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38-1 邪神を倒した寝坊助 - 帰り道と魔将ミゴー -

「いいえっ、そのことにも感謝していますけど、そうではないんです! わ、私、口べたで……すみません……」

「おや違うのですか? そうなるとはて、見当も付きませんね……」


 もう少しあの頃の、ニュクス少年と出会った時代のわたしがしっかりしていたら、彼を止めることができたのかもしれない。

 そんなつまらない繰り言に支配されることも、これまで数多くありました。


 ニュクスはついに、あの狂気と妄執から解放されたのでしょうか……。


「クークルスさん……私にやさしくしてくれた、クークルスさんの、お礼が、したくて……。私、知らなかったんです。知らずにサラサール王子との結婚を、一人で羨ましく思っていました……」


 わたしのつまらない物思いは、シスター・クークルスの名が消し飛ばしました。

 あのやさしいお嬢さんと早く会いたいです。バーニィにも、リックにも、そして誰よりもわたしの大切な娘、パティアに会いたい。


「でも本当は違いました……。エレクトラム様、やさしかったあの人を救ってくれて、ありがとうございます……。それと、クークルスさんに伝言を頼んでも、いいですか……?」

「いえいえ、どういたしまして。もちろん構いませんよ」


 どうやらこのシスター、ホルルト司祭に近しい立場のようです。

 わたしがクークルスを救ったと、こうして知っているのですから。


「では……もしレゥムに戻ってくるつもりがあるなら、私たちもできる限りのことをすると、クークルスさんに伝えて下さい」

「必ずお伝えしましょう。といっても、みすみす彼女を渡すつもりなどありませんがね」


 シスター・クークルスはわたしたちの里に必要な人です。

 帰りたいと言ったところで、わたしは帰しません。去られると困るなんてものではありませんから。


「あっ……で、では私はこれで……っ」


 そこにホルルト司祭と、夜逃げ屋タルトがやってくると、シスターは逃げるように屋根裏を立ち去っていきました。


「起きましたか、エレクトラム殿!」


 司祭は声を上げてわたしの目覚めを喜びました。

 もう一方のタルトはよっぽど感極まったのか、駆け足でこちらに突進してきて、らしくもなくわたしに抱き付きました。


「ッッ……まったく心配させるんじゃないよっ! アンタがもし目覚めなかったら、あの子はどうなるのさ! ああ良かったよ、本当に良かったよ……心配したよもうっ!」

「それについては返す言葉もありませんね……。わたしが目覚めなかったら、あのまっすぐなパティアが歪んでしまったかもしれませんね……」


 タルトに抱きすくめられたまま、何度も少し荒っぽく背中を叩かれました。

 タルトはなんというか、本当に人情味豊かな人です。


「そうだよ! あんたがのんきに鼻息鳴らして寝てる間に、あたいがどれだけそれに胸を痛めたと思ってるんだい! もどかしいなんてもんじゃなかったよっ!」

「でしょうね。ですが二ヶ月も寝過ごしてしまった側の気持ちも察して下さい」


「とにかく起きてくれて良かったよ、エレクトラム・ベル!」


 これは止むを得ません。タルトが落ち着くのを少し待ちました。

 それが済むとホルルト司祭に向けて、ニュクスの気まぐれを伝えます。


「少し前、ニュクスがここに現れました」

「は……? な、なんですって……!? 魔将ニュクスが、ここにですか……!?」

「待ちなよっ、殺戮派の総大将が、なんでレゥム大聖堂に忍び込んでくるのさ!?」


「わたしを起こしに来たのかもしれません。いえそれはそうと、彼はおかしなことを言っていまして……。正直、今すぐ帰りたくてたまらないのですが、伝えておかなければなりません」


 そこで言葉を一度止めても、司祭もタルトも口を挟んできませんでした。

 心のどこかで、わたしがニュクスの夢を見たのではないかと、多少は疑っているでしょうね。


「彼から直接聞いたのですが、ニュクスは――」 


 ですがあれは夢ではありません。

 あれが夢だとするならば、目覚めていないわたしは、今もまだ夢の中ということになります。


「ニュクスは隠居するそうです」

「…………は? えっ……はぁぁぁぁっっ?!」

「い、隠居……それは、いったいどういう……」


 困惑するのも当然です。

 絶対にあり得ないことが起きてしまったのです。


「ニュクス本人がそう言っていました。後釜はミゴーというデーモン種の男です。そのミゴーというやつは、殺戮派に属してはいますが、形だけです。彼はニュクスとは異なる理念を持っています」

「ミゴー……それはあの、嫌われ者のミゴーですか……?」


 半分いぶかしむように司祭が表情を険しくしました。


「ええ。そして彼は戦争狂いの嫌われ者でもありますが、言い換えれば、正直者(・・・)のミゴーでもあります。アレはどこまでも自分に正直なのですよ。そして恐らく、ミゴーはギガスラインまで退くでしょう」

「勝利を収めているのに退くのですか……?」


「これ以上の消耗を避けるためです。ニュクスの標的は人類全てでしたが、ミゴーは違います。ミゴーは強い好敵手に飢えています。人間を滅ぼしたら、楽しみがなくなると考える男です」


 ミゴーもバカではありません。

 ギガスラインを突破したとはいえ、殺戮派だけで人類全てとの戦いを続けることはできません。


 むしらニュクスの失踪で、軍ごと潰走してもおかくないくらいでした。


「それが事実だとすると、平和が戻ってくることになりますね」

「しかしかといってアレは、闘争無しでは生きられない戦場の獣です。次の標的を目障りな魔軍正統派、アガレスあたりに向けるはず。こちらから和平を持ちかければ、素直に退いてくれるはずですよ」


 そこまで伝えると、ホルルト司祭はより思慮に没頭していきました。

 伝えるべきことは伝えました。次はタルトの方にしようと、目を彼女に向けます。


「それ以上言わなくてもわかるよ、大方レイピアの代わりが欲しいって、言い出すんだろ」

「よくわかりましたね……。それと2ヶ月も子供を放置した親の顔が立つ、何かが欲しいのですが」


「町で人形でも買っていったらどうだい。ああだけど、こうなると帰り道をよく考えないといけないね……」

「はて、帰り道がどうかしましたか?」


「それがどうかしちまったんだよ。さすがのアンタだって、正統派の軍勢のど真ん中を突破するなんて無茶さ」


 そういえば二ヶ月も経っていたのでした。

 このレゥムの町からギガスラインを越えても、その先の魔界の森で、魔軍穏健派と正統派の熾烈な戦いが繰り広げられていることになります。


 ともなれば、帰り道を慎重に考えた方が良さそうです。


誤投稿が多くで申し訳ありません。

またやらかしていました。

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