ♪ スリスリ……」

「グルルルル……♪」

「……そんなにイリスが気に入ったの?」


 そんなにパティアが気に入ったのかと、わたしもイリスに問いかけたいくらいです。


「うんっ! パティアなー、こんなかわいいねこちゃん、はじめてみた」

「だけんど、でっかすぎる気がすんべなぁ……」

「いえ、気がするではなく、確実にでかすぎるかと」


 パティアの笑顔を見ていると、細かいことを考えるのがバカらしくなってくるのが困りものです。

 高く昇った太陽により、森は陰影の濃い木漏れ日に包まれて、ところどころに小さな白妙(しろたえ)を生み出していました。


 魔界の暗雲に飲み込まれるにつれて、その白妙は色合いをオレンジに変えて、やがて闇に飲まれるのです。

 そんな世界で、白い大山猫に乗った少年少女が森を進んでゆく姿を見つめると、小細工を考えるのが面倒になってきます。


「どうイリスを紹介したものやら悩みましたが、あのまま行かせるのが無難(ベター)ですかね」

「ははは、違いねぇべ。あれ見たら、弓なんて向ける気も失せるべよ」

「うん。イリスちゃんに、いじわるするやつは、パティアがやっつけるからなー!」

「アォォンッ♪」


 ところで、後続のわたしに大山猫のイリスがしきりに目を向けているのですが、まさかお仲間だと思われてはいませんよね?

 わたしはネコヒトです。あなた方のような猫科とは異なる存在ですので、ご了承を。


「あっ、何か見えてきた! うわっ、凄いっ、森の中に大きな町がある!!」

「フフフ……町ですか。バーニィが聞いたら喜ぶでしょうね」

「それも違いねぇべ。あ、二人ともちょいとストップだべ。おらたちが先に入るからよ、ちょっとの間、そこに隠れててくれよぉ?」


 わたしが何ヶ月も不在にしている間に、里の門が大きく拡張されていました。

 どうやらその門の向こうで、皆がわたしたちの到着を待っていてくれたようです。


「パティアお帰り!」

「お帰りです!」


 というより、パティア目当てのネコヒトたちだったようですね。

 開かれてゆく門に向けて、ジョグと一緒に大物のアイアンホーンを運び込むと、わたしたちはネコヒトの民に囲まれていました。


「あれ、パティアはどこです、最長老?」

「いえご生憎、人をジジィ扱いする人たちには教えてあげられません」

「だけんど、爺さまなのは事実だべ。お、カール、ジア、今帰ったよぉっ!」


 ネコヒトの民が8名と、カールとジアがそこにいました。

 彼らはアイアンホーンという超大物に目を奪われて、それから少し遅れて、肉の塊がきたと沸き立ちます。


「すっげーー、何これでけぇじゃん!?」

「う、牛……? 美味しいの、これ……?」


 ただカールとジアの方は今ひとつ盛り上がっていません。

 それも仕方ないですか。

 人間がアイアンホーンを食べたことなんて、あるわけがありませんから。


「アイアンホーンだ! これを仕とめるなんて、やはり最長老は狩りの天才です!」

「牛パーティきた!」

「カールとジアも食べればわかるよ、これは美味しい!」

「ステーキにしよう!」


 なのでネコヒトの民の盛り上がりとは対照的でした。


「要するに、牛肉だべ」


 ジョグがそう補足しても、二人はあまりピンとこないようでした。

 どうでもいいですが、わたしはアイアンホーンより、アユーンフィッシュの方が美味しいと思います。


「それより皆さん、実は紹介したい人たちがいるのですが」

「そうだぞーっ、ねこたんっ、はやくはやく! はやくイリスちゃん、みんなにみせよーっ!?」

「お、俺よりイリス優先なの……?」


「うん」

「うん、って……」


 門の向こう側では、ジョグに言われた通り、パティアたちが木々の陰に姿を隠していました。

 ですがこれは、早く説明しないと飛び出してきてしまいそうですね……。


「イリスって誰?」

「なんか今、知らない子の声がしなかった?」


 ちょうどここにカールとジアがいてくれたのは、ヌルにとって幸運だったかもしれません。

 二人はうちのパティアの面倒を見てくれるくらいに、気のいい子たちですから。


「イリスは少し見た目こそ怖いですが、とても温厚な生き物です。どうか驚いたり、武器を向けたりしないで下さいね。……ではジョグ、後は任せました」

「任せるべ! さあこっちだべ!」


 わたしが人だかりから脇に外れると、ジョグが門の向こうに駆け込んで、隠れている彼らに手招きをしました。


今回次回の文字数少な目になります。

これからもマイペースに書いていきます。



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