37-7 隠れ里の日常 失せ物とワンコ - パティアの秘密 -
「そろそろ出発しよう。なんとか明るいうちに探さないと……!」
「うんっ、しゅっぱつだー!」
「あとどうでもいいけどパティア、お前、口に芋の食べカス付いてるよ」
「おおっ……。じゅるり……とれたー?」
パティアが口の周りをペロリと舐め回した。それこそ犬みたいだ。
「お前の方がよっぽど犬じゃん……」
「あはは、女の子なら手で取った方がよかったかもね……」
「あっ、しろぴよだ!」
そこに不思議な小鳥しろぴよが合流して、ボクたちはまた湖をぐるりを回りながら、落とし物捜しを再開した。
●◎(ΦωΦ)◎●
「しろぴよー、これあげるー♪」
「ピヨッ、ピヨヨヨーッ♪」
のんきにパティアが目に付く木の実を採集して、しろぴよに分け与えながら進んでいた。
しろぴよの胃袋は無尽蔵だ。鳥は食べたら出す肉体構造なので、パティアの手は……ううん、なんでもない。
「ないなぁ……やっぱり、僕の鼻なんて、役に立たないんじゃ……見落としたのかもしれない――あっ?!」
「どしたの、ラブちゃん? おおー?」
けどラブレーが何かに気づいた。
急に湖周辺から離れて、森の奥にラブレーがかけていった。当然、ボクらはそれを追いかけることになった。
「見てよ二人とも! ほらあったよっ!! この人形、あの子と同じ匂いだ!!」
「おおおーっ、ラブちゃんしゅごーい! パティア、ぜんぜんわからなかった……イヌヒトさんかぁ。もふもふで、はなも、いいのか。うらやましい……パティアも、もふもふに、うまれたかったなぁー……」
それはボクが想像していたよりずっと粗末な人形だった。
布は汚れが沈着して薄黄色くなっていて、綿もつぶれて人形はペラペラのクタクタだ。
「僕はお前のおかしな魔力の方がずっと羨ましいよっ! あっ、それより僕、コレあの子に届けてくる! 少しでも早く、安心させてあげなきゃ!」
ラブレーもラブレーで犬みたいだな……。
不覚にもラブレーの後ろ姿を見ていたら、ついそう思ってしまっていた。
失礼だからとても言えないけど、誰かのために一生懸命尽くす姿は、どうしても微笑みを誘う光景だった。
「見つかって良かったね」
「うん。パティアも、なんかおとしたら、ラブちゃんにたのもう」
「私もそうしようかな」
「ねぇ、まどりんせんせー。まどりんせんせーは、なんでもしってるから、ききたいことが、ある」
「なんでも知ってるなんてことはないけど――何かな?」
ボクたちも帰ろう。パティアと手を結んで湖畔をゆっくりと歩いていった。
なんだか気分がいい。ボクが手伝った家が建ったときよりも、さらにいい気分だった。
「あのね、まどりんのね、よそーでは、ねこたん……いつ、かえってくる……?」
「ぇ……?」
「ねこたん、かえってくるよね……。ねこたん、しなない……?」
それは思わず胸が締め付けられるほどに、弱くかぼそい声だった。
詳しい事情を聞かされていないから、なんとも言えないけど……確かに今思えば、ベレトさん、いつもと様子が違っていた。
「死なないです。あの人はどんな場所にでも忍び込めて、ビックリするようなモノを盗んでみせる人です。逃げると決めたエレクトラム・ベルを、捕まえられる人なんてこの世にいません」
「おわ……あれー、ねぇ、どうしたのー、まどりん……?」
不安を取り除いてあげたくなったボクは、やさしい女性マドリを演じて、パティアを少しきつく抱き締めた。
不思議そうにパティアがボクを見上げる。よかった、不安や悲しみに負けるよりずっといい。
「あのなー、まどりん。これは、ひみつだけどなー……。パティアは、ねこたんの、ほんとうのね、こどもじゃないんだ……」
「え、あ、うん……そ、そうなんだー、気づかなかったなぁー……?」
「あのね……パティアには、ほんとうの、おとーたんがいたの……。でも、おとーたん、ころされた……。パティアは、ねこたん、いなくなったら……もうダメだ……ねこたんいないと、ダメなの……」
「そうなんだ……。そんな辛いことがあったんだね……でも大丈夫だよ、絶対に戻ってくるよ。私が保証する、エレクトラムさんは凄い人で、絶対に死なないって」
ベレトさん、絶対に帰ってきて下さい。
命まで賭ける必要なんてありません。
きっと魔軍の動向が関係しているのだろうけど、あなたが死んでしまったら本末転倒です。
あなたに助けられたボクが言うのも変だけど、パティアのために、必ず帰ってきて下さい。




