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36-1 ヤバい錬金術師のために材料を集めよう - 狩人の子 -

前章のあらすじ


 城で白い幽霊を見た者が続出する。

 調査に出たベレトとリード・アルマドはまず、祭壇部屋にて亡霊城主ザガと接触する。


 その際に孔雀石の女神像が祭壇に置かれると、監視塔とザガが呼ぶ新たな部屋が解放された。それは里の全てを見渡す天空の目だ。幽霊の正体はパティアとしろぴよだった。


 男同士で水浴びをしたり、シベットがネコヒトらしからぬ釣りの才能を見せたりと、平穏な日々が過ぎてゆく。

 そんな中、クレイはキシリールを焚き付けて、姫君ハルシオンに里へきたもう1つの理由を告げさせた。


 それはハルシオン姫の説得。サラサール王が暴走した際に、決起して欲しいと願う。

 しかし彼女は王族としてではなく、男装の騎士アルストロメリアとしての生き方を望んでいた。


 翌日、ベレトとクレイはタルトと男衆を連れてレゥムの町へと出発する。

 目的はハルシオン姫からの手紙の配達、それから牧草の種を中心とした物資の調達。

 旅は順調に進み、レゥムに到着すると物資の調達が進んでいった。


 さらにその翌日、クレイとベレトはレゥム大聖堂に上る。

 クレイがレゥムに来たのは穏健派のサレからの警告と提案を伝えるためだった。

 彼はホルルト司祭と騎士団長に、魔軍穏健派との同盟の提案と、サラサールが人類を裏切って、東へと軍を進める急報を告げる。


 その後、もののついでにネコヒトは、異端尋問官から錬金術師ゾエを救出した。

 ゾエを連れて隠れ里ニャニッシュに帰ると、パティアからゾエにぞえりんのあだ名が与えられたり、あまりのウザい性格にマドリがグッタリしたりしたのだった。


――――――――――――――――――――――

 ネコタンランド開拓記

  ヤバい錬金術師が指し示す新しいステップ

――――――――――――――――――――――


36-1 ヤバい錬金術師のために材料を集めよう - 狩人の子 -


 ゾエは錬金術師です。しかし商売道具がなければ、ただやかましいだけの教育にもよろしくない厄介者です。

 昨晩開かれた歓迎会では、馴れ馴れしくも極めてうっとうしいその性質をいかんなく発揮して、人々の気力を根こそぎ奪い取って下さいました。


 さてそうこうして夜は深まり、太陽が昇り、朝が来た――のは良いのですが、ゾエは起きませんでした……。

 リックの美味い朝食で釣って、まずは農作業を手伝わせながら里に順応させるつもりだったのですがね。


「ククク、おはよう諸君! 早速この大天才の力を頼りたいのだねっ、よかろう任せたまえ!」

「ええっと、畑仕事をしたことはありますか、ゾエさん?」


 ふてぶてしいお寝坊さんは、昼食前まで畑に現れなかったのです。

 昼からの農作業は、元契約農夫であるジアの母がゾエの面倒をみて下さいました。


「うむ、遠い昔にな、禁止されていたとある薬草を栽培していたことがあるぞ! 任せたまえ!」

「禁止、薬草……。あ、あの、ゾエさん、本当に大丈夫ですか……?」


「任せたまえ! 大天才を疑うなどナンセンス! 我が輩は詳しいのだ任せたまえ!」


 ところがゾエは夕方を迎える間もなく、魔王様がしきりにおっしゃっていたオヤツ時を前に、音を上げてしまいました。


「こ、腰が……」

「あの、大丈夫ですかゾエさんっ!?」


「ククク……どうやら肉体の方が我が輩の頭脳に追い付いて来ないらしい。なまじ頭が回りすぎるがために、身体が我が輩の高等な精神の、足かせになっているようだ……。くっ、こんな身体でなかったら!」

「その……。何を言っているのか、わかりません……」


 頭は良いが身体が貧弱で畑仕事なんてとてもできそうもない。ということですよ。

 まあそういったわけなのです。そこで彼女が錬金術師としての仕事ができるように、道具や調合材料の手配を急ぐことになりました。


「おおっそこにいたかマドリくんっ! ちょっと来たまえ、ちょっと我が輩とお話しようではないかね! あっ、どこへ行く!? なぜ逃げるのだねマドリくんっ、仕事!? そんなもの辞めてしまいたまえ!」

