37-11 僕たちやっと取れました……。今夜はお祝いです!
わたしはノトゥンランド本陣まで出向き、陽動作戦の詳細を聞きました。
天幕の中の外も物々しい、いるだけで隠れ里が恋しくなる世界でした。
ノトゥンランドの総大将は国王です。
本土防衛と援軍派兵による人手不足が重なったのもあって、王が自ら指揮を取っていました。
その国王を今回は陽動に使います。
敗走の危険もありましたが、悪くない計画です。国王の首を取れば、サラサールの勝利が大きく近付きます。だからこその最高の餌でした。
「陛下、こんな得体の知れないネコヒトに任せて、大丈夫でしょうか……?」
「お言葉ですが疑わしいですぞ。もっと屈強な、歴戦の猛者たちを選抜されてはどうでしょう」
ただ彼の家臣がわたしという切り札の価値を疑いだしました。
小柄なネコヒトに、サラサールの暗殺役を任せられないと言い出したのです。
「ただの一度も、人間が邪神に勝ったところなどわたしは見たこともありませんね」
そこでわたしはひっそりとウェポン・スティールの魔法を発動させました。
天幕中の人間から剣と槍と弓を奪い、さらにハイドを発動させて姿を消して見せました。
「お、俺の剣が……!? なっ、き、消えた!?」
「なんだこの術は……こんなもの、反則技ではないか! おお、これなら、勝てるか……!?」
ウェポン・スティールは軍隊相手に強い効力を発揮します。
武器を奪う魔法だなんて、兵士からすれば最悪です。武器を失えば死ぬしかありません。
「サラサールの暗殺はわたしにお任せを。命をかけて国を守らんとする国王に敬意を払い、確実にやつをしとめると約束しましょう。サラサールは、邪神は必ずわたしが倒します。ヤツには個人的な恨みがありましてね……」
明日、陽動作戦を実行します。
そこでわたしは邪神を倒し、晴れて堂々とパティアの元に帰るのです。
一日でも早く戻りたいわたしは、必ずここで成功させようと決意を固め直しました。
邪神。わたしたちから大切な魔王様を奪ったクズ。ヤツに引導を渡す日が、ついにきたのです。
●◎(ΦωΦ)◎●
・少し残念そうなウサギさん
その頃里では、残念なことになっちまってた。
アルスとキシリールの右手をつなげていた接着剤が、ゾエの新型接着剤はがしで取れちまったんだよ。
「やったーやったー! おいわいだなー、きょうは、ハンバーグだ!!」
「そりゃお前さんが食いたいだけだろ……」
パティ公が勝手に盛り上がると、他の子供たちからネコヒトの民まで巻き込んでの大騒ぎだ。
要するによ、みんな肉食いたいだけだろがよ……。
「しょうがねぇな……。俺もたまにゃ狩りに出るかね」
「やったーっ、バニーたんだいすき! パティアといっしょに、いくかー!?」
「狩りか。わかった、オレも行こう」
「え。ダメ。うしおねーたんはダメ」
「そんな……。オレのことが、嫌いになったのか……?」
そこで予定を変えてな、今日だけ狩りの人員を増やすことにした。
「うーうん。うしおねーたん、バニーたんより、だいすき。でもねー、うしおねーたんのハンバーグ、もっとすき……。だから、ダメ……」
「それもそうだなー! いくらいっぱい狩っても、料理がイマイチじゃ意味ねーよな~!」
「う……カールに同調するのなんかイヤだけど、わたしもリックさんのハンバーグがいい」
リックちゃんも行きたがったが、リックちゃんのハンバーグじゃないとイヤだと、みんなが一緒になってゴネた。
恨むならネコヒトががんばってこしらえた、肉の備蓄を恨んでくれ。
「理不尽だ……」
「そう言いなさんな。今度一緒に例の枯れ井戸にでも行こうぜ」
「ん、それなら……わかった。ソロもいいが、お前とのペアも悪くない。約束だ」
「いや、リックちゃんよ? またコソコソソロで潜ってんのかよ……でかふくのやつが発狂するぞ」
あのフクロウともしばらく会ってないな。
ともかくリックちゃんとのデートが決まって、二重に美味しい流れで一杯だった。
●◎(ΦωΦ)◎●
狩猟上手ネコヒトの民を連れていったこともあって、その日はワイルドボアだけでも2頭もしとめることになった。
特に人間にはない探知能力がいい。一人連れてゆくだけで、狩りが効率化する。
エレクトラム・ベルがいなくても自立できるように、俺たちはもっと狩りにも順応しなきゃならん。
それはそうと、アルスとパティア、それにネコヒトの民3名も結界の外へと狩猟に向かった。
その時、こんなことがあったらしい。
「あ、とろろだー」
「とろろ? ああ山芋か。どの辺りだいパティアくん? って、えぇぇっ!?」
アルスが思っていたやつとは違った。
そこに現れた巨大な体躯の鬼に、元々はただのお姫様だった者は戦慄した。
こんなの勝てるわけがない逃げよう、と思ったのかもな。
「めぎどぉぉぉ……ふれーむぅぅぅぅーー!!」
「え、えええええええーーーっっ!?」
だがその鬼はお子様に即焼き払われた。
トロルはトロルストーンに変わって、宝石となってアルスの前に運ばれてきた。
「あれー? どうしたのー? ねこちゃんに、あるたん? あ、とろろ? あれ、おいしくなさそうだけど……たべたかった?」
「食べたくない! そうじゃなくてパティア! パティアやっぱり強い、カッコイイ、カッコ強いニャー!」
太鼓持ちも同然に、ネコヒトの民はパティアをおだて倒した。
いや実際すげぇよ。俺だって相手するの面倒だから逃げる。切っても切っても傷が癒える超回復力の鬼なんて、戦うだけムダだろ。
「でへへへへ……♪ てれるー、てれ、てれれるー♪」
「一撃……これでは騎士の、立場がないよ……」
「あ、これねー、とろろすとーんね。べっとんに、おそなえしよう」
「それを言うならおみやげだよ……。死んだみたいな言い方になってるから言い直そう、縁起でもない」
「おお……そっかー、ことばって、むつかしいな……。パティアには、いっしょう、つかいこなせない……」
「パティアくんには、魔法より言葉の方が難しいんだね……」
「うん、そー。じつはなー、そうなの……ねこたんみたいに、おはなしじょうず、なれない……」
シベットの部屋はそこら中、トロルストーンだらけだ。
あの病弱な子猫ちゃんは毎度申し訳なさそうに、けれど心よりパティアの来訪を歓迎して、幸せそうに笑っていた。
最近のシベットは顔色がいい。
このまま病気を克服してもらいてぇな。
「シベットくんの病気、早く治るといいね」
「うん! パティアな、びょうきのこ、みるとなー、むねが、くるしくなる……。なんでだろ……たすけたい! っておもう。だからー、パティアが、べっとんをね、たすける!」
こんなの毎度毎度見せられたらよ、クレイのやつだって裏切る気にすらならねぇだろな。
あんな玉虫色の猫だが、パティアにだけは心から感謝しているように見えた。
「君は将来女ったらしになりそうだね。既に獣たらしだけれど」
「パティア好きー! シベットも感謝してるよ! スリスリ……」
身をすり寄せてくるネコヒトの民を撫でながら、小さくて最強の少女は無邪気に笑った。
「うん! パティアなー、おんなのこも、だいすき。でも、いちばんはー、ねこたんだ。ねこたん、はやく……かえってこないかなー……」
ネコヒトよ、お前さんはやっぱ、幸せ者だと俺は思うぜ。
やることやってよ、必ず戻ってこい。




