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34-11 ネコはカラスを釣るそうです - ぜつぼー -(挿絵あり


34-11 ネコはカラスを釣るそうです - ぜつぼー -


「ピヨ……ピヨヨ……」


 結界の内部に戻ると、しろぴよさんがわたしの肩に止まりました。

 どことなく元気がありません。丸くてふっくらした鳥臭い身体をわたしにすり付けていました。


「まさか、あなたまでパティアを心配して、一緒に落ち込んでいるのではないでしょうね?」

「ピヨ……ッ!」


「フ――あの子は幸せ者ですね。魔王様がもしパティアを見たら――いえ。それよりこれをご覧になって下さい」

「ピヨ……? ピュイッ、ピュィィーッッ!」


 人形を見せるとしろぴよさんがすぐに飛び去っていきました。

 先に報告されてしまうと、わたしとしては少ししゃくです。再び森を駆け抜けて、小鳥とネコヒトは少しばかし追いかけっこに興じました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 里に戻ると、パティアは部屋に引きこもっていました。

 なぜわかったかといえば、しろぴよさんの丸くて白い後ろ姿を尾行()けたのです。


「ピュイッピュイッ、ピヨヨッピヨヨヨヨーッ!」

「んんっ……しろぴよ、うるさい……。パティアはいま、ぜつぼーしてるの……」


 ずっと寝ていたようです。

 大切な物を失ったショックで、何もやる気が出なかったのでしょうか。


「んん……にんぎょう、ねこたん……? あっ、ねこたんだぁーっ!」


 わたしの姿に気づくと、暗く眠そうにしていた少女が書斎から飛び降りて、大好きなねこたんをタックルで壁まで押し込みました。

 一方のしろぴよは書斎に下りて、小さくて黒い瞳でわたしたちを見つめているようです。


 まあしかし鳥は鳥。堪え性がないので、早く渡せとわたしのポーチをつつきだしました。


「しろぴよ? なにしてるのー? はっ、ま、まさか……!」

「はい、取り返してきましたよ」


 わたしがポーチを開くと、しろぴよさんが必死で中の人形をくちばしで引っ張り出す。

 そんなに1秒でも早く、パティアに元気になってもらいたいのですか?


挿絵(By みてみん)


「ねこたんだ!」


 その小さな身体には重いでしょうに、全身全霊の羽ばたきで小鳥がパティアへとねこたん人形を渡して下さいました。

 それからどうしてか得意げに、パティアの小さな肩の上に乗るのです。


「ねこたん……ねこたんしゅごい! ありがとう! ありがとう! ほんとうに、とりかえして、くれた! ねこたんしゅご! ねこたんすき、だいすき、ずっとすき! むぎゅぅぅ……♪」

「いえいえ、見つかって良かったです」


 感動のあまりパティアがわたしの胸毛に顔を埋めて、鼻をすすったり涙を擦り付けてきましたが、今回ばかりは我慢しました。

 この子がこの人形に執着するのは、それ相応の理由があるのです。


「むしろ、ずっと一緒にいられなくて申し訳なく思っております。わたしがずっと一緒に、父親らしいことをしてあげられたら、こんな物要らないのですから」

「ちがうぞー。ねこたんにんぎょうは、パティアの、たからものだ。それとー、これはなー、べつ」


「おや、そうでしたか」

「そうだぞー。それになー、みんなのために、パティアのために、ねこたんがんばってる。バニーたんも、うしおねーたんも、クーもそういう。パティアもわかってるのだ。だからー、寂しいけどな……いいの」


 パティアが胸から離れました。

 何をするかと思えば、大事なねこたん人形を両手で抱えて見つめ合っています。胸に輝くトパーズの輝きが綺麗です。


「でも、これはないと、こまる……」


 それから大切そうに少女は人形を胸に抱きしめました。

 そうやって帰ってきた喜びを噛みしめて、しばらくするとわたしと同じようにトパーズを見たようです。


「キラキラ、きれいだけど、こわいな……」

「ええ、そうかもしれませんね」


「キラキラ、きれいだからな、いろんなひと、ほしがる……。だいじなものは、キラキラじゃなくて、ねこたんだ……。キラキラは、だいじなものには、もう、つけない……そうきめた!」

「少しもったいない気もしますよ。別にそのままでも良いのでは」


 残念ながらそれが価値ある物の宿命です。

 宝石は鳥さえも魅了して、災いや奪い合いを引き起こす。


「そうかな……」

「そうですよ。次から気を付ければいいのです」


「んんーー……まよう。パティアも、きにいってるから、そういわれると、まよう。しゅごく……」

「ピヨヨッピヨヨヨヨッ!」


 それは何の心変わりか、しろぴよがわたしの頭の上に飛び移って、明るくさえずりました。


「え、しろぴよも、ねこたんにさんせー? そか、じゃあ、しょうがないなぁ……♪ あ、そうだっ、クーにも、かえってきたの、おしえなきゃなー!」


 こうしてパティアと白い小鳥は部屋を踊り回り、ねこたん人形を仲間にして、わたしの前から飛び去ってゆくのでした。

 ええそれは良い考えです。シスター・クークルスも心配のあまり、半泣きでソワソワしておりましたから。


 パティア。わたしはあまりキラキラはしておりませんが、ずっとあなたと一緒にいますよ。あなたが大人になってもずっと。ずっとわたしはあなたと一緒です。


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