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36-5 古城周辺を拓いて放牧地を作ろう - 朝から -

・やる気のうさぎさん


 努力のかいもあって、ついに二階建ての新居が完成した。

 ただで家が貰えるなんて夢みたいな話だってよ、、親御さんも子供たちも大喜びだった。


 親御さんは我が子だけじゃなくて、身寄りのない子供たちをこの家に引き取ってくれるって言うんだ。

 立派すぎるだろ。むしろこんな家一件くらいじゃ、全然足りねぇと俺は思う。


 俺の大工仕事でできるもんなら、もっとこの新しい大家族を幸せにしてやりてぇとよ、柄にもない感想を覚えちまう。


「今日から俺たちは兄弟だ。みんなで作ったこの家で、一緒に暮らそう!」

「うん、よろしくね……。お、お兄ちゃん、かな……?」


「そんなの前からだろ。俺がお前らのお兄ちゃんだ!」


 見ればある年長組の男の子が、これから家族になる仲間をまとめていた。

 元から隔離病棟で、お互い手を取り合って生き抜いてきた連中だからな。余計な心配なんていらねぇみたいだわ。


「あっ。ありがとうバーニィおじさん!」

「おじさん……、ぼく、感謝、してます……。あ、ありがとう……」

「あのバーニィさん。こんな立派な家、本当によろしいんですか……?」


 ヤベ、俺がここにいるとどうも水を差しちまうみてぇだな……。

 いやに健康なこいつらのやり取りを眺めていたら、ガキどもとご両親に取り囲まれちまってた。


「気にすんな、大工が大工の仕事をしただけだ」

「おいおいっおっさん、もしかして照れてんのかよぉー?」


「別に照れてねーよ! おう、それよりお前ら、床はこのカールが作ったんだぜ。カールだと思ってよ、じゃんじゃん踏みしめてやってくれ!」

「俺踏まれる側かよっ、くそっ変な想像させんなよおっさんっ!」


 俺だけじゃこんなに早く完成しなかった。

 カールとラブレー、手伝ってくれたガキどもは、大工としての腕を日に日に上達させていた。


「あとな、屋根の方は身軽なラブ公に頼んだんだぜ。雨が降るたびに、ラブ公のかわいい、この顔を思い出してくれりゃ、礼なんてそれだけでいい」

「ぼ、僕を持ち上げないで下さい……。ただ、手伝っただけです……っ」


 俺たちが作った家でよ、こいつらが笑っててくれたらよ、俺はそれだけで幸せだ。

 俺は騎士の養子に出されたが結局よ、魂は根っからの大工でしかなかったってことかね……。


「うっし、そろそろ水を差すのは止めてよ、バリケードの強化に行くぞお前ら。で、ソイツが終わったら……」

「放牧地ですよね! 僕楽しみですっ、牧草でいっぱいになった世界で、ピッコロたちと駆けっこしたいですっ!」


「乗るんじゃなくてお前さんが一緒に走るのかよ。まっ、それでこそラブ公だっ、がんばろうぜ!」


 ちょいと気の早い妄想の世界で、ラブレーのやつが馬どもと駆け回っている姿が俺にも見えた。

 あの犬男爵様からピッコロを任されてるからな。馬とワンコはすっかり仲が良くなっているみたいだ。


「わふっ、バーニィさん大好き!」

「おう俺もだぜラブ公」


「ぁ……い、いや、これは一緒に、一緒に走りたいってだけです……!」

「それは遠慮しとくわ。代わりにカールを鍛えといてくれ」

「えっ!? ちょい待った勘弁してくれよおっさんっ、コイツに付き合ってたら心臓がいくらあっても足りねーっての!」


 まあそういうわけだ。あの後、さらに追加生産された針金を、今日中に全部バリケードに巻き付けたらよ、工員の手がそれだけ空く。

 そんでよ、明日からはみんなを巻き込んで放牧地作りだ!



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 翌日、ネコヒトの野郎がレゥムから仕入れてきてくれた牧草を、ついに使うときがやってきた。

 そこでネコヒトにも相談されたんだが、そろそろ古城北部を拓こうと決まった。


 というのもな、古城の北側は森に埋もれている。

 なんでそんな近場を拓かなかったんだって言われたらよ、初期に築いたバリケードが事情の一つにある。


 何せあの頃は木材を調達する労働力すら苦しかったからな、城の城壁をバリケードの一部として利用した。

 だからバリケードを撤去してまで、伐採を進めようとは今日まで思わなかったんだな。


「ってことでよ、お前ら朝っぱらから悪ぃが、飯までガッツリ一仕事付き合ってくれや」


 そうなると段取りってもんがある。

 土を軽くほぐして牧草の種をまくよりも先行して、森を拓かなきゃならん。

 夜明け寸前の城門前広場に、たくましい連中をかき集めた。


「って、リックちゃん? 厨房の方はいいのかよ?」

「ああ、それは奥様方に、任せてきた。そろそろ、俺が厨房を受け持つ必要も、なくなるかもな……」

「バカを言わないでくれよ、リックさん。キミの手料理が食べられないなんて、里にとっては大いなる損失だよ。僕はイヤだ、そこはぜひ考え直してくれ!」


 言い方がムカつくがアルストロメリアの野郎に賛成だ。

 リックちゃんの飯のない生活なんて――いや、そっちは今回の本題じゃねーっての。


「ま、それじゃ頼むぜ。ハンス、パウル、ダン、キシリール。……あとよ、マドリちゃんとパティアは、なんでここにいるよ……?」

「はれ……? パティアたち、おじゃまかー?」

「た、確かに頼りないかもしれないですけど……私も手伝います! 力仕事、私にもできるはずですから!」


 ま、力貸してくれるって言うんだから断る理由もねぇな。

 どっちも力仕事にはまるで向いてねぇのは、分かり切ってるがよ。ここで断ればそれこそしらけるってもんだ。


「うっし、二人とも手伝ってくれ! あのへんのバリケードを撤去して、ガンガン拓いてくぞ!」

「はい! ファゴットとピッコロのためなら、全力を尽くします先輩!」


 こうして俺たちは放牧地作りの第一ステップに着手した。

 ネコヒトどもには悪いがよ、朝っぱらからコンコンコンと、景気の良い伐採音を響かせていった。


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