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36-7 バーニィのお泊まり計画 - 昨日まではお楽しみだったようですね -

「ここと、似たような古城を、探して……廃品を集めるというのは……どうでしょう?」

「なるほど悪かねぇ。あるいはカスケード・ヒルからかき集めるって手もあるな。ありがとよマドリちゃん、やっぱマドリちゃんは頭良いわ、助かったぜ」


「ぼ、ボクなんか、大したことないですよ……。ボクは、家臣も守れなかった、ダメ貴族なんです……」


 やっぱりマドリちゃんは貴族だったそうだ。

 お家騒動から逃げてきたって話だからな、家臣に負い目を感じているのか。


「そんなことねぇぜ。ガキどもを見ろ、みんなお前さんを慕ってる。毎晩奏でてくれる、あのチェロもいい。マドリちゃんのいないネコタンランドなんて、俺ぁもう考えられねぇぜ!」

「ぁ……。ありがとうバーニィさん、ボクを受け入れてくれて……。ボクにやさしくしてくれて、ボクに仕事を教えてくれて、本当にありがとうバーニィさん……あなたがいなかったら、ボク……ボクは……」


 そこでマドリちゃんの言葉が止まっていた。

 眠気まなこで黙り込んで、しまいにはそのまま眠っちまったらしいんだ。


 酒を盛ったのは俺だが、もう少しお喋りを楽しみたかったかもしれん。

 俺の下心に突き動かされただけの行動を、えらく感謝しているみたいでよ、ちょいと複雑だったが悪い気分じゃねぇ。


「おーい、マドリちゃん? そんなところでおやすみすると寝違えちまうぜ」


 ツンツンと肩をつついても起きる気配はない。

 頬を突っついても、別の部分を突いても、言葉になっていない寝言を上げるだけだ。


「ヤベ、熟睡は予定にないぞ……。ああもう、しょうがねぇなぁ、マドリちゃん、ベッドに運んでやるから立ちな。ほら、いくぜ?」

「んん……ここで、いいですぅ……。あぅ……」


 でよ、おっさんは今日まで鍛え上げてきた肉体を駆使して、マドリちゃんを両手で抱えた後はベッドまで運んだ。

 その後はさらに深い熟睡に入るマドリちゃんをぼけっと眺めるだけだ。


「すぅ……すぅ……んん……」

「どうすっかなコレ……」


 合意を取っていないのに、熟睡しているところに襲いかかるのは、さすがに紳士じゃねぇし許されないよな……。

 かといって無防備に寝息を上げて、酒気に頬を上気させているマドリちゃんの美貌は、とても目を離せるものじゃねぇ。


「そうか、わかったぜ! ここは、介抱か……!」


 介抱しているふりをして、ちょっとベタベタしても言い訳は立つよな? 立たない気もしなくもないが、今は立つような気分だ。

 そこで俺は、マドリちゃんを潰さないように気を使って、上からのしかかって頬を撫でた。


 ムニュリ……。


「ん、んん……??」


 膝に何かが当たった。

 しかしマドリちゃんの容姿はあまりに可憐で、俺の想像力を奪い取る。


「いや、いや待て俺……おかしい、明らかに何か、おかしくないか……?」


 だがやわらかな膨らみはそこに実在した。

 胸ではなく別の部分にだ。その膨らみは徐々に違和感をもってゆき――とある突飛な仮説を俺に与えるのだった。


「ま、まさか……嘘、だろ……。そんな、バカなことが、あるわけ……」

「ぁ……バーニィさん……なんだかボク、ふわふわして、きもちいいです……。バーニィさん、バーニィさぁん……♪」


 普段するような態度じゃない、マドリちゃんは完全に泥酔していた。

 だがおかしい。何もかもがおかしい。あり得ない、こんなにかわいいのに――嘘だろ?!


「あ、あれ……。あれ、無いな……は、はははは……」


 どさくさにまぎれて胸に触れてみたが、全くと言って弾力がない。

 だがしかし、余計な部分にだけ膨らみが存在する。もはや、もはや厳しかろうと現実は揺るがない……。


「ま、まさか……」

「バーニィさん……明日も、ボクと、おしゃべり……。すぅ……」


 俺の胴体に両手を巻き付けたまま、マドリちゃんが再び眠りの奥底に落ちていった。

 最高に色っぽいシチュエーションのはずだ。だが、俺の血の気は完全に引いていた……。


「マドリちゃん……お前さん、まさか……。お、おと、おとこ……」


 俺は知ってはならないことを知ってしまった……。

 目前に現れた耐え難い現実に、俺は現実逃避が招いた急激な眠気に負けるという、逃げの選択肢を選んでいた……。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 翌日、俺は城のすぐ北の森で、伐採を進めるリックちゃんに声をかけた。

 聞きたいというか、確認したいことがあったからだ……。


「なぁリックちゃんよ……」

「やはりバニーか。後ろから忍び寄るのは、趣味が悪いぞ」


「悪い。だけどよ、これは例えの話なんだがよ、例えば、だぞ? あのよ、例えば……」

「なんだ、お前らしくもない。ハッキリ、言え」


 リックちゃんが作業を止めて後ろの俺に振り返った。

 俺の歯切れの悪い態度を怪訝そうに見て、性格もあってか少しだけイラついたみたいだ。


「魔族の女ってよ? 股間がよ、膨らんでいたりよ……するもんなのか……?」

「そのことか、バニー……」


 すると思ってもない反応が返ってきた。

 変にやさしい微笑みを浮かべて、あのリックちゃんが俺の肩に手を置くんだ。嫌な予感しかしねぇ。何もかも見透かされている感じだ!


