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35-2 ネコタンランドの民たち - 馬と男同士の水浴び -

 お忘れかもしれませんが、キシリールは牡馬ファゴットの主人です。

 そしてファゴットは、牝馬ピッコロに好意を寄せています。


 さらにピッコロはヘンリー・グスタフ男爵の盟友です。

 そうなれば、ラブレーとのキシリールが近しい関係になるのも、ごく自然なことでした。


「あ、キシリールの兄ちゃん! ちょうどいいや、一緒に湖行こうぜ!」

「この前連れて行ったら、気に入っちゃったみたいで。ファゴットも連れてっていいですよね……?」


 カールとラブレーがそれぞれ、ファゴットとピッコロを連れて城を出てきました。

 やさしいキシリールお兄さんの前に、二人と二頭が嬉しそうに駆け寄ってきたと、後で本人が言っていました。


「なら俺も一緒に行こう、この子は俺の馬だからな。ファゴット、お前は今日もピッコロに夢中か?」

「仕事はいいのかよ、兄ちゃん」


「今日は休みだよ」

「じゃあ、すみませんけど手伝ってくれますか?」


 話が決まると彼らは東の湖へと向かいました。

 カールは木剣、ラブレーは杖を持って、カッコいい騎士キシリールの従者ごっこを始めたそうです。


「なぁキシリール様、湖が見えてきましたぜ」

「カール、それ全然敬語になってないよ。キシリール様、せっかくですから、あの先の湖で馬を洗ってあげましょう」

「あ、ああ……。ところでこのごっこ遊び、到着した後も続くのかい……?」


 キシリールは少し困っていましたが、二人は楽しくなってきてしまっていたようで、止めるような素振りはなかったようです。

 湖の香りに馬たちがしきりに鼻を鳴らし、ついに岸へとたどり着くと、二頭とも浅瀬に飛び出しました。つまりカールとラブレーも、そのまま引っ張って行かれたとも言いますね。


