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35-1 白い幽霊と黒い亡霊 - 黒 -

前章のあらすじ


 北部ギガスラインに魔軍殺戮派は立てこもっていた。狙いは最低の呼応者の動きを待つため。


 そんな激動に世界が飲み込まれてゆく中、隠れ里に嵐がやってきた。

 さらにはその真夜中、モンスターが広場に入り込んでしまう。


 パティアとネコヒトは身体が軽いため動けず、代わりにバーニィとリックが迎撃に向かい、タルトの支援もあって怪物を撃退した。


 ところが嵐の爪痕は大きかった。計画が崩れたショックでバーニィが落ち込むも、リックとタルトに励まされて魔石を畑に使う計画を立てる。マドリの知恵を借りて、実験と検証を重ねて一定の成果を得た。


 そんなある日、パティアがピッコロを釣れて森を散策していた。突然現れたガーゴイルを撃破して、トパーズを手に入れる。

 そのトパーズを狙って、ジャイアント・クロウと呼ばれる大ガラスが襲ってくるも、ピッコロの活躍で撃退された。


 里へと戻ったパティアはトパーズをネコヒトに見せ、それを彫金師のアンに磨いてもらって、ネコヒト人形に取り付けてもらった。

 ところがその翌日、大切な人形が消える。犯人は恐らくジャイアント・クロウ。ネコヒトは人形を取り戻すため森に向かい、自らとトパーズを囮にする。


 作戦は成功し、驚異を駆除して人形を取り返すと同時に巣にあったお宝を持ち帰った。その中には、孔雀石の女神像の姿も。


 こうして人形がパティアの胸に戻ってきた。宝石は美しい輝きを持つ。皆が欲しがる。

 だが大事なものは宝石じゃない。ねこたんだと、パティアは本当に大切な物を学んだのだった。


――――――――――――――――――

 続・隠れ里のなんでもない春の日々

――――――――――――――――――


35-1 白い幽霊と黒い亡霊 - 黒 -


「幽霊ですって……?」


 近々タルトと男衆が帰ることに決まったある日、妙な噂が流れてきました。

 その晩に聞いたのですが、なんとこの古城に幽霊が出るというのです。


「はい、昨日からちょっとした騒ぎになっているんです……」

「そこで教官、もしできたら、調べてくれないか……? 子供たちが、不安がってて、心配だ……」

「ああ、幽霊なら知っていますよ。ザガという黒いネコヒトの亡霊です」


 ところがどうもそれが違うらしいのです。


「違う。白くぼんやり、光っていて、霊魂を連れていたらしい」

「それに、不気味に笑ってたそうですよ……っ!」

「はて……。そもそも幽霊とは、光るものなのですか?」


「ええ、それがかなり強く発光していたそうで……」


 そうなるともっと得体の知れない者、良くない者である可能性が出てきます。

 さっさと尻尾をつかんで、ジャイアント・クロウと同じく駆除をしたいところでした。


「斬れる相手なら、オレが、成敗するのだが……」

「そうですね。悪霊やモンスターの類と考えると、軽視できない事態かと。やってみましょう」

「ぼ、私もお手伝いします!」


 リックは子供たちに付いていたいそうです。

 何せ雲をつかむような話です。わたしはマドリを引き連れて、すぐに調査を始めました。


 まずは目撃者をリストアップして、順番に話を聞いて回ったのです。


――――――――――――――――

・証言1 年少組の女の子

「あのね、マドリせんせい。白く光ってた。それに、凄く早かったよ……」


・証言2 ある元気な男の子

「べ、別に怖くねぇし……遠くてわかんなかったけど、脚は生えてたぞ……。び、ビビッてなんかねぇよジア!」


・証言3 ある少年の母親

「笑い声が聞こえました。それで気になって姿を探してみたら、白い人魂が……か、壁に向かって、消えたんです……」

――――――――――――――――


 つい首をかしげてしまいましたよ。

 リードもといマドリと一緒に情報をかき集めてみたものの、正体も解決法もわかりませんでした。


「ところでリード」

「あ、はい、何か気づかれましたか?」


「いえそちらではなく。その後、バーニィとアルスに困らされてはいませんか? 変なことをされたら、すぐに言うのですよ」

「ぅ……。そこは――されて、されてないわけ、ないじゃないですか……」


 小声のつぶやきはわたしの聴覚ならばなんのことはありません。

 しかし今のところわたしを頼ろうとはしなかったので、それ以上の追求は止めておきました。


 まあ、されていないわけがありませんよね。あの二人の性質を考えれば。


「仕方ありません。証人をもう一人増やしましょう。リード、こちらへ」

「ま、マドリですっ! それに行くってどこへ……?」


「地下です。亡霊のことは、亡霊に聞いてみましょう」

「ぇ……?」


「本物の幽霊に会わせてあげますよ」

「え……ぇぇっっ、あ、会わせるって、ちょ、ちょっと、待って下さいよっ!?」


 戸惑うリードの背中を押して、わたしは古城グラングラム地下祭壇に向かいました。

 妙な理屈ですが、本当に幽霊なら幽霊が気づかないはずもないでしょう。


 湿り気を放つお風呂場を横切って、わたしとリードは祭壇部屋に入りました。

 これはシスター・クークルスでしょうか。その祭壇に小さな花が飾られています。


「こ、ここですか……」

「ええ、ここですよ。ザガ、あなたに頼みがあってきました。幽霊のお友達に、あまり人を脅かすのは止めてくれと、言っておいてくれませんか?」


 わたしの独り言にリードは疑いの目を向けました。

 ザガの返事はなかなかありませんでしたから、急にボケたのかと疑われてしまったかもしれませんね。


「――何を言っている。そんな知り合いなどいない」

「では、最近古城に現れているのは、幽霊ではないのですね?」


 しかしそこに突然声が響いてリードが驚いていました。

 愛らしい女装少年は声の出所を不安げに探し回って、目を見開いたようでした。


「わからん。俺もまだ幽霊には会ったことがないからな」

「目の前にいるではないですか」


「あいにく鏡には映らんのだ、この身体は」


 人々の意識の上に存在しているだけで、光に映し出される物質としては存在していない。

 といった理屈でしょうか、無理矢理こじつけるならば。


「あ、あの……誰なんですかこの方っ!?」

「我が輩の名はザガ、グラングラムの亡霊、元城主だ。つまらんことに巻き込んですまんな」


「ザガ……。そういえばさっきもザガって、あれ、どこかで聞き覚えが……」


 黒いネコヒトがリードに一瞬興味を持ちました。

 ところが急に反転して、亡霊がわたしの鼻先に飛んでくる。


「それより話がある。例の物を手に入れたのに、どうして捧げてくれないのだ」

「はて、何の話でしょう」

「孔雀石の女神像だ。いきなり持ち歩いていたから驚かされた。どこでアレを手に入れたのだ……」


「ああ、これのことですか?」


 もちろんわたしが交渉材料を持ってこないわけがありません。

 わたしは遠いご先祖様ザガの前に、愛しの女神像を突き出してやりました。


「意地の悪いやつだ……。持っているならすぐに出してくれればいいものを」

「フフフ、こればかりは性分でして。ところでリード」


 そのザガが欲しくて欲しくてたまらないやつを、リード・アルマドに手渡しました。

 いきなり渡されてちょっと困っていましたが、すぐに興味深そうに見つめてくれます。


「これに見覚えは?」

「はい、ええと――あると答えたら、どうなるのでしょうか……?」

「何だとっ!?」


 ザガがマドリお嬢様に詰め寄ろうとしたので、嫌がらせついでにわたしがかばって差し上げました。

 よっぽど他の女神像の行方も気になってたまらないようで。


「たかが城主ごときが頭が高いですよ。こちらの方は、リード・アルマド。アルマド公爵家の直系です」

「は、初めましてザガ侯」


「ああ、初めましてリード公爵。といっても我が輩はそなたの正体を知っているがな」

「覗き見が趣味ですからねあなたは」


「え、ええっっ!?」


 正体を知っている。覗き見。そのワードはリードに胸を抱かせて、驚きと恥じらいの表情をさせるのに十分でした。


「そんなことよりどこでこれを見た、イスパ・アルマドの末よ」

「な、なぜその名前を……っ!?」


 わたしも同感です。あまりになつかしい名前にわたしだって驚いてしまいました。

 それは世をすねた情けないネコヒトに、音楽を教えてくれた恩人の名です。


 この通り素性不明のザガがイスパ様を知っているとは、今日まで考えてもいませんでした。


「あ、はい、似たものを宝物庫で見ました。黄金色のその女神像を。顔立ちも同じだったような……」


 その女神様が、古城の地下で眠っていると言われたら、リードは好奇心を働かせるでしょうか。

 いたずらにザガの機嫌を損ねるだけで、わたしたちの目的とはほど遠いので、わざわざ口にはしません。


「違う」

「え……違うって、何がですか?」


「黄金ではない、それはエレクトラムだ!」

「偽りの黄金という意味です。ですがどうやらザガからすれば、本物のようですが」


 ザガがそのエレクトラムの女神像を強く欲しているのは、我を忘れた姿だけでわかります。

 だが、公爵家の宝物庫は魔将アガレスの手に落ちました。そうなると今はどこにあるのやら。


「ザガ、あなたは外の情勢をご存じですか?」

「そなたらからたまに盗み聞きする程度だ」


「では教えて差し上げましょう。アルマドの領地は魔将アガレスの手に落ちました。よって、元の場所にはもうないかと。ゴミと勘違いされて、捨てられた可能性すらありますね」


 何せ偽の黄金、こんな物をありがたがるのはザガか、詐欺師か、捨てようとしなかったアルマドの血筋くらいなものでしょう。


 黒いネコヒト、偉大なる竜殺しの剣(グラン・グラム)の城主にとって、それはよっぽど大切な物のようでした。


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