「ご、ごめんなさいっ! 私、ここの先生だからそういうわけにはいかないんですっ!」


「ティーチャーッ?! 良かろう我が輩が超特別講師になってやろうではないかね! そのためには少し肩を――こらーっ、なぜ逃げるのだねぇぇっ?!!」


 何か別の作業をさせておかないと、誰彼かまわず話しかけてうざったく、やかましく、純粋に教育に悪いからです……。


 さてゾエをまともに働かせる上で、必要な物は大きく分けて3つとなります。

 1.大きな錬金釜

 2,それを魔力をかけてかき回すための杖

 3.釜で調合する各種材料


 とにかくウザい。ウザったくて堪えられない。そんな抗議や相談がわたしの元に集まりました。

 そこで日付けを一つまたぐと、その日のうちに全てを手配して黙らせよう、ということに決まりました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



・狩人のハンス


「おいジア、とーちゃんの前に立つんじゃねーぞ。とーちゃんは狩人だからなー、前に立つと矢ぶっ刺されちまうからなー」

「なんか息子さんが失礼なこと言ってるけどー、無視していいですよ、お義父さん」


 俺はつまらん狩人だ。

 アーチャーとして戦友たちに頼られながらギガスラインの兵を続けて、やがて定年で軍を名誉除隊したことくらいが俺の数少ない誇りだ。


「カール、森ではもう少し静かにしろ。それに俺が、未来の娘を撃つわけがない」

「はぁー? なんでジアがとーちゃんの娘になるんだよー?」

「む、娘だなんて……っ。そんな、気が早いですよ、お義父さんったら……」


 だが今は息子と、未来ではその嫁さんになっているはずのお嬢さんと、一緒に隠れ里・東の森を歩いている。

 今の俺の誇りは、仲間たちの食卓に肉を届けるこの腕と、少しアホだがそれでも自慢の息子のカールだ。


 俺はここに来て良かったと思っている。

 妻が死に、息子を国に奪われて、全てを失ったと思っていた。


 今は息子の笑顔を見ているだけで幸せだ。

 幸せという感情を自分が取り戻していることを、不思議と他人事のように実感していた。


「わかんね……」

「それよりカール、お前こそジアの背中を撃つなよ」

「そうそう! カールこそ気を付けなよ、ヘタクソなんだからさー」


 あの気の良い男、元騎士のバーニィとシスター様が息子のためにショートボウを作ってくれた。

 以前から俺がボウガンを使うところを、カールは物欲しそうに見つめていた。


 息子のわがままに付き合わせたようで申し訳ない気分だ。


「うるせーなジアッ、俺はとーちゃんの子だぞ、今はあんま当たんないけど……センスはあんだよーっ!」

「はいはい、だったらいつになったら的に当たるんだろね~」


 カールの腰には刃の入った鉄のショートソードも吊り下がっている。

 ジアにも護身と採集のために大きなナイフを持たせた。そっちは俺のお古だ。


「あ。ゾエさんたちが言ってたの、あの葉っぱじゃないかな?」

「む、あの草は……。いや薬に使うならば当然か」

「どうしたんだとーちゃん?」


「俺は見張りをする。俺も歳を取ってな、前屈みになるのがつらいんだ、カール」

「へへへ、ジジィになったなぁとーちゃんっ!」

「バカールッ、親に失礼なこと言わないの!」


 それは麻薬にも麻酔にもなるとある植物だ。

 ジアとカールは刃物を抜いて、なんだかんだ仲睦まじく採集を進めていった。


「何言ってんだよジア、うちじゃこんなの挨拶代わりだって!」

「なら今直しなさいよっ! せっかく再会できた親に、なんでそこまで生意気になれるのよっ!」


 シスター様と騎士アルス、マドリ先生たちもこちらとは逆方向の森に入っている。

 ベルンからきた軍人パウルさんや、ネコヒトの民たちも同じように採集に向かった。


 こうなると子守を押し付けられた形にもなるのかもしれない。だが幸せだ。

 息子とジアと森を歩くのは、どうやら俺にとっては嬉しいことらしい。

 無意識にも口が緩んでしまうくらいだった。


「おっしっ、次いこーぜ次! しっかしこっちの森はさー、へーわだよなぁー」

「お前のような若造にはちょうどいい」


 ついつい俺までお喋りになってしまっていた。

 俺たちは東の森を歩き回り、シスター様や錬金術師に教わった薬草類をかき集めていった。


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