5-6 斬り込み隊長の新しいお仕事 2/2
「このサモーヌはバニー、お前が?」
晩ご飯をつつきながら言葉を交わしていました。
するとまことに残念ながら、消去法による帰結がこうして飛び出しておりました。
「そうなのだー、みずうみでなー、バニーたんが、おりゃーって、つった! あ、ねこたんなー、つり、へたくそだ……、うしおねーたん、しってたかー?」
「知っている。普段慎重な教官が、釣りに限っては我を失う。単位が欲しければ、教官に新鮮な魚を贈れ、それが生徒たちの中では1つの処世術になっていた」
バーニィの他に大物を釣れる人間がいなかったのです。
やけに生徒からの魚の差し入れが多いと思ったら、何だそういうことだったのですか。
はい、気持ちには気持ちで返したので不正はありませんでした。
「へぇ、教師やってたのかい。若い頃のホーリックスちゃんは、さぞやかわいかったんだろっ、ネコヒトよぉー?」
「ばにーたん、そういうのー、おじさんくさーい……」
「フッ……確かにな」
「で、どうなのよネコヒトよぉ~?」
おっさんはおっさんであることを恥じませんでした。
会ってその日に、人の過去を詮索しようとしてました。
「はい、密かにモテるタイプでした」
「ぇ……きょ、教官っ?! そんなわけありませんっ、オレ、モテたことなんて……っ」
しかし打ち解けるには良い材料かもしれない、乗っておきました。
一変してホーリックスは動揺して、肉を床に落としそうになっていたようです。
「華やかな百合の大輪とはまた違った、鋭さのあるクールビューティでしたから、ええ、男性よりも、女性の方に特に――」
「うっ、そっちか……教官、その話だけは止めてくれ! 軍でも似たような、面倒ごとに巻き込まれがちで、うんざりしてるんだ……」
悪いおじさんがヒューッとか口笛で煽りました。睨まれてました。
騎士からすれば死神みたいな存在に、よくやれますよねそういうこと。
「はれぇ……? うしおねーたんは、おんな。おんななのにー、おんなに、モテモテなのかー? あははははっ、なにそれへんなのー!」
「教官、子供の前でするような話じゃない……バニーも、止めてくれ」
「ああそうでした、すみません」
黙って晩ご飯に手を付けることにしました。
バーニィがもう言ってしまったが、久々の料理らしい料理です。当然ながら美味しいです。
アザミの食感はやわらかく、ボアの煮物はヒラタケの味が肉汁にしみ出ていて汁まで美味い。
しかしそろそろ、シスター・クークルスに付けてもらった塩が尽きてしまう頃です。
無くなれば食事が一気に物足りないものになってしまうでしょう。
「それにしても美味しいです。こうなるとちゃんとした調理道具に、調味料、生きるのに必要な塩が欲しくなりますね」
「そうそうソレ言おうと思ってたぜ、全力で同意だわ! 例の計画が上手くいったら、真っ先にそっちを頼みたい」
「計画……計画とはなんだ?」
そんな言い方したら怪しまれるに決まっている。
いえわざとなのかもしれない、バーニィはわたしに説明させるつもりなのです。
煮てやわらかくなった肉を指で骨からはぎ取り、胃袋に納めてからその話を始めることにしました。
「あなたがわたしたちの仲間となった証に、教えて差し上げましょう。わたしたちは大地の傷痕、この土地そのものに、ハイドの術をかけるつもりです。パティアの力と、その父親が残したこの、ナコトの書を使って、どうなるかわからない賭けを施すのです」
「うん……せきにん、じゅうだいだ……。でもがんばればー、ずっとねこたん、もふもふできるって、ことだなー! あとー、おねーたんの、おいしいごはんもー、まいにち、たべほうだいだー!」
それとても重要ですね、ただ食事が美味いだけで生きがいが出てきます。
明日は何を食べられるのだろう、レゥムに行ってもっと色々な作物の種を確保しませんと。
「それなら、急いだ方がいい……。ミゴーがそのままを上に報告したのならば、いずれムクドの消息と、教官の死体を探しに、魔軍がここに現れる……」
「おいおい、いきなりそんな話されて信じるのかよ、ホーリックスちゃん」
ところでですが、ちゃっかりとバーニィがちゃん付けを始めていました。
元教官として、少し気になる態度です。
「信じる。あんな、花粉の暴風を食らわされたんだ。この子の常識はずれの才能は、真実だろう」
「ぅ……それ、ごめんなー……。うしおねえたん……あれ、くさいなー、ぅぅ、ごめん……」
「服の洗濯に付き合ってくれたら許す。余裕が出来たら着替えも欲しいな……」
「おっ、なら俺も付き合おうか?」
わたしは服を脱いでもふかふかで、バーニィはおっさんだから多少の汚れは気にしないからいいとして、ホーリックスの着替えも街で調達するのも悪くない。
「結構だ!」
「バニーたん……そんなにー、おっぱいみたいなら、はぁ……パティアの、みるかー……?」
「おう、ありがとよパティ公、ありがたく遠慮しとくわ」
ちなみに41のおじさんは、ずっとさっきからチラチラチラチラと、うちの弟子のおっぱいばかりを見ていましたとさ……。
●◎(ΦωΦ)◎●
後でそのことをそれとなく指摘してやると、彼はこう言ったのです。
「わかってる、俺本人がそれは1番わかってる。……だけどよぉっ、あれは反則だろ!! 枯れたジジィにはわからんかもしれねぇけどよっ、人間の男っていうのは、たとえそれがババァの乳であろうともっ、そこにあったら見ずにはいられねぇもんなんだよぉっ!!」
何を熱く語っているのかわかりませんけど、とにかくそういうものらしいです。
「それにしたって見過ぎではないでしょうかね」
「だからわかってるって言ってんだろ……。つか、男が女の胸を見て何が悪いよ!!?」
「ならパティアに見せてもらえば良かったんじゃないですかね。ええ、そんなことはわたしが許しませんが」
まったく困ったおじさんです。笑うしかありませんでした。
「おい、そっちこそよ、いつかアレは嫁にやるものだと、ちゃんと理解してるか……?」
はい、失念していました。
あの子の強すぎる力を理解した上で、それを利用せず仲むつまじくやっていけるソレ相応の器を持った男に限りますね。
すみませんがそんな聖人、この世に存在するとは思えませんよ、バーニィ。




