37-9 ボクたち私たちくっついちゃいました 後編 - シェフが黙れって言ってますにゃ -
夕食時になると、飯を食うのにも難儀するアルスとキシリールを食堂で見物した。
こいつら、利き腕がふさがっている上に繋がってるからな。
キシリールなんて右手を左に出して、その状態で不器用な左手を震わせて、シチューを危なっかしく口に運んでいた。
見ているだけで面白い。面白いのでその向かいのテーブルに俺も陣取り直した。
人の不幸をおかずにするためにな。
「クッ……いつまでジロジロ見ているんだ! 人が食べにくそうにしているのを眺めるのが、そんなに楽しいのかっ!?」
「ああ楽しいね。おおそうだ、なら俺が食わせてやろうか? アーンってしてみな?」
「お断りだっ!」
アルスがテーブルをヒステリックに叩いた。
自分が見せ物になるなんて、お姫さんにとっては初めての経験だろうか。
「先輩、アルストロメリアさんをからかわないで下さい」
「おっ、キシリール、お前さんの方はどうだ? ほら、あーん、ってやってやるから口開けろ」
「ば、バカ言わないで下さいよっ!?」
若者いじりはおっさんの特権だ。
キシリールも公衆の面前でそんなことできるかとプライドを取った。
「つれないねぇ……。じゃあ誰がいいんだよ? クークルスちゃんか? それともマドリちゃんか? よしそうしようぜっ、マドリちゃんっ、ちょっとこっち来てくれよっ!」
「ええっ、そこで、わ、私ですか……?」
マドリちゃんを指名すると、すぐに飛んできてくれた。
……うん、イヤに早いな? 忠犬並みっていうか。まあいい。
「すまんねマドリちゃん。アルスの野郎が素直にならねぇからよ、あーんっしてやってくれ。アーンって言ってやるんだぞ。ククク……」
「そ、そういう楽しみ方、趣味が悪くないですか、バーニィさん……。そ、それに私、それなら、バーニィさんに、あーんって、してあげたい……」
ん……っ!? そこでなぜ俺の方に飛ぶんだ!?
そうか。マドリちゃんはそうしたいのか。そうかそうか、かわいいな。けどこれ男なんだよなぁ……。
「おいバーニィ、お前っ彼女に何をした!? 正気に戻りたまえマドリくんっ、これはただのスケベオヤジだ! 誰にでも調子の良いことを言う軽薄な人間だよっ!」
「いや、彼女には何もしてねぇよ。むしろ、何もできねぇから、困ってるっていうか……。ぁぁ、こりゃ反則だな……」
マドリちゃんはやっぱ最近、ちょっと変わったかもしれん。
まさかとは思うけどよ、俺――まずいものを目覚めさせちまったんじゃないか……? どうもそう肌で感じる時が多々ある……。
「はなしは、きかせて、もらったぜ……。それ、パティアがしてあげるぞー! あるたん、あーんっ♪」
ところでそこにパティ公が飛んできた。
今はネコヒトの野郎がいないからな、普段よりずっと静かだった。
「あーんっ♪ う~んっ、美味しいよパティアくん! いきなり現れて、口に芋を押しつけるから、正直驚いてしまったけれどね……フフフ」
「お、俺もパティアちゃん相手なら、そんなに恥ずかしくない気が……」
「おおっ。うれしいこと、いってくれるぜー……。じゃ、キッシリも、あーん♪」
人がせっかくからかって遊んでたってのに、パティアが現れただけで空気がゆるゆるに変わった。
「あらあら楽しそうー♪ クーちゃんも混ぜて下さいなー♪」
さらにクークルスちゃんまでそこに現れて、親切に食事をあいつらの口に運びだす始末だ。
そこで俺は食堂の奥の方に撤収した。腹を抱えて一部始終を笑うゾエと、ふてぶてしいクレイの隣にな。
「さすがウサギさんですにゃ。さすがの趣味の悪さですにゃ~」
「ハハハッ、面白かった! ワハハハハハッ、面白かったよウサギくん! 手と手がくっついちゃうだけで、人間ってあんなに、感情をほとばしらせるものなんだねぇ! ハハハハハハッ、同性と手を繋ぎながら食事をするなんて、我が輩なら絶対お断りだねぇ、ハハハハハハハッ、あー苦しぃぃっ、死んじゃう死んじゃう我が輩ッッ!!」
あいつらは被害者で、お前が一応加害者なんだけどな。
ゾエのやつはお構いなしの大声で爆笑していた。
「笑ってないでさっさと接着剤はがしを作れ! このキチ○イ錬金術師めっ!!」
「さすがの俺も、あまりの扱いにキレてしまいそうです……。後で、覚えていて下さいねゾエさん……?」
殺気のこもったマジギレだった。
しかしその程度で臆するゾエではない。というより、空気を読む力がヤツになかった。
「男同士で手繋ぎながらなんか言ってますにゃ~♪ あの二人、今夜のお風呂どうするのかにゃー?」
「おうっ、我慢しないで入れ入れ! 男同士なんだし気にするこたぁねぇだろ? それにもしかしたらよ、湯で接着剤がはがれるかもしれねぇぜ?」
と、俺は言ったんだよ。そしたらそいつらよ、マジでせっぱ詰まって焦っちまったのか、後で本当に実行しやがったらしいぜ。
「お、男同士で、手と手を繋ぎながら入浴しちゃうのかねっ?! プッ、プハハハハハッッ、ソイツは傑作だ! ワハハハハハハハハッッ!! ……ハ?」
そのときゾエのテーブルにフォークが突き刺さった。
投げたのはリックちゃんだ。食器で正確に相手の目前を打ち抜くなんて、リックちゃん以外にはできねぇからな。
「シェフが黙れって言ってますにゃ……」
「う、うむ……。これ以上笑うと胃によろしくないと、我が輩を心配してくれたのかもしれんな……」
「お前さん、どんだけ前向きなんだよ」
ま、そういうわけでこの後の夜遅くな、キシリールとお姫様は希望にすがって城の地下へと向かったそうだ。
ごめんなさい!
投稿するエピソードを間違えていたので差し替えました。イージーミスが多くてすみません!




