表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
363/443

37-7 隠れ里の日常 失せ物とワンコ - ナンテン -

・うさぎさん


 森で年少組の女の子がある落とし物をした。

 なんでも実の親との思い出の人形だったそうでな、せっかくの昼飯にも手を付けなくてよ、とてもじゃないが見るに堪えない落ち込みようだった。


「よっしラブ公! パティ公とお前さんの出番だ、さあ行ってこい!」


 増築もあと一軒を残すのみだ。

 ちょいと俺は動けんので、パティアにワンコを任せることにした。


「な、なんで僕なんですかっ!?」

「お前さんの嗅覚なら必ずたどり着ける。で、どの辺りで落としたんだ?」


 そこは泣きじゃくる女の子の代わりに、マドリちゃんが通訳をしてくれた。

 魔貴族の生まれだっていうのに、マドリちゃんはやさしいよ。そこいらの女の子よりよっぽど、いい女してるぜ。


「東の森です。ハンスさんの護衛を受けながら、湖を回りながら採集をしたみたいですね……」

「ルートがわかってんなら簡単じゃねーか。うし、ラブ公。この子の匂いを覚えな」


 女の子の持っていた小さなハンカチを借りて、それをラブレーの鼻に近付けた。

 だがワンコみたいには簡単じゃない、眉が八の字に上がった。


「だから僕っ、犬じゃなくてイヌヒトです! そういうのは犬に――」

「できない、の……? ママが作ってくれた、大事な人形、なの……。ッ、ッッ……ふぇぇ……どうしよう、昨日に、帰りたい……」


 お子様の涙一滴ですぐにその眉が下がったよ。

 心配なら最初から断らなきゃいいのにな、ラブレーは女の子を見つめだした。


「大丈夫だよ。ラブレーが必ず見つけてくれるよ、イヌヒトは魔界でも凄い種族なんだよ。誠実で、賢くて、義理堅いんだよ」


「そうだぞー。パティアと、ラブちゃんがいれば、だいじょうぶ。パティアもなー、にんぎょう、でっかいカラスにとられてな……しゅごく、きもち、わかる……。まかせて! ぜったい、みつけてくるからねー!」


 そこにパティ公の援護射撃も加われば完璧だ。

 ラブレーの逃げ場はもうどこにもない。


「ほれ、もう断れんぞ。お前さんだけが頼りだ」

「バーニィさんは強引ですよ……。わかりました、僕なりにやれることをやってみます」


 不満を漏らしながらもラブレーは素直にハンカチから匂いを覚えて、マドリちゃんとパティアを引き連れて、東の森へと出発した。

 みんなの尊敬を集めるチャンスだぜ、がんばってきなラブ公。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



・ウサギに夜ばいをかけられた元少年


 ボクたちは東の湖をぐるりと回っていった。


「ないなー」

「うーん、ないね……。どうにかして見つけてあげたいのに、困ったね……」


 ところがいくら歩いても人形なんてどこにもない。

 女の子の話によると、それは布と綿を縫い合わせただけの簡単な物で、年期が入ってボロボロになっているそうだ。


「まどりん、わらって?」

「え、あ、うん……こうかな?」


「ぉぉ……やっぱ、まどりん、かわいい……」

「か、かわいくなんてないです……」


 知らず知らずのうちに、ボクまで暗い顔をしていたようだった。

 それに対してパティアは、物探しついでの散歩でも楽しむかのように、自然体の微笑みをずっと浮かべていた。


 ずっと年下の子に対する感想じゃないかもしれないけど、この明るさと揺るがなさを見習いたいなって、思ってしまった。


「あ、ラブちゃんだ!」


 少しするとそこにラブレーが戻ってきた。

 ラブレーはボクたちよりずっと持久力があるから、森の深い部分を駆け回ってくれていた。


 湖の向こう側を見てみれば、バーニィさんが作った釣り小屋がほぼ対岸にある。

 つまり湖を既に半周も回っていたということだった。


「少し休もうか」

「あ、うん。僕は平気だけど、みんなが疲れてるならしょうがないな……」

「いも! おいもたべよう! うしおねーたんの、おいも!」


 出るときにリックさんが蒸かし芋を持たせてくれた。

 今晩はマッシュポテトだそうだ。ボクたちに1つずつ持たせてくれたものを、包みから出してモソモソと口に入れる。


「うまっ、うまぁー♪ うしおねーたんのおいもは、さいこうだ。あれー、ラブちゃん、たべないのー?」

「そんなに欲しいならあげるよ」


 ラブレーは森に入るなり、ずっと熱心に人形を探していた。

 なのにまるで見つからなくて、湖畔を進むにつれて焦ったり落ち込む姿がボクらの目に付いた。


「う……! そ、そんな、そんなわけには、いかねぇぜ……? こんなにおいしいの、ラブちゃんのぶんまで、たべちゃうなんて、そんな……。でへへ、でも、いらないならー、ちょうだい!」


 ラブレーから蒸かし芋をもらって、パティアはご機嫌でそれをがっついた。

 いつもながら凄い食い意地だ。それに芋一つでここまで幸せになれるなんて、この子はなんて人生の楽しみ方が上手なのだろう。


「はぁ……。見つけてくるって約束したのに……。どうせ、僕なんて……イヌヒトなのにイヌヒトの力も生かせない半端者なんだ……」

「落ち込むには早いよ。まだ半分しか回ってないんだから」

「そうだぞー。よしよし、がんばって、いいこいいこ」


 普段なら抵抗するのに、ラブレーは素直に頭を撫でられていた。


「結果が出なきゃ意味ないよっ」

「よくわかんないけど、あのなー、ラブちゃんおちこんで、どうするのー?」


 誰かが暗い顔をしていると、パティアはその人を元気にしようとする。

 それは義務感なんかじゃなくて、犬が家族を慰めるような感じに似ていて、なんだかつくづく不思議な子だと思った。


「がんばれば、きっとみつかるよ。ぐる~~ってしても、みつからなかったらなー。またぐるーーってすれば、いいんだぞー?」

「わ、私はそこまで体力ないから、そんなに付き合えないかな……」


 一周だけでも僕にとっては結構な運動だ。

 この里にきて、畑仕事やバーニィさんの建築を手伝って少したくましくなったけど、二人の体力にはかなわない。


「うーうん、まどりんはー、たべれるやつ、みわけるのがじょーず。これたべれる?」


 オーバーオールのポケットから、パティアが小さな赤い実を取り出した。

 それに顔を近付けて観察するとすぐに正体が判明した。これはナンテンの実だ。


「これはたぶん美味しくないよ。弱い毒があってね、たくさん食べると身体に良くない。でも薬にもなるから、クークルスさんやゾエさんに持って行ってあげると、喜ぶかもね」

「おお……すごーい! まどりん、すごーい! やっぱり、あたまいいなー。わかりました、まどりんせんせー! ……でも、しろぴよ、これすきだよ?」


「う、うん、鳥と私たちは違うから……」

「ふーん……しろぴよなー、なんでもたべるからなー。むかしねー、パティアがねー、しにそうになったの……たべてた……しろぴよ、しゅごいな……」


 ボクが里に来る前に何があったんだろう……。


再告知・365話より投稿ペースを落とすことにしました。

しばらくは3日に1回のペースで投稿して、体力がもつかどうかで判断していこうと思います。

それと、新作の予告版のご支援ありがとうごじます。

おかげで短編ランキング上位に入れました。面白いお話に仕上がっていますので、今後ともご愛顧下さるとがんばれます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