37-1 嘘吐きは一生治らない - お似合いの二人 -
・嫌われ者
ニュクスに命じられた追撃を終えて、俺はギガスラインに戻ってきた。
そこで戦況報告を受けたんだがよ、ある話を聞かされた。でよ、途端に頭が沸騰した俺は、ニュクスの陣取るギガスライン司令部に押し掛けた。
「おいニュクスッ! テメェに聞きてぇことがあるっ、今回ばかりは答えてもらうぞ!」
「フフ……思っていたより気づくのが遅かったじゃないか。いいよ、キミには聞く権利がある」
追撃は大成功だ。敵に一方的な被害を与えつつ、敵本国への帰還を遅延させた。
だがな、報告によるとサラサールの糞野郎は俺たちが作り上げたこの隙を利用して、大陸南東の自由国境地帯をあっという間に平らげた。
それに対してパナギウムの騎士団が最悪の国王に反旗を翻し、ギガスラインの守備を最小限にして、サラサールの背中を突くために反乱軍を展開させた。
「ハルシオン姫だっけ。結局、反乱に加わらなかったみたいだね。彼女は賢いよ、力で奪い取った王位は長続きしないからね」
反乱軍はハルシオン姫を擁立することを諦めて、傍流の血族を立てたそうだ。
で、今はサラサールの後ろに張り付いて、兵力じゃ敵わないんで本国からの補給を断つ作戦に出たんだと。
「んなことはどうでもいいッッ! わざとやってんだろテメェ、俺様があんだけ苦労したってのにヨォッ、どういうことだニュクス!!」
「バカとなんとかは使いよう。そう言うだろう? ボクはお似合いだと思うよ、あの二人」
しかしここからが問題だ。世界の誰もの予想に反して、サラサールの軍勢はいまだ快進撃を続けている。
自由国境地帯を制圧した後は、その北の国々に目を付け襲いかかった。
「なんでもよぉ……異形の怪物が戦線に現れては、サラサールに敵対する敵軍を殺戮してゆくそうだぜ? しかもその怪物は気持ち悪ぃことに、美しい女戦士の肉ばかり、戦場のど真ん中で食らうそうだ……。ブスには目もくれずにな」
「フフフ……まるでおとぎ話の鬼だね」
俺にはまるでサラサールのクズが超人となって、戦場に姿を現しているかのように見えた。
「アンタ、アレを渡したな……?」
それは恐らく、俺が魔界深部から回収してきた、邪神のかけらの影響を受けている。そうとしか思えん。
「あの邪神の破片をッ、サラサールに渡しやがったなッッ?!」
「そうだね。しかしだとしたら、何か問題でもあるのかな?」
「大ありだ! 人間に邪神の力を与えるなんてテメェはッ――ああ、あえて言うぜ、テメェはバカ殿かッ!!」
魔王以外の存在が邪神に身を捧げることは、死を意味するそうだ。
それをなんでよりにもよって、国王の座にあるやつに与えるんだよ! せっかく焚きつけたのに、これからのドンパチはどうなる!
「ああ、サラサールに世界を統一されても困るからね。それに、狂人というのは正気と狂気の狭間に生きる存在だ。ミゴー、キミにはわからないだろうけどね。ある意味でキミは、誰よりもまともだ」
「はぁっ!? なんか悪いものでも食ったかよ大将!?」
「キミには揺らぎというものがない。物語の世界の英雄のように、己の信念と欲望を貫く。野生の獣のように忠実だ」
ニュクスの野郎は、本当に何を考えているのかわからん……。
誉められているのか、蔑まれているのか、それすらわからん……。
「それよりミゴー、サラサールが暴れ回ってくれたおかげで、敵援軍の大半が退くようだ。まさに絶好の好機だよ。さあこれから正面衝突、いや侵略戦争を始めよう。世界を救うためにね……」
「ケッ、せっかくの祭りなのに、萎える冗談言うんじゃねぇ……」
もし人間が絶滅したら戦争がなくなっちまう。
それは俺の望む結末じゃねぇ。
理由は違うがよ、あの糞猫が殺戮派を抜けた気持ちが今さらわかっちまった。
「出撃しろ、ミゴー。やつらを天国に導いてやれ」
「はっ、地獄の間違いだろ。任せな、ニュクス、ドンパチは俺の生きがいだ」
「いや間違ってはいない。死んだら、みんな天国に行けるんだよ。みんなね……」
「俺やアンタみたいな悪人もか?」
「そうだよ。敬虔な信者と善人だけを救う神なんて、それこそ信者と為政者のご都合主義にもほどがあるだろう?」
「テメェの話は俺には理解できねぇよ。おつむの問題もあるがよ、どうも性根が違いすぎる。なんで俺はテメェの配下なんだろな……」
「フ、フフフ……その冗談、これまでの中で一番面白いよ、ハハハハハ!!」
こうして俺たち狂人どもは目前に広がる大戦争に身を投じた。
さてどうすっかな……殺戮派が完全勝利しちまうとつまらん世界になる。かといって、ニュクスを殺せるやつなんてこの世に一人もいねぇ……。
ああ、下手したらマジで滅びるな、人類。知ったこっちゃねぇが。




