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37-1 嘘吐きは一生治らない - 天国への階段 -


前章のあらすじ


 隠れ里に錬金術師ゾエきたる。そのゾエがあまりにやかましいため、急ぎ錬金術師の道具と材料を手配することになった。

 しろぴよの杖、しろぴよの大釜が完成し、各種材料が手配されて、錬金術師の力は3倍となった。


 パティアがナコトの書抜きで、メギドフレイムの発動を可能にするという重大事件を残して。


 その後、ゾエはバーニィにパイプと家具を作ることを交換条件に、ガラスと針金のリサイクルさせた。

 術により生み出された針金で里のバリケードが強化され、ガラス窓のある大きな二階建て一軒家が完成した。


 またある日のこと、バーニィがマドリとの二人っきりの夜を過ごした。

 そこでようやくバーニィはマドリがリード・アルマドである真実を知り、スケベなおっさんはスケベ心を無残に砕け散らせた。


 その後、色々とあったがバーニィとリードはわだかまりを解く。

 バーニィが2000万ガルドを盗んだ本当の理由。それは、税を搾取するばかりの王族に天罰を与えると同時に、下層民に金を返してやりたかっただけだった。


――――――――――――――――――――――――――

 サラサール暗殺指令

  魔界ネコは里を守るために陰謀の渦中に身を投じる

――――――――――――――――――――――――――


37-1 嘘吐きは一生治らない - 天国への階段 -


・世界に混沌をまき散らす白い悪意


 この魔将という座についてより、ボクは長らく思っていたことがある。ニュクスという少年は、この世に生まれるべきではなかったと。

 ボクたちは異常者だ。嘘偽りなくそのことをここに認めよう。


 ニュクスという少年は三歳の頃、白化病という奇病を患った。

 もしもあの村ではなく都会に生まれていたら、母はボクを庇い切れずに取り上げられていただろう。


 その後は――当時の人々は隔離病棟だなんて面倒なことはしない。疑うまでもなく処分されていたはずだ。

 フフ……あの村にボクが生まれた。それが全ての不幸の始まりだったのだろう。人類にとっても、魔族にとっても。


 白化病の少年は、ベレトートルートが救った蒼化病の子供たちのように、平穏な生活を手に入れることはなかった。

 小さな村だったから生かされたが、母もボクも死んだ方がマシだったと思うほどに、酷い虐待を受けた。


 しかしだ、それでもボクが捨てられることはなかった。それどころか母はボクに謝り続けた。ごめんなさい、ニュクスと。

 彼女は知っていたのだ。ボクが魔族と人間の混血であることを。それが白化病を招いたと、きっとそう思っていたのだ。


 しかし結局、その母性と咎があだとなって彼女は死んだ。

 村という共同体の輪から外れていたせいだ。


 女手一つで子供を育てながら、自給自足で生きようとすれば、よっぽどの強運を持っていない限りそれはやってくる。

 母はボクに食べ物のほぼ全てを与えて、自分は食べている振りを続けた。だから死んだ。


「ニュクス……恨んじゃダメよ……。誰かを呪えば、それは自分に、返ってくるの……。ごめんなさい、ごめんなさい、ニュクス……私のかわいい坊や……」

「わかってるよ、母さん。ボクは憎まない、呪いもしない。約束するよ、ボクは母さんの代わりに生き続ける」


 それが契機だ。彼女はボクを穏やかに育てようとしたが、残念ながらボクは最初から狂っていた。

 他者の悪意に包まれて育ったせいなのか、それとも生まれた時点で頭がおかしかったのか、はたもや魔族の血がそうさせるのか――ボクには良心という貴重品が欠如していた。


 そんなボクを止めていたのは母の愛と、言葉だけだ。母の幸せの為に、ボクはずっといい子を演じていただけだった。

 こうしてその翌日、呪われた子は村の穀物庫全てに火を放った。


 小麦畑には除草に使う毒をまき、わざと彼らに捕まって、苦悶と呪詛と絶望を吐く姿を眺めた。

 母との誓いに従って、ボクはけして彼らを呪わない。ただ単に、混じりけのない真心で、この村の者を破滅させてやろうと思っただけだ。


 もはや彼らに残された選択肢は、村人同士で食べ物を奪い合うか、都市に出て自らを奴隷として売るか、そのまま何も選べずに餓死するかしかなかった。


「もうダメだ……。こんなことになるなんて、ああ、もう死にたい……」


 呪われた白い子をボロボロに痛めつけても何も解決しない。

 やがてボクを見張っていた男が弱音と絶望を口にした。


「なら殺してあげようか。でも、一人じゃ寂しいね。これから苦しい世界で生きてゆくより、殺してあげた方が、幸せな人もいるかもしれない。ねぇ、死んだら苦しいのが終わって、みんなが天国に行けるんだよ」

「ニュクス……ッッ、全部ッ、貴様のせいだろっっ!!」


「死ねば天国に行ける。つまり死ねば救われる。死こそが救済だ。ボクは君たちに少しだけ、この世界の真実の姿が地獄だってことを教えてあげただけだよ」

「悪魔だ……この、この呪われた子め! 何が救済だ、なら世界全てを救ってみせろ! 俺たち全員を、人類全てを救ってみせろ、できないくせに! ぇ……あれ、お前、縄は……」


 縄は焼き払った。少し熱かったけれど、ボクの身体はどうしてか火傷もなく無事だった。

 己の中から膨大な魔力を感じて、それを解き放たなければボク自身が焼け死ぬような気がした。


「逃がさねぇぞ、お前は街に売るんだ! おいっ、痛い目に遭いたくなかったら――」

「わかったよ。……ボクが人類を救うよ。この地獄から、全ての人間を天国にいざなうよ。今日よりボクは救済に人生を捧げよう」


「く、狂ってる……。ち、近づくなっ、何を――ヒィッ、アアアアアアアアアアアアッッ?!!」


 ボクは遠き隣人たちを一人一人、赤子すら取り残さず全てを救済して、人間の世界を捨ててあるべき魔界に立ち去った。

 そんなボクを、初めて気にかけてくれたのは、ベレトートルートという名の憎しみに燃えるネコヒトだった。


 そんなに強くはないけど老練としていて、戦いの技という技に秀でていた。

 彼の間違いは弱いネコヒトに生まれたことだ。肉体からはとても有り得ない、恐るべき底力の持ち主だった。


 それだけではない。母親を失ったボクにとって、彼はボクの心の父親だった。

 ネコヒトの脆弱な肉体をもって生まれた点をのぞけば、彼こそが魔将に、いや魔王にふさわしいとさえ思った。


 でも、ボクの夢は誰にも理解できない。人間を死滅させて、全てを苦しみから救済するなんてバカげた夢は。

 彼がボクとの野望を選ばず殺戮派を抜け、嫌われ者のミゴーがボクを選んだのは、もはや必然であり宿命だったのだろう。


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