「危ね、引きずり込まれるところだったな。よーっし、汚れるから脱ごうぜ」

「うん、キシリールさんも脱いだ方がいいですよ」


 合理的な考えです。何かを洗うのに、服なんて付けていたら汚れが染み移るだけです。

 ただキシリールからするとかなり意外だったのでしょう。


「ぬ、脱ぐ!? こんな場所で脱いだら――お、おいっ、カールッ、ラブレーッ、君たちパンツは残そうよっ!?」

「えー、なんで? 男同士だろー」

「大丈夫です。僕毛深いですから」


 ラブレーとカールは浅瀬の奥に行きたがるピッコロとファゴットを止めて、馬の大きな体を湖水で流し始めました。

 そうでしょうね。裸の男の子たちに混じって、自分まで裸になるのは、騎士として抵抗があって当然です。


「誰かに見られたらどうするつもりだい……」

「でも脱がないと服が馬臭くなっちゃいますよ」

「いいから、キシリール兄ちゃんもこっちこいよーっ! こいつらイチャイチャ動き回るからよー、結構大変なんだぜー」


 当然、騎士様は迷いました。

 一緒に裸になって湖水を浴びるのは楽しそうだと思う一方、一人そこに大人が裸で混じるのは、問題があるように感じたのでしょう。


「ほら早く早くっ! 深いところはダメだって言ってんだろピッコロ!」

「キシリールさんお願いです、馬を落ち着かせて下さい」


 ここまで来て手伝わないのは、ファゴットの主人としても気が引けました。

 キシリールが急いで装備と服を脱いて、剣と鞘だけ腰に吊して馬たちの前に回り込んだのでした。


「遅いぞ兄ちゃん。おわっ、近くで見るとムッキムキだな!」

「バーニィさんの方がたくましいけど……」

「これでも一応軍人だからね。よしよしファゴット、親切な子たちがいて良かったな……」


 一度裸になって湖水に入ってしまえば開き直る他にありません。

 暖かな陽光が降り注ぐ中、男たちは普段のねぎらいもかねて、馬たちを丁寧にやさしく洗っていったのでした。 


 さてそれからです。馬と人間の違いは飽きる早さにあります。

 水浴びに飽きた馬たちは、長めの紐で岸辺の木に繋がれ、やわらかな春の草をはんでいました。


 もう一方の人間たちの方は水遊びです。男同士で我を忘れて、キシリールまで夢中で湖の浅瀬を駆け回り、互いに水を掛け合ったそうです。


「くっそっ、兄ちゃんもラブレーもずりーぞ! なんでそんなに体力あんだよっ!」

「ワフッ♪ カールもキシリールさんもこっちこっち! 僕を捕まえてみてよっ!」

「はははっ、こんなにはしゃいだのは久しぶりかもしれないな! 行くよラブレー!」


 ハルシオン姫には絶対に見せられない姿でしょう。

 しかし男というのはいつまで経っても男の子で、キシリールもその例外ではありませんでした。


 バテ気味のカールが遠巻きに、鍛えられた騎士の体力と、イヌヒトの生まれ持った持久力が競い合うように湖を駆け回るのを見つめます。

 しかしそこに、キシリールとしてはとても困る顔が現れました。


 馬たちが突然いななきを上げるので、まさかモンスターではないかと急ぎ視線を送ると、釣り竿を背負ったバーニィがそこにいたのです。


「バッ、バーニィ先……ッッ」

「あっバーニィさん!」

「んぁ~? んなところで何やってんだよお前ら。おいおい、ずいぶん楽しそうじゃねぇかよ」


 パンツすらはかずに湖ではしゃぐ男どもを見て、バーニィがニッと笑う。

 わかっていますよ。こういうバカなノリがあなたはさぞ大好きなのでしょうね。


「おっさんもこいよーっ!」

「ニャンコどものためによ、今日は釣りしに来たんだけどなぁ……」

「ば、バーニィ先輩……ッ。ち、違います! これはその、わ、私は分別を忘れた訳では、ありません! 服を脱がないと、馬の洗うのに不都合があって、変なことはしてないのですっっ!!」


 キシリール、それは言うと逆に怪しまれるやつですよ。

 しかし大丈夫です。バーニィはあなたよりもずっと、バカ野郎ですから。


「ったくよぉ、んなバシャバシャやられたらよぉ、このへんじゃ魚はもう逃げちまった後じゃねぇか。もうしょうがねぇなっ、わはははっ!」

「な、なんであなたまで脱ぐんですかっ?!」

「バーニィさんバーニィさんっ、僕と遊んで下さい!」


 ラブレーは尻尾をぶんぶん降ってバーニィの参戦を歓迎しました。

 こうして東の湖に男の裸体が4つ。おっさんを交えてギャギャーワーワーの大騒ぎに発展したそうでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 ジアは暇があればカールの姿を探してくっついてる女の子です。

 畑の方でカールたちが湖に行ったと聞いて、いてもたってもいられなくなりました。


「おいおっさんっ、そろそろ飽きてきたし釣りしようぜ! おっ……」

「ぇ…………」


 馬たちに気づいたのでしょう。

 ジアが岸辺に寄っていくと、そこに釣り竿を探すカールがいました。


「ようジア! 今おっさんと兄さんとラブレーとよーっ」

「ひぅっ……?!」


 服なんか着ているはずもありません。

 里の高タンパクな食生活に、カールの身体は日に日にたくましく成長していました。


「どうしたんだよジア。あ、そういや服着てねーんだったっけ。今着るからちょっと待って――」

「か、カールのアホーッ変態ッッ!! へ、へへへへ、変な物見せるなぁぁぁーっっ!!」


「痛ってぇっ?! 何すんだよジ――もういねーしっ!」


 カールを諸手突きで吹っ飛ばして、すぐにジアが逃げ出したのは言うまでもありません。

 それからほんの数日の間、どう接していいのやらわからないのか、ジアのカールへの態度がギクシャクしたのも、自明の理というものでした。


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