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37-5 騎士アルストロメリアの真実

・(ΦωΦ)


 日没前、わたしはギガスラインに到着しました。

 正統派が動き出したとの報告を受けて、要塞は慌ただしくも今さら防備を固めているようです。


 しかし奇異な光景でした。

 なにせ穏健派の魔族がギガスラインの防衛に加わり、頭上では翼を持つ種族が巡回や物資の運搬をしていました。


「皮肉な光景ですね……。サラサールという最悪の裏切り者が、人と魔族が手を結ぶきっかけを生み出したのですから……。とはいえ、暗殺の予行演習としては悪くありませんか」


 鳥魔族は翼を持ちますが闇に弱いです。

 夜を待ち、月が雲に隠れるのを静かに待つと、ネコヒトはハイドとアンチグラビティを同時発動させて、ギガスラインを誰にも気づかれずに堂々と乗り越えたのでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



・偽りの騎士


 恩人エレクトラム・ベルが旅立ったその日、僕はバーニィが作った湖畔の釣り小屋で竿を水面に下ろしていた。

 僕の周囲をなぜかネコヒトたちが取り囲み、なんとその数は数十名にも及んでいた。


 今日は馬の世話をキシリールに任せて、僕の本業とも言える釣り人となったのだ。

 ここでは魚の価値がなぜか肉よりも高くてね、持って帰るだけでネコヒトたちがミャーミャーと大騒ぎしてくれる。


「あの、君たち、そんなに見られても困るよ……」

「気にしないで!」

「私たち、釣りだけはヘタクソで、そのせいか釣りをしている人を見ているだけで、楽しいです」

「あ、また引いていますよ、麗しの釣り師様!」


 毛皮だらけのハーレムだ。パティアくんなら大喜びするだろうな。

 ネコに取り囲まれた偽りの騎士は、竿を引いてアユーンフィッシュを釣り上げた。


「ミャーミャー!」

「フニャー、凄いです釣り師様!」

「拍手拍手、天才です!」


 どうでもいいパーティで、貴族たちに接待されているような気分になるよ……。

 アユーンフィッシュにネコヒトたちが群がって、仕掛けから外して、すぐに餌が取り付けられた。


 至れり尽くせりなのももう慣れたよ。釣り竿をまた湖に向けて振りかぶった。

 もはや完全に釣り人と、ネコの関係になっているような気がしてならないな……。


「落ち着かないなぁ……」


 しかしネコヒトたちはみんな笑っていた。

 本当に釣りをする姿を見ているだけで、彼らには娯楽になるらしい。中には暖かな陽光に照らされて、眠りこけている者もいた。


「あっ、釣り王者様!」

「いらっしゃい! 見て下さいこんなに釣れてます!」


 釣り王者……?

 イヤな予感がして後ろを振り返ると、それはあの中年スケベウサギだった。


 そいつがなぜか僕の隣にやってきて、ちょっと乱暴に腰を落とした。

 それから自分の仕掛けを湖の奥へと飛ばす。


「ははは、釣り王がきてやったぜ。おお、なんなら船を出してやろうか?」

「止めておく。沈没するのがオチだ」


「ギャラリーなんて岸に残しておきゃいいじゃねぇか。なぁ、騎士様よ」

「ぁ、ぁぁ……。だが生憎、僕はこういったモフモフっとした子たちが嫌いじゃなくてね。お断りだ」


 ちょうど近くにいたネコヒトをそっと撫でた。

 素晴らしい触り心地だ。ゴロゴロと喉が鳴って、僕の心を癒してくれた。


「――! これは強い引きだ、見ていろバーニィ!」

「悪ぃな、こっちもきたぜ」


「な、なんだと!?」


 立て続けに二つの竿が引かれて、まさか水中でからまったのではと疑った。

 しかしそうではなさそうだ。


 ネコヒトたちが僕らを支え、僕は強く竿を引く。

 ぐいぐいとこちら側に魚は引っ張られ、やがてほぼ同時に僕らは大物を釣り上げていた。


「ははは! こりゃ驚いた、どっちもでけぇな!」

「勝ったと思ったのに……」


 僕が釣り上げたのは大きなマッスン、バーニィはサモーヌだった。

 どちらも脂のよく乗った美味い魚だ。


「うわーーっ、凄いっ、凄過ぎます! 今日はお魚パーティに決まりですね!」

「引っ越してきて良かったー!」

「二人ともカッコイイ!」


「わずかに俺の勝ちだな」

「まだ終わってない。調子に乗るな、それより大きいのを必ず釣り上げてやる」


「そうか。そんじゃよ、どうしても言っておきたいことがあるからよ、先に言っておくぜ」

「なんだ……?」


「不覚だがよ、全然気が付かなかったわ」

「気づく、な、何がだ……?」


「ま、俺も外じゃお尋ね者だ。外での間柄なんて捨ててよ、お構いなしで仲良くいこうぜ。一緒にマドリちゃんの尻を追いかけた仲だ」


 まさか、まさか正体バレてしまった……のか……?

 そうだとするとまずい。この男にバレてしまったという、事実そのものがまずい。


 しかしその後に私がいくら探りを入れてみても、バーニィは発言の意図を明かさなかった。

 それからさらにしばらく経つと、最後にただこう言って去っていった。


「アルス、今の幸せを大切にしろよ。俺たちの生活はエレクトラム・ベルに守られることで成り立っている。俺たちは、アイツが帰ってくるまでに、できる限りの手を尽くして、パティ公の笑顔を守り、里を栄えさせて待つべきなんだ」


 僕が彼に感謝していないわけがない。

 あのままではサラサールは僕を幽閉して、やがては処刑していた。

 里の発展とパティアの笑顔で恩返しできるなら、僕だってがんばりたい。


「お前さんは、もっとアイツに感謝するべきだぜ」


 そう言い捨てて、バーニィは何をしにきたのか僕の釣り上げた釣果と一緒に湖を立ち去っていった。

 気づかれているはずがない。もしそうだったら、王女に無礼を働いたと謝罪――するはずがないか、アイツが。


「引いてます釣り師様!」

「おっとすまない」


 その日一日中、僕は当たり前の幸せを噛みしめながら、ネコヒトに囲まれた釣り生活を楽しんだ。

 僕はこの里の釣り師だ。もうハルシオン姫ではない。僕は自由だ。外の世界なんてもう忘れて生きる。


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