37-9 ボクたち私たちくっついちゃいました 後編 - リード・アルマドの心変わり -
「やっぱ違和感あるわー。あのおっさんがなぁ……?」
「でも、バーニィさん良い人だよ。ジョグさんもそう言ってるよ。その……少し、困ったところが、あるだけで……」
他の連中ならいいんだけどよ、リセリに言われるとギクッとくるな……。
目が見えないが、代わりに別のものを見透かしてる子だからな。リセリの前だけでは、猫かぶりてぇけどまあ無理だよな。
「それが問題なんだ。まったく、あのスケベ男は……」
いやアルスにだけは言われたくねぇわ。
お前さんだってこっちの里にきて、昔の立場捨て去って好き放題してるじゃねぇか。
「それでね、バーニィ先輩はね、毎年恒例の騎士団の武道会では、毎回準々決勝に入ってたんだよ」
「おおー、バニーたん、しゅごい!」
「あのおっさん、腕だけは確かなんだよな……」
「ねー、腕だけはねー……。なんであんなにエッチなんだろね……」
それは男だからだ。男は死ぬまでスケベだ。
スケベ心を否定したら、もうそいつは男じゃねぇんだよ。
「けど準決勝に入ったことは一度しかない。俺とバーニィ先輩が深く知り合ったのは、ある年の試合からだ。あの人はわざと俺に負けてね……。当時は、凄く腹が立ったよ……。バカにされているような気がして」
「わざと負けた? なぜそんなことをする。勝てば出世できるかもしれないのに」
そりゃ世の中そう単純じゃねぇんだよ、お姫様よ。
階級社会っていうのはよ、序列が簡単にはひっくり返らないようにできてるんだ。
「お偉方の顔を潰すと後が怖いと言われたよ。俺に勝ちを譲りたくなったとも、言ってたな……。活躍しないと出世できんが、活躍すると恨みや妬みを買う。パナギウム王国は難しい国だって……」
すまんキシリール、そこは言ったかどうか覚えてねぇわ。
「なるほどね……。けど、子供にするには少し話が重いんじゃないかな? さて、これまでの中で何か質問はあるかな?」
アルスが話を締めると、子供たちが一斉に挙手をした。
どれもなんでもない質問だ。よどみなく二人は答えていった。だが……。
「せんせー、なんでお手手、繋いでるのー?」
「ッ……それはさっき説明しただろう……。ゾエの接着剤で、くっついてしまったんだよ……ほら、離れようにも離れない」
「彼女はいる?」
「うん、良い質問だ。かわいい子ならいつでも大歓迎だよ」
段々と質問の方向性がませていった。
チャラい女ったらしが言いそうなセリフだぜ。
「キシリールさんは!?」
「俺か……。俺はそういうのには疎くてね、彼女なんていないよ」
「じゃあ彼氏はー?」
「はい……?」
「あのねあのね! お二人は、男同士だけど、付き合ってるって……聞いたよ!」
「な、なななっ、そんなのは嘘だよ! いったい誰から聞いたんだい!?」
後でジアから聞いた話だと、二人とも顔がかなり赤かったそうだぜ。
別に悪くねぇ組み合わせだと、俺は思うんだけどな。
「俺知ってる、それバーニィのおっさん」
「鬼かあのスケベオヤジっ! そんなアルス様が――同性愛者だなんて、信じられ――ううん、それはそれで、意外とありなのかも……」
バラすなよカール。
それに違うぜジア、こいつらは男と女だ。騎士と主君の娘だ。
だからこそ、いじりがいがあるんだよ。くっついたら絶対面白れぇぞ。
「ありもなしもない! 止めてくれ、それはバーニィのたちの悪い冗談だ!」
「ううっ……あんなに立派だったバーニィ先輩はどこに消えたんだ……。酷過ぎですよ、こんなの……」
ははは! どうせ俺はこの里から出られん。
アルスの正体がハルシオン姫様だろうが、俺の知ったことか!
からかえる時に、キッチリからかうのが俺の流儀だ。
恨むならこんな愉快なイベントを起こしたゾエを恨むんだな。
●◎(ΦωΦ)◎●
右手と右手がくっついては、ただ単に歩き回るだけでも不便だ。誰かに見られたらそれだけで恥ずかしい。
やむを得ず二人は部屋にこもって、夕食になるまで言葉を交わし続けたそうだ。
「あの男は……。全く信じられないよ、無礼にもほどがある……!」
「すみません、すみません……。バーニィ先輩には、後でちゃんと言っておきますので……」
「君も君だ。なぜあんな男をかばう!? 一緒に怒ればいいじゃないかっ、ああやって人をからかうところを、子供たちが真似したらどうする!」
「それもそうですね……。バーニィ先輩のああいうところは、反面教師にしてほしいところですけど、カールなんかはかなり影響を受けている節もありますね……」
後でキシリールからそういった小言を聞かされた。
テキトーにうなづいてよ、聞き流しておいたがな。
ま、そういうことでよ。俺の仕込んだイタズラのおかげで、二人の距離は前より近付いたようだった。
●◎(ΦωΦ)◎●
少し話がそれるが、大工仕事の方がようやく佳境に入った。
この最後の一軒の増築を済ませれば、目標達成だ。これで子供たちみんなが自分の家庭を持つことになる。
その分だけ、古城で寝泊まりする連中の獣密度が上がるんだがな。
ネコヒトの民はクレイをのぞけばみんないいやつらだ。話好きで、寝坊助なとこはあるが、一緒に寝起きして気持ちのいい連中だった。
「おうどうしたマドリちゃん、ご機嫌じゃねぇか。何かあったか?」
「あっ!? い、いえ……ぼ、私そんな顔してましたか……?」
「してたな。ニコニコ嬉しそうにこっち見てたぜ」
「う……す、すみません、僕……」
「大工仕事が楽しんだろ。先生の仕事、あいつらにもう少し任せるのもいいかもな。ククク……」
最近、マドリちゃんの様子がどことなく妙だ。
接点が増えたというか、気づいたら隣にいることが多くなった。
「そうですね、真剣に考えたくなってきました。できるだけ、こっちを手伝いたいな……」
「はははっ、マドリちゃんも男の子だからな。男ってのはそういうもんだ」
「ば、バーニィさんっ! そ……そういうのは、誰かに聞かれたら……っ」
「ああそうだったな、すまん。……うしっ、そっち支えてくれ。ちゃっちゃとやっちまうぞ」
「あっ、はいっ♪ バーニィさん、これからも僕にお手伝いさせて下さい……!」
心境の変化、ってやつか……?
こっちが変わらないこれまで通りの関係を選ぶと、マドリちゃんもそれに乗ってきた。
これって嫌われなくて良かったと、安心するところか? でも男だからな、これ……。
「これが建ったら……また新しく家を建てるか。狩りもしてぇけどな」
「最近、バーニィさんこっちばかりですからね」
「なんだ、俺の予定に詳しいな」
「そ、それは……み、見てますから……」
見られてんのか、俺。
ん、んん……? なんだ? 俺たちの関係、どういう方向に向かってるんだろうな?
「ま、悪い気はしねぇ。……でよ、クレイのやつがよ、勝手な約束しやがったからな。さらに多くのネコヒトの民がここに押し寄せることになるらしい」
「はい、ちょっと家を建てたくらいじゃ足りませんよね……」
「だよなぁ……。ネコヒトの野郎もよ、あれで同胞にはだだ甘だからな。どうにか受け入れ体制整えておかねぇと……冬がヤバい」
そうなりゃここは完全に猫の里、まさにネコタンランドになるってわけだな。
パティ公が目を輝かせそうな話だ。
「あの……なら、何か相談があったら、いつでもうちに来てください……。僕、待ってますから……」
「え。ああ、おう……わかった、頼りにしてるぜマドリちゃん」
「ぁ……はいっ、約束ですよバーニィさんっ♪」
「お……おぅ……」
あ、あれ……? 今、色目とか、向けられたか……?
その後の作業中も、マドリちゃんはしきりに目線をこちらに向けてきて、何度か自分の指先をかなづちで潰したりもした。
いや、まさかな。まさか、む、むぅ……。
マドリちゃんの中で、心境の変化が起きたのは確実なようだ……。
 




