38-6 邪神を殺したネコヒト、魔界の森を駆け抜ける - 魔界最強の猫 -
・(ΦωΦ)
ギガスライン要塞は殺戮派あらため、闘争派の制圧下にありました。
しばらくここで魔軍が要塞を盾にした防衛戦を続けたこともあり、城壁の一部がはがれ落ちたりと、バカにはならないダメージが入っていました。
そんな北部ギガスラインに、わたしは堂々と正門から入ってゆきます。
ミゴーからの通達が徹底されているのか、やけに物わかりの良い対応でした。
「総員ッ、敬礼ッッ!」
というよりですね……。
要塞内部に入るなり、そこにいた魔族30名ほどから最敬礼の歓迎を受けてしまいました。
「……はて。これは、どういった風の吹き回しで? 元殺戮派のあなた達とは、とても思えないお姿なのですが……」
「ヒ、ヒィッッ!? め、滅相もありません!!」
「気分を害したのなら謝ります! だから、命だけは……!」
「えっ、ええっ……? これって、どういうこと……?」
エルリアナがわたしにだけ聞こえる音量でつぶやきました。
それはこっちが聞きたいくらいですよ。
彼らはどういうわけか、わたしごときに怯えているようでした。
殺戮派の者たちにとって、ネコヒトは弱い種族、見下す者も少なくありません。
これは何か妙なことを吹き込まれていると、疑って見るべきでしょうか……。
「一つ聞いてもよろしいでしょうか? なぜわたしごときネコヒトに、そうまで警戒する必要があるのですか?」
「そ、それは、当然ですよっ!? 貴方様があの、言うも恐ろしいあの、ニュクス様を……殺、殺したんでしょうっっ!?」
なるほど、怯えの理由だけはこの上なく理解できました。
しかしなぜそうなっているのか。不可解はさらに高まるばかりです。
「妙ですね。いったい誰からそんな話を……?」
「ひっ、お、俺じゃねぇですっ! 上がっ、上がそう言ってたからっ! うっ、ご、ごめんなさい、命だけはどうかお許しを……!」
訳がわかりません。何がどうなったらこうなるのですか。
ミゴーと同じデーモン種の下士官が、長らく見下し続けてきたネコヒトに膝を突いて、しきりに震えながら平伏していました。
「あ、わかった」
「はて。わかったとは何がですか?」
エルリアナが実体化したので彼女と目を向け合うと、現れた亡霊に周囲がまたどよめきました。
「あの戦闘狂、意外と頭は回るんだね……。確かにこうすれば、余計な説明なんてしなくとも通してもらえるけど……」
「はて……。ああ、なるほど、これはミゴーの差し金でしたか」
自分より強いか弱いか。それが殺戮派の物差しの一つです。
下手に説得したり説明するよりも、これが最もシンプルで有効な方法でした。
「それに、かの邪神も殺したと……」
それはまあ、事実ですが……。
「で、ミゴーは結局なんとあなた方に言ったのですか?」
「へっ……? あ、いや、その、えと……。さ、逆らっても、ぶっ殺されるだけだから、ベレトートには絶対に逆らうなと……!」
「そうですか……それはまた、他に言い方というものがあったでしょうに……」
「むー……アイツの良いように使われちゃったね。私、アイツ嫌い……」
つまりこういうことです。
ニュクスが野望を諦めて組織を捨てたと彼らが知れば、新しい派閥・闘争派は勢力を大きく減らすことになります。
だがニュクスが何者かに倒されたことになれば、今後はその後継者であるミゴーを頼っていこうという流れになるのです。
同時に、これ以上有効な通行許可証もありませんでした。
魔界にいる誰もが、ニュクスにだけは勝てなかったのです。
「まあ、今はそういうことにしておきますか。では通していただきますよ?」
「は、はいっ、どうぞお好きなように行き来されて下さい!」
「当然です! 俺たちがニュクス様から解放されたのは、貴方のおかげです!」
勝手に向こうが勘違いしているだけでしたが、利用できる物は利用させてもらいましょう。
わたしがニュクスを倒したことになっていれば、偽りの権威が隠れ里を守ることになるかもしれません。
「ではすみませんが開門をお願いします」
「はっ! 急げっ、ぶっ殺される前に門を開けろ! ニュクス様より危険なお方だ、急げっ、命の限り急げぇぇーっ!」
酷い決め付けもあったものです……。
以降、魔界の森でも元殺戮派の軍に遭遇するたびに、ただのちっぽけなネコヒトでしかない者は、不必要にも過大に畏れおののかれてしまうのでした……。
便利ではありましたが、やはり釈然としません……。
前回は誤投稿申し訳ありません。
どうか皆様、来年もよろしくお願いいたします。




