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35-4 正しき所有者

 森の様子は静かなものでした。

 世界の北側で再び人間と魔族の激突が繰り広げられているとは、とても信じられぬほどに穏やかです。


 とはいえ当たり前に危険に満ち満ちていた森を、わたしは斥候として安全を確保して、東への旅路を続けました。

 自衛のできない者など、男衆の引っ張る荷台の上で、昼寝をかますクレイくらいなものですから、ずいぶんと気軽な3日間でした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 さてそうこうしてわたしたちは、鉄壁の巨大長城ギガスラインに到着しました。

 警備は相変わらずの甘々のメープルシロップです。この前以上に酷い防備に、わたしとクレイはあきれ果てました。


 あの油断ならぬ男、正統派のアガレスが穏健派との関係を破り、この長城に全軍を派遣すれば、下手すると陥落してしまいかねません。

 まあそういったわけです。難なくギガスラインを抜けると、タルトに買い出しの一部を依頼しました。


 せっかくピッコロを連れてきたのですから、里の開拓に必要な物資を少し多めに持ち帰ることにしたのです。

 裁縫、彫金、大工、石工、それに音楽家。彼に頼まれた物が多岐に及ぶため、すみませんが説明し切れません。


「帰ってきて早々で申し訳ありませんが……」

「かまやしないさ。いくつかはもう、こうなると思って用意させておいたからね、明日までになんとかしとくよ。ほら野郎どもっ、さっさと家帰って休みな! 酒場で飲んだくれんじゃないよっ!」


 わたしは牧草の種を中心に、作物などの種の調達を受け持つことにします。

 要するに花屋のヘザーのところに、再び忍び込むことにしました。


 それが終わったら明日からアルストロメリア――いえ、ハルシオン姫からの手紙を届ける予定です。


 ただし、それにはクレイが噛んでいました。

 わたしには一言も言わずにタルトを説得して、ホルルト司祭と、騎士団長あるいはその配下との会談の場を作ってくれと言い出したのです。

 それで一石二鳥だと彼はのたまうのですが、何のことやら不安しかありません。


 そこでフードをまとってタルトの骨董屋を出るなり、わたしは旧市街を練り歩きながら同族に聞きました。


「狙いは何ですか。嫌な予感しかしないのですが――もしかして、ここであなたを殺しておくべきなのですか?」

「ニャハハハー、違うにゃ。これはボランティアにゃ」


「うさん臭いボランティアもあったものですね」

「ちょっとした警告と、親善にゃ~」


「あなたからですか?」

「それは始まってのお楽しみにゃ」


 なんでこんな玉虫色のネコを、連れてきてしまったのでしょうね……。

 繰り返しますが、嫌な予感しかしません……。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 少し前の晩、ネコタンランドでは――


 パティアが手に入れたトパーズを使い、こうして今日、彫金師アンの手によって銀のブレスレットが完成しました。

 ならばお披露目です。その晩の食堂に集まった女の子たちの前に、スギの枝葉を使った変なヒゲを付けた布袋を背負った少女、パティアが現れました。


「パティア!? 何してんのその格好っ!?」

「そのコート好きだよね、でも暑くない?」

「なんだか、おじいちゃんみたい……」


 ジア含む女の子たちが口々に、変な格好したパティアを取り囲みました。

 するとパティアは上機嫌で布の中に腕を押し込みます。


「ふぉふぉふぉー。きょうはー、パティアとー、アンちゃんからなー、みんなにな、プレゼントあるぞー」

「マジでっ、なんかくれるのっ!? パティアはともかく、アンさんって部分が超気になるかも!」


「ジア、パティアもな、がんばったぞー……?」

「ごめんごめんっ。それでプレゼントって――うわっっ?!!」


 ゴソゴソとパティアが袋から、銀とトパーズのブレスレットを取り出しました。


「えっとなー、これがー、ジアのやつ。はい」

「えっ……」


 アンさんもそれを遠くから見ていました。

 ジアはさすがに貰いかねると、銀とトパーズの腕輪から後ずさる。


「ちょっ、えっ!?」

「このなー、ねこたんのめ、みたいな、いしはなー、パティアがひろった。でね、アンがこれ、つくってくれたんだぞー」


 ならば貰っていいものです。ジアがブレスレットを受け取ると、他の子たちもパティアに群がります。

 パティアは一つ一つ、どれが誰のものだったか確認して、女の子それぞれに渡していきました。


 キラキラの銀の輝きと、トパーズの輝きに女の子たちがはしゃぎだしたのは、まあ聞くまでもないことです。


 実際に確認したのは里に戻った後ですが、これほどまでに宝石のあるべき使い方もないかもしれない。そう思いました。

 少なくとも成金オヤジの手首にあるより、ずっと正しい場所に渡ったのではないかと。


「もしかしてクークルスさんも共犯? この前、手首のサイズを調べるとか言われて……はぁぁ、でも綺麗。カールに見せたらなんて言うかな……」

「あのなー。たぶん……ずるい、っていうとおもう」


「あははっ、だよねー。似合ってるとか、絶対言わないよねあいつ……」

「カールはなー、ちっちゃい、バニーたんだ」


 それはわからないでもありません。

 ああは育たないように、少し気を使わないといけませんかね……。バーニィが二人に増えたら大変です……。


「これでみんな仲間だね」

「みんなお揃いのブレスレット、嬉しいよパティア!」


 しかし彼女たちはすぐに、パティアの分がないことに気づきました。

 ですがわたしの娘は太陽のように明るく笑います。

 すぐさま自慢のねこたん人形を取り出して、女の子たちに見せつけました。


「これを、わすれたかー! これはー、ねこたんで、あらせ、ら……られ、られるれろぞー! ひかえろぉー」

「パティア、全然喋れてないから」


「ぅー……。ことば、むつかしい……まほーより、むずかし……」

「パティアだけだよそんなのー!」

「魔法使えるの凄い! パティアありがとうっ、お揃いの腕輪、綺麗! 夢みたい!」


 喋るのが下手なアホの子でも気持ちは本物です。

 こうして隠れ里では人知れず、トパーズの腕輪で結ばれた女の子同士の友情が生まれたのでした。


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