36-1 ヤバい錬金術師のために材料を集めよう - バーニィの杖作り -
・スケベな方のウサギさん
その日は朝から古城の仕事部屋にこもって、樫の材木とにらみ合っていた。
すっかり里の大工さんになっていたもんだが、今日は木工仕事の方を優先することになった。
ゾエのやつに仕事を割り振らねぇと、こっちの精神がもたんからな……。
何だよあのうっとうしさはよ、天然記念物ものだぞありゃ……。
「しかしよ、錬金術師の杖なんてよ、作ったことねぇよ……。まあ使えりゃいいよな、使えりゃよ?」
アイツはやかましい上に、ちと神経質だ。
中途半端な仕事したらうるさいだろうな。
悩みながらも俺は覚悟を決めて、樫の材木を切り出していった。
まずは大まかな形に整える。掘らないと木材の本当の姿は見えてこないからな。
「むぅ……わからん。やっぱよくわからんな……うっし」
どう考えたって直接本人に見せた方が早い。
ほっといてもうっとうしく喋り続けるような女を、やむなく俺は木工部屋に呼びつけることにした。
●◎(ΦωΦ)◎●
「世間ズレしているというのは、辛いものだよウサギくん。なまじこの通り、精神が高等であるがために、なかなか人と話が折り合わなくてだねぇ……。聞いているかねウサギくん、君は女性好きだと聞いている。ならば今頃我が輩の美しさに――」
自分の判断を後悔したわ……。
呼びに行ったら目を輝かせてくっついてきてよ、ずぅぅぅぅーっとここまで喋ってんだからよ……。
「それよりよ、これが新しいお前さんの杖だ。これで仕上げて良いか?」
「ふむ!」
「ふむ、じゃねーよ……。これ以上よ、余計な話したらカンナでお肌を綺麗に削り直してやるからな……」
「うむ、悪くない。杖の下部はもう少し平たくしてくれたまえ。それだけで撹拌しやすくなる」
ならいっそ杖じゃなくて、ただのでかいしゃもじでも作ればいいんじゃねぇのか?
そう言うのはもちろん止めといた。コイツに反論すると話が3倍長引く……。
「それと、杖の頭の部分には彫刻を頼むぞ。竜でも悪魔でも花でもなんでもかまわんが、天使や女神、こいつらだけは止めてくれたまえ」
「めんどくせぇ野郎だなぁ……」
「うむ。一応我が輩は分類上、女である。乙女心など持ち合わせてはおらんがなっ、ナハハッ!」
安心しな、あんた顔は綺麗だが俺の守備範囲外だ。
よろしくやるにしてもよ、楽しくお喋りできる相手に限るだろ……。
「しかし妙だな。ネコヒトがお前さんみたいなのを連れてくるなんて、意外だわ」
「だって我が輩大天才ですから! この才能と美貌に惚れられてしまったのかな、フハハハ! 君たちは良い拾い物をしたよ、我が輩が誰かに恩義を感じるなんて、極めて希なことだからねぇ!」
一応ネコヒトの野郎に恩義は感じてんだな……。
しかしコイツ、ガキどもに見せられん不良女だ。
変な影響与えないか怖いぞ俺は。ああ、特にパティ公だ……。
「これだけお前のためにがんばってやってるんだ。ヘッポコな仕事しやがったら、お前さんの持ち場は畑に決まりだからな……」
「笑止、我が輩に任せたまえ! 我が輩は研究も好きだが、人からの賞賛も大好きでねぇ……。ほめちぎらせてやるからっ、歯磨きして待っているがいいぞ!」
「そうかよ……。お前さんみてぇに態度クソでけぇ移民者は初めてだわ……」
「フッハッハハッ、そういうウサギくんこそどうなのかね、んんー? 君もずいぶん態度のでかい方だと思うのだがねぇ、我が輩は、ンン~?」
「ああ……。うぜぇ……殴りてぇ……」
「暴力は止めたまえ。もし我が輩に手を出したら、あのほんわか猫耳シスターくんに言いつけてやるぞ、んんー、いいのかねぇ?」
無視だ、無視が一番だ。
俺は職人気質な彫刻家バーニィとなって、いっさいのやかましい戯れ言をシャットアウトさせた。
黙々と、ただ樫の材木と向き合って、形を要望通りに整え、それが終わるとわがままに従って彫刻を彫っていった。
「む、むむ……?」
「黙って見てろ」
例外以外なら何でもいいと言ったのはコイツだ。
そこで俺は、まあちと考えた後にな、なかなか良いアイデアを思い付いたので実行した。
里の物からすれば、意外な姿が杖の上部に彫られていったよ。
「む、なんだねこのデブ鳥は……?」
「お前さんが里に馴染めるようによ、俺から心付けみたいなもんだ」
「このおデブちゃんがかね?」
「デブじゃねぇよ、しろぴよだ。杖の先にコイツをくっつけておけばよ、お前さんは俺たちの仲間になったも同然だ」
想像よりかわいくてふっくらした者がそこに現れて、ゾエは首を傾げる。
全く里になじめてねぇからな。せめて杖くらいは里の人気者を模してやれば――わからん。
コイツ本当に、この里に順応できるのか……?
「うむ、そういえば見た気がするな。しかしこの鳥、いくらなんでもふっくらし過ぎではないかね? なぜ飛べるのだ、理解できん……」
「そこは同感だな。とある噂によるとよ、コイツは壁をもすり抜けるそうだぞ」
しろぴよってよ、なんなんだろうな。
パティ公のやつは完璧に使役してやがるしよ、あんなにちっこいのに知能がやたら高い。野生動物とは思えんぞ。
「ほう! ほぅほぅほぅ! それは興味深い、実に興味深い話だ。フ、フフフ……しろぴよくんか。お近付きになりたいものだねぇ……っ、ヒ、ヒヒッ、ヒヒヒヒッ!」
「人の仕事部屋で、不気味な笑い声上げんなよ……。お前さんは確かに天才だよ、人の集中力をかき乱す方のな!」
「なんと! ヒハハッ、また誉められてしまったよっ! それはすなわち我が輩の言葉が高度すぎて、下等で無学ウサギくんごときには堪え――」
「だぁぁぁぁーっうるせぇぇーっっ!! それ以上ピーチクパーチクさえずったらっ、その腹に彫刻刀、突き刺すぞっやかましいわ!!」
仕事を任せれば少しは平和になる。
そう信じて俺は錬金術師ゾエの杖、いや、しろぴよの杖を完成させたのだった……。




