36-4 パティアのための勉強会 - 13+28 -
・嫌われ者のミゴー
あのバカ王、マジでやりがやった。
アイツは頭ん中だけでいえば、ニュクスよりヤバい。あろうことかよ、この俺まで生理的な嫌悪を感じた。
「どうしたんだい、ミゴー。やっとキミが楽しみにしていた大戦が始まるのに、嫌に落ち着いているね」
「ケッ……毒気に当てられてただけだ。つい少し前までよ、テメェより頭おかしいやつがいるなんて、思いもしなかったぜ……」
パナギウム王サラサールが東進、自由国境地帯の小国に攻めかかった。
コイツは事実上、サラサール王が人類を裏切ったも同然の凶行だ。
俺たちはその狂王の味方側だ。ソイツが最高に、俺のやる気を萎えさせてくれた。
「ミゴー、サラサールが勝とうと負けようと、どちらに転ぼうとボクらに損はない。散ってくれようと、人類圏の王になろうと、アイツは人間にとって最低の未来しか作らないだろうからね」
「ケッ、ヤツはアンタじゃねぇ。ただの脆弱な人間だ。身内に暗殺されるのがオチだ」
俺が殺しに行きたいくれぇだ。
だが俺にはできねぇ。この身体じゃ人間の国に溶けこめねぇ。ただ一人、サラサールを殺せる野郎がいるとすれば、それは――あの糞猫だけだろうな。
「ミゴー、キミたちに出陣を命じよう。サラサールの裏切りに対抗するために、連合軍の一部がギガスラインに張り付くのを止めて、撤退を始めるはずだ。ギガスラインより討って出て、撤退を妨害しろ」
「了解したぜ大将。サラサールと同陣営ってのがやっぱシックリこねぇが……やっと始まったケンカ祭りだ! 皆殺しにしてきてやるよ!」
なぁ糞猫よ。俺の戦を盛り上げるためにもよ、サラサールっていう狂王を殺してくれねぇか?
このままじゃ最悪、同族の女を食らうカニバリズムの変態野郎が、人間の世界を取っちまうかもしれねぇぜ……?
●◎(ΦωΦ)◎●
・(ΦωΦ)
かねてよりの問題に対処するために、わたしはシスター・クークルスとリセリにある依頼をしました。
パティアの個人指導です。
マイペースなパティアも、クークルスとリセリの言うことならちゃんと聞きます。
そこでわたしは二人にお願いしました。
娘の将来がどうにも心配で落ち着かないので、今度みっちり勉強を教えてやってくれないかと。
「あの……パティアは良い子です。心配なんて、私はないと思いますけど……」
「そうねー♪ でもお勉強教えるだけでしょー? ネコさんの頼みなら、私は喜んで♪」
わたしは頭を下げて、二人に感謝しました。
確かに良い子です。しかし魔力と頭が釣り合っていないというだけで、わたしにはそれが不安なのですよ……。
●◎(ΦωΦ)◎●
「えーー……もりに、いくよてい、だったのに。あ、そだ。あとにしよ……?」
「ふふふ~、ダメです♪」
パティアはその日も森に行きたがっていました。
馬たちと行動するのがよっぽど気に入ったようで、最近は牡馬ファゴットの方も手懐けつつありました。
「えー……えー、ええーーー……もりが、パティアを、よんでる……。とめるな……?」
「今日は、勉強してからにしよ? 終わったら、私も乗せてってほしいな」
「あらいいわねー♪」
「えっ、ほんとー? リセリ、きてくれるのー? それじゃ、しょうがないなー。おべんきょー、おそわってあげるぞー」
上から目線で何を言っているのですか……。
教わってあげるではなく、教えて下さいでしょうそこは……。
「まずは算数の勉強からだよ。パティア、7+8は?」
「へっへっへーっ、そんなの簡単だぞ。まどりんにおそわったからなー。15だ」
「あらすごい、賢いのねー♪」
「べりーが7こと、8こ。だから、15こだ」
「あはは……パティアは食いしん坊だね」
身近な物に置き換えるのは算数の初歩です。
応用できないと意味がありませんから、正しい学び方でした。
「じゃあ~、次は難しい問題ですよ~、13+28はー?」
「ぇ……」
パティアは二桁の足し引きがかなり怪しいのです。
手の指は10本までしかありませんので、彼女は自分の両手を見下ろして固まってしまったそうでした。
「な、ならって、ない……」
「あ、あのね、この前マドリ先生が教えてくれたはずだよ……?」
「ぅ、ぅぅ……そだっけ……。えと、うんと、おおいな……。べりー、いっぱいに、いっぱいがふえて、ちょういっぱい!」
「クスクスッ、数字で答えて下さいねー♪」
最低限二桁の足し引きくらいできないと、日常生活に支障がでます。
いっぱいじゃ済ましません。少なくともわたしは。
「そうか、じゃあ、じしんないけど……16か?」
「えっ、なんで減るのっ?!」
「ちがったか……そんな、きがした……」
「あらあら♪ それでは、クーちゃんがわかりやすく教えてあげますからね~♪」
そこで登場したのが、大きな石ころと、小さな石ころでした。
授業で使うために、里の外の川からリックが採集してきた丸石だそうです。
それをクークルスが並べてゆきました。
「こっちの大きな石が、10個の塊ですよ。小さい方が、1個で1個です」
「あっ、それなー! まどりんがね、おしえてくれた、やつだ! おぼえてる、まどりんは、かわいい!」
「確かに見えない私からしても、マドリさんはかわいい人だけど、今は全然関係ないよパティア……」
好意的に見れば、パティアは算数のルールに縛られない自由な心を持っているということです。
否定的に見れば、生徒としてあまりにダメダメでした……。




