37-8 ボクたち私たちくっついちゃいました
・(ΦωΦ)
わたしはしばらく待機することになりました。
とはいえわたしはネコヒトです。
不要な時間を眠って過ごすのが得意ですから、パティアのことさえ思い出さなければ苦もない日々でした。
「お帰りなさい、情報は集まりましたか?」
やがて二日ほど経って目を覚ますと、そこ何やら青い顔をしたバタヴィアが立ち尽くしていました。
「はて、浮かぬ顔ですがどうかなさいましたか」
場所はあの待ち合わせ場所からさらに進んで、比較的安全で支援を受けられるノトゥンランド領内の小屋になりました。
「暗殺は不可能だ……」
「それはなぜでしょう」
彼女の中で未来がふさがったかのように見えました。
三白眼のバダヴィアがこういった顔をすると、悲壮感や陰鬱な感情が空気にもあふれ出すかのようでした。
「最悪の予想が当たった。戦場に出没している鬼は、サラサールだ……。サラサールが鬼に姿を変えるところを、密偵が目撃した……。その密偵との連絡も、もう付かなくなっている……」
戦局を変えるほどの最強の鬼を暗殺しろ。
確かにこれは当初とは話が違います。
誰にも予想なんてできなかったでしょうがね……。
「落ち着いて下さい。つまりこちらがわざわざ敵陣奥深くまで入り込まなくとも、あの悪王を殺すチャンスがあるということでしょう」
「あ、ああ……そういう考え方もあるかもしれないが――だが、どうやってあんな怪物を倒すのだ! もはや人間ではないぞ、あんなもの!」
「可能かどうかは私が決めます。ノトゥンランド軍に連絡を。法国の力で、私を客将の地位において下さい。史上最低の悪王に世界を滅ぼされたくなかったら、と」
人間が鬼に変わる、ですか。
それもろくすっぽ戦闘力もない、甘やかされて育った中年男が、最強の鬼神に変わった、ですか……。
もしわたしの予想が正しければ、サラサールの命はそう長くないでしょう。
いえ予想が外れていてくれることをわたしは願います。
もしも彼の中に宿る者が邪神だとすれば、暗殺という判断力を要される任務で、わたしは冷静さを失うことになります。
魔王様の肉体を奪った鬼畜と対峙して、怒りを抑えられるはずがないのです。
どんな手を使ってでも、わたしたちから魔王様を奪ったクズに、苦痛と後悔を与えてやりたいと思わずにはいられませんでした。
邪神さえ余計なことをしなければ、世界はダラダラとした停滞が続いていったはずなのです。
●◎(ΦωΦ)◎●
・うさぎさん
その日、ゾエの研究室に二つの顔ぶれがそろった。
偽騎士アルストロメリアと騎士キシリールだ。
「おやおやおやおや、お熱いことですな。まさかそんな関係だったなんて、我が輩てんで気づか――あいたぁっ!?」
これがまた笑えるぜ。
ゾエが人の感情を逆撫でするタイプなのは認めるがな、これが笑えるんだわ、わはは!
「あ、アルスさんっ、暴力はダメです暴力は……!」
「止めるなキシリール! この糞錬金術師を、僕はどうにかしなければならないんだ!」
「やめて、やめて、いたい、ぼうりょくはんたい、いやー痛いのいやー! というか、なんでそんなに怒ってるのであるかっ!?」
「ならこれを見ろ!」
接着剤だ。不幸な偶然と偶然の重なり合いが、この錬金術師の作ったニカワが右手と右手をくっつけた。
つまりキシキシはよ、あろうことがアルス様と手と手を取り合ったまま、離れられなくなっちまったわけよ。
ワハハ! こりゃ俺の推理も確定かね。
キシリールがアルスに恐れ多いと萎縮した態度を見せるたびに、この方はハルシオン姫ですと、俺に叫ぶようなもんだった。
あ? その姫に俺がセクハラや暴挙を働いた? ツレションまで誘っただと?
