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38-3 聖女と猫の帰り道 - 英霊との二人旅 -

・(ΦωΦ)


 サラサールさえ討てば全てが解決するなど、そんなものは幻想でした。

 あの後、わたしはホルルト司祭と夜逃げ屋タルトから、現在の世界情勢を聞き出しました。


 パナギウム王国の宰相は野心に飲まれたそうです。

 サラサール王の後釜となった彼は、悪王サラサールが侵略した自由都市国家の数々を、(かたく)なに放棄しようとしませんでした。


 それどころか王家の傍流を新たな国王として立てて、手のひらを返して悪王を糾弾し、この新王こそ正統なる王家の血筋だと言い張ったのです。

 結果、パナギウム王国は領土東部にある王都を境界線に、国が東西に二分される事態となりました。


 それに対して私と共に戦ったノトゥンランド王国は、東パナギウムに自由都市国家の解放を要求しています。

 あきれたことに東パナギウムの存在が新たな緊張を生み出し、殺戮派の侵略を受けるベルン王国への再派兵を、各国が迷い止まることになっているそうでした。


 よってニュクスが電撃隠居としたとはいえ、ベルンではまだまだ油断ならない戦況が続いています。


 さて、長くなりましたがここから本題です。

 まあそこでなのですが、わたしは馬を一頭借りて、北方ベルンを目指すことにしました。


 パナギウム側のギガスラインには魔軍正統派が展開しており、それを穏健派と西パナギウム軍が受け止めています。

 さすがにわたしの潜伏魔法(ハイド)をもってしても、そんな戦場のど真ん中を突っ切って帰るのは不可能です。


 ならば迂回するしかないでしょう。

 しかし魔軍正統派は、魔界中央部に位置する勢力です。


 そして隠れ里ネコタンランドは、魔界中央東部の森にあります。

 この状況で、わたしがパティアの元に少しでも早く帰るには――北回りのこのルートしかなかったのです。


「ごめんね、私たち人間のために……」


 わたしのお目付役でしょうか。帰りの旅にはエルリアナが同行していました。

 確かに人間ではあるのですが、幽霊に言われると、少しばかしひっかかるところがありました。


「仕方ありません。焦るあまり無謀なルートを使って、敵軍を里に連れて行くようなことになっては本末転倒です。……わたしは自分が帰るために全力を尽くしてるだけですよ」

「うん……そうなんだけど。でも猫ちゃんに助けを求めたのは、私たち人間だよ。だから申し訳なくて……それに、300年前のあの時だって、勝手にクーガが……」


「いちいち責任ばかり感じていたら早死にしますよ」

「もう死んでるよーっ!」


「ああ、そういえばそうでしたね」


 西パナギウムの新しい王が一本のレイピアをくれました。

 それは澄んだ白銀色の宝剣です。


 伝説の時代の英雄が使っていたものだそうで、魔族の一員として悔しいですが、カスケード・ヒルのミノス族が作ってくれた(あれ)より上等でした。

 エルリアナの魂が宿っているせいで、少し邪魔くさい点をのぞけば、ですが……。


「しかしあなたこそ本当に、うちの里に来るつもりなのですか?」

「う、うん……。もし迷惑じゃなかったら、私行ってみたい、憧れの、猫の里……っ」


「フフフ……。穏健派が約束を守ってくれたとすれば、今頃は正しく猫の里になっているでしょうね」

「夢みたい……早く行ってみたいなぁ」


 ネコヒトだらけの世界を空想して、エルリアナはうっとりささやきました。

 そんな彼女から目線を外して、アンチグラビティをかけた名馬を駆って、わたしは街道を北へ北へと突き進んでゆきます。


「期待するだけの価値はありますよ。魔界の森の中とは思えぬほど、豊かで美しい土地ですから。外の混沌を知る者からすれば、まるで幻のような世界です」

「そうなんだ、楽しみです。それに娘さんのパティアちゃんにも私、会ってみたいかな」


「……きっと喜びます。幽霊が来たとはしゃぐかもしれませんね」


 しかしわたしは心の底で、エルリアナの真意を疑っていました。

 たかだかネコヒトが集まるだけの里に、伝説の聖女が物見遊山だけで来るだなんて、普通に考えれば妙でしかない話です。


 幽霊というのは、肉体を持たないだけあって酷く退屈そうですし、ただの暇つぶしと言われたら納得できる部分もあるのですがね。

 それでもエルリアナと呼ばれるこの娘は、邪神を倒すためにクーガに力を与え、今回はわたしを利用して本懐を果たしました。


 ならば本当の目的はわたしの監視か何かでしょうか。

 邪神の破片で負傷したネコヒトが、その残骸に精神を飲み込まれる可能性を想定して、今は様子を見ている段階なのではないか。そう思うのです。


「わ、私幽霊じゃありません!」

「おやおや、清々しいほどに説得力の無いお言葉ですね」


 何せ疾風の矢となって走る馬のすぐ隣で、エルリアナだけが宙に浮く静止画となってこちらに併走していたのです。

 逆に聞きたいくらいですよ。なら幽霊以外のなんだというのです。


「ううっ……似てるけど違うんだよ猫ちゃん。私は幽霊じゃなくて、英霊なの!」

「そうですか、わたしには違いがわかりかねますね。いえ、どちらかというと、物質に宿る付喪神と呼ぶ方が正しいのでは……?」


「酷いよぉっ! 私は英霊っ、英霊なのっ!」

「わかりました。どう見ても亡霊にしか見えませんが、一応は英霊ということにしておきましょう」


「お、お化けじゃないもん私っ!」


 まあどうでもいいことです。

 聖女エルリアナ、自称英霊様は旅のお供としてなかなか便利な存在でした。


 特に話し相手として、ですがね。


また誤投稿してました……

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