表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
340/443

36-1 ヤバい錬金術師のために材料を集めよう - バーニィの杖作り -

・スケベな方のウサギさん


 その日は朝から古城の仕事部屋にこもって、樫の材木とにらみ合っていた。

 すっかり里の大工さんになっていたもんだが、今日は木工仕事の方を優先することになった。


 ゾエのやつに仕事を割り振らねぇと、こっちの精神がもたんからな……。

 何だよあのうっとうしさはよ、天然記念物ものだぞありゃ……。


「しかしよ、錬金術師の杖なんてよ、作ったことねぇよ……。まあ使えりゃいいよな、使えりゃよ?」


 アイツはやかましい上に、ちと神経質だ。

 中途半端な仕事したらうるさいだろうな。


 悩みながらも俺は覚悟を決めて、樫の材木を切り出していった。

 まずは大まかな形に整える。掘らないと木材の本当の姿は見えてこないからな。


「むぅ……わからん。やっぱよくわからんな……うっし」


 どう考えたって直接本人に見せた方が早い。

 ほっといてもうっとうしく喋り続けるような女を、やむなく俺は木工部屋に呼びつけることにした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「世間ズレしているというのは、辛いものだよウサギくん。なまじこの通り、精神が高等であるがために、なかなか人と話が折り合わなくてだねぇ……。聞いているかねウサギくん、君は女性好きだと聞いている。ならば今頃我が輩の美しさに――」


 自分の判断を後悔したわ……。

 呼びに行ったら目を輝かせてくっついてきてよ、ずぅぅぅぅーっとここまで喋ってんだからよ……。


「それよりよ、これが新しいお前さんの杖だ。これで仕上げて良いか?」

「ふむ!」


「ふむ、じゃねーよ……。これ以上よ、余計な話したらカンナでお肌を綺麗に削り直してやるからな……」

「うむ、悪くない。杖の下部はもう少し平たくしてくれたまえ。それだけで撹拌しやすくなる」


 ならいっそ杖じゃなくて、ただのでかいしゃもじでも作ればいいんじゃねぇのか?

 そう言うのはもちろん止めといた。コイツに反論すると話が3倍長引く……。


「それと、杖の頭の部分には彫刻を頼むぞ。竜でも悪魔でも花でもなんでもかまわんが、天使や女神、こいつらだけは止めてくれたまえ」

「めんどくせぇ野郎だなぁ……」


「うむ。一応我が輩は分類上、女である。乙女心など持ち合わせてはおらんがなっ、ナハハッ!」


 安心しな、あんた顔は綺麗だが俺の守備範囲外だ。

 よろしくやるにしてもよ、楽しくお喋りできる相手に限るだろ……。


「しかし妙だな。ネコヒトがお前さんみたいなのを連れてくるなんて、意外だわ」

「だって我が輩大天才ですから! この才能と美貌に惚れられてしまったのかな、フハハハ! 君たちは良い拾い物をしたよ、我が輩が誰かに恩義を感じるなんて、極めて希なことだからねぇ!」


 一応ネコヒトの野郎に恩義は感じてんだな……。

 しかしコイツ、ガキどもに見せられん不良女だ。

 変な影響与えないか怖いぞ俺は。ああ、特にパティ公だ……。


「これだけお前のためにがんばってやってるんだ。ヘッポコな仕事しやがったら、お前さんの持ち場は畑に決まりだからな……」

「笑止、我が輩に任せたまえ! 我が輩は研究も好きだが、人からの賞賛も大好きでねぇ……。ほめちぎらせてやるからっ、歯磨きして待っているがいいぞ!」


「そうかよ……。お前さんみてぇに態度クソでけぇ移民者は初めてだわ……」

「フッハッハハッ、そういうウサギくんこそどうなのかね、んんー? 君もずいぶん態度のでかい方だと思うのだがねぇ、我が輩は、ンン~?」


「ああ……。うぜぇ……殴りてぇ……」

「暴力は止めたまえ。もし我が輩に手を出したら、あのほんわか猫耳シスターくんに言いつけてやるぞ、んんー、いいのかねぇ?」


 無視だ、無視が一番だ。

 俺は職人気質な彫刻家バーニィとなって、いっさいのやかましい戯れ言をシャットアウトさせた。


 黙々と、ただ樫の材木と向き合って、形を要望通りに整え、それが終わるとわがままに従って彫刻を彫っていった。


「む、むむ……?」

「黙って見てろ」


 例外以外なら何でもいいと言ったのはコイツだ。

 そこで俺は、まあちと考えた後にな、なかなか良いアイデアを思い付いたので実行した。

 里の物からすれば、意外な姿が杖の上部に彫られていったよ。


「む、なんだねこのデブ鳥は……?」

「お前さんが里に馴染めるようによ、俺から心付けみたいなもんだ」


「このおデブちゃんがかね?」

「デブじゃねぇよ、しろぴよだ。杖の先にコイツをくっつけておけばよ、お前さんは俺たちの仲間になったも同然だ」


 想像よりかわいくてふっくらした者がそこに現れて、ゾエは首を傾げる。

 全く里になじめてねぇからな。せめて杖くらいは里の人気者を模してやれば――わからん。

 コイツ本当に、この里に順応できるのか……?


「うむ、そういえば見た気がするな。しかしこの鳥、いくらなんでもふっくらし過ぎではないかね? なぜ飛べるのだ、理解できん……」

「そこは同感だな。とある噂によるとよ、コイツは壁をもすり抜けるそうだぞ」


 しろぴよってよ、なんなんだろうな。

 パティ公のやつは完璧に使役してやがるしよ、あんなにちっこいのに知能がやたら高い。野生動物とは思えんぞ。


「ほう! ほぅほぅほぅ! それは興味深い、実に興味深い話だ。フ、フフフ……しろぴよくんか。お近付きになりたいものだねぇ……っ、ヒ、ヒヒッ、ヒヒヒヒッ!」

「人の仕事部屋で、不気味な笑い声上げんなよ……。お前さんは確かに天才だよ、人の集中力をかき乱す方のな!」


「なんと! ヒハハッ、また誉められてしまったよっ! それはすなわち我が輩の言葉が高度すぎて、下等で無学ウサギくんごときには堪え――」

「だぁぁぁぁーっうるせぇぇーっっ!! それ以上ピーチクパーチクさえずったらっ、その腹に彫刻刀、突き刺すぞっやかましいわ!!」


 仕事を任せれば少しは平和になる。

 そう信じて俺は錬金術師ゾエの杖、いや、しろぴよの杖を完成させたのだった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