知らんわ。コイツがアルストロメリアと名乗る限り、全てノーカウントだね。
ああ、一応キシリールのためにフォローしておく。
キシキシはただ、アルスに張り付いたニカワを取ろうとしただけだ。だが粘着力がおかしいようでな、完全に張り付いちまった。
「ハハハハハハハハハハハ!! もしかしてっ、その手と手、くっついちゃったのかねっ!? ワハハハハハハハッ!!」
「笑うなぁっ! おいゾエッ、これは笑いことじゃないぞ! これでは、里中のレディに、私とキシリールがラブラブだと、勘違いをされてしまうではないかね!!」
「なんて恐ろしいことでしょう……。あの方に、顔向けできません……」
ってキシキシは言うけどよ、外の世界の下らんシガラミなんて、いっそ犬かなんかに食わせちまえよ。
異常者のサラサールを廃して、最初からハルシオン姫の兄を世継ぎにすりゃよかった。
前王がそれをしなかったからこうなったんだ。
「で、それを取って欲しいのかね?」
「そうだ! どうにかしろこのヘッポコ錬金術師!」
「手と手を繋いだままくっついちゃったマヌケどもに言われても、いまいち悔しい気分にならないのであるな。ああまあ待っていろ、面白い喜劇を見せてくれた礼に、今から作ってやる。ワハハハハハッ、しかし仲が良いねぇ、男同士の友情かねっ、これは関係を勘ぐられてしまっても――」
「笑うなっ、全てお前のせいだろう!」
悪いなアルス、笑うなと言われても笑うだろそりゃ。
俺は別に構わねぇぜ。こいつら美形がホモだと疑われてくれるとよ、俺のスケベ心的にはプラスの事件になるからな。
ま、くっついた対象が身動きしてくれる人間だっただけ、まだマシだったんじゃないかね。
●◎(ΦωΦ)◎●
しろぴよ型のヘンテコな錬金釜での調合が始まって、しばらく経つと薬ができあがった。
「うむ、これでよい。この薬を定期的に塗って、2,3日我慢すれば取れるんじゃないかね。まあ、たぶんであるので、保証はできんがね?」
こうならなきゃ事件は俺の耳にも届かなかった。
良かったな二人とも、数日間は仲良しベッタリだ。ワハハハ!
「2,3日!? ちょ、ちょっと待って下さいよっ!?」
「3日も男と手を繋いでいろと言うのか! もっとちゃんと薬を作れ!」
「そう言われてもだね、我が輩これでもベストを尽くしたのであるよ?」
「ああそうか、わかったよ。よしキシリール、剣を抜け! どうやらコイツは我々の窮状を、まるで理解していないようだ!」
「い、いえ、それはさすがにダメですよっ!?」
剣を抜くって言ってもな、二人とも利き腕を失っている。
つまり脅すのも難しく、飯食うのにも不便するってことだ。
「なら仕事はどうするのだ!? 風呂は!? 夜はどうやって寝ればいい!?」
「お願いですゾエさん……このままじゃ俺たち役立たずですよ……」
無理にはがすだなんて怖い考えはないようだ。
やればどちらか片方の皮膚がはがれて、3日じゃ済まない日数を治療と痛みと一緒に過ごさなきゃならんからな。
「わかったわかった。接着剤はがしを改良しておく。だがそれまでは我慢するしかないぞ。そうだ、今から風呂にはいるとしよう、さらばだ面白騎士たちよ! ワハハハハハハッ、この接着力! やはり我が輩は天才かっ!」
その日から、アルスとキシリールの片時も離れられない愉快な生活が始まった。
いやぁ、そりゃもう眺めてるだけで、俺だってつい吹いちまうほどに、二人の織りなすコントは最高だったぜ。
特に風呂、あと着替えな。姫君相手に、さぞ苦労したんだろうな! いっそそのまま心までくっついちまえ。
よくよく考えてみりゃ、お前ら結構お似合いだぜ。そう思ったわ。
365話走りきりました。本日より、投稿ペースを落とします。
3日に1話ペースになります。
これからも続けていきますので、どうか引き続き追ってくださるとありがたいです。
次の投稿は11月9日になります。
新作を始めました。ページ下部にリンクを繋げましたのでどうか読んでみて下さい。
ねこたんに登場したキャラクターの魂を引き継いて、こちらもこちらで、やっていこうと思っています。