「待て、これは例えだ。俺は別に――」

「バニー、あれは、リード公爵だ」


 たった一言だったが頭が急に回らなくなっていた。

 理解しちゃいけねぇと、俺の奥底にいる俺が俺の思考を麻痺させていた。


「男の股間に、膨らみがあるのは、当たり前だ。お前はずっと、勘違いを、していたんだ」

「お、おと、おとこ……」


「そうだ。あの方は、リード・アルマド。男だ」


 やがて脳は理解を選び、俺は現実に全身を硬直させた。

 かわいいとずっと思っていた最高の美女は、俺のマドリちゃんは、本当は男だとリックちゃんが言い切った。


 嘘だ。そんなバカな、だったら俺は今日までずっと……。


「り、リックちゃんっ!? おまっ、お前さん全部、全部知ってって、黙ってたのかよぉぉぉぉーっっ!!?」

「ああ……。見るに見かねる、なんとも言い難い、だが何も言えぬ、もどかしい、見苦しい光景だった……」


「なら、ネコヒトの野郎もか!? そうなるとラブ公も、く……クレイ……や、ヤツにも……!? い、言ってくれよっ、最初から俺に言ってくれよリックちゃぁぁぁんっっ?!!」

「バニー。オレはお前が、それほど嫌いではない。だがその、あまりに己に正直過ぎる、スケベ心はな……。そろそろ、直すべきだ……」


 この日、俺は自分が里一番の道化だったことを、今さらになって知ったのだった……。

 大地に膝を突き、俺は頭を抱えて苦悩した。

 スケベ心、それは俺のアイデンティティだ。だが、だがしかし、マドリちゃんは男だった……。


「大丈夫か、バニー」

「俺はよ、俺のことをバカ野郎だと思っていたが、どうも違ったみてぇだな……。俺は、俺はとんだ大バカ者だろ!!?」


「そうだ。だがお前が、大バカなのは、今に始まったことじゃ、ない。反省した上で、開き直れ」

「リックちゃん……俺を慰めてくれるのかよぉーっ、うぉーっ! アイタッッ?!!」


「調子に乗るな、このスケベ……」


 おっかしいな。リックちゃんに抱きつく口実を手に入れたつもりが、肘が俺の顔面に突き刺さっていた。


 気力もスケベ心も砕けた俺は、その後しばらくの間、そこでリックちゃんと斧が生み出す伐採音に、ただ静かに耳を傾けた。

 そうやって恥まみれの現実の方を、ゆっくりと受け止めていくしかなかったのだった……。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 後日談。その後、事情を知るものはこう言ったという……。


「にゃんと、ウサギさんやっと気づいたのにゃ? せっかく面白かったのに、終わっちゃうなんて残念にゃ。恥をさらけ出してこそウサギさんだと、ミャーは思うニャ」


 クレイのやつは、俺をオチョクるネタを手に入れてそりゃもうご機嫌だった……。

 ヤツとはしばらく顔を合わせたくねぇ……。


「バーニィさんごめんなさい……。リード様の安全のために、どうしても必要で……。でも、少しは反省してくれたら良いなって、ちょっとだけ僕も思います……」


 お前さんは悪くねぇよラブ公。全部俺の身から出た錆だ。

 こうなることはもう最初から決まってたんだ。だが俺は、悔い改めたりは絶対にしねぇ!


「アイツはよぉ、アホだ……。ラブレーやパティアさんが変な影響受けたりしねぇか、俺ぁは心配だぜネコ野郎……」


 さらに後日、グスタフ男爵にもアホと断言された。ちくしょう、反論できねぇ……。


「言っておきますがバーニィ、ここでリードに対する態度を変えたら、あなたが彼を深く傷つけることになります。それはわたしが許しません。アレはわたしの恩人の血筋、これまで通りに彼を愛しなさい」


 マドリちゃんの正体は、リード・アルマド公爵で男だ。

 だが俺が好きなマドリちゃんが、マドリちゃんじゃなくなったわけじゃない……。


 言われなくてもわかってるさ。

 俺はそんな男じゃない、意地でもこれまで通りを貫いてやるさ! マドリちゃんは親を失って、俺にそれを求めているんだ!


「どうしよう……ボク、バーニィさんに秘密を知られてしまったかもしれません……。嫌だ、嫌われたくない……バーニィさんが、ボクを見放したら、ボクは誰を頼れば……。あのっベレトさん! どうにか、バーニィさんの気を引く方法、ありませんか!?」

「リード、これまで通りで大丈夫ですよ。下手なことをすると、余計にこじれますので」


 この日から、俺はちょっとだけ、リード少年でも別に悪かねぇかな……。

 かえって加護欲が増したっていうか、かわいいのは事実だしよ、スケベ心は砕けたが、これはこれでいいんじゃねぇか?


 と、絶対に肯定しちゃいけない別世界の扉に、頻繁に誘惑されるようになりかけていた……。


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