表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

319/443

34-7 ジョグとリセリと百合水仙の秘め事 

 これは嵐の後片付けが終わった頃に起きた、ジョグとアルストロメリア双方から聞いた話です。

 これだけ個性豊かな住民が里に集まると、人と人の個性と関係性が触媒となって、それぞれに変化を及ぼすのでした。


 遠回しな切り口になりました。本題に入りましょう。

 彼らにとってそれはスキンシップ、ただの生活の延長線でした。

 ところが人によってはそうはならない。ジョグとリセリにとっては特にです。


 二人は既に同居しているはずなのに、いまだ関係の進展がほぼ見られません。

 そんな二人にとって、その光景はあまりに過激で、かつ羨ましいものだったのでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「あっ……あんっ、んっんぁっ……はぅぅ……っ♪ アルスさん、そんな、だめぇ……」

「フフフ……ここかい? ここがいいのかい? まったくこんなにして、クーさんは意外とだらしないんだね……」


 その日の昼過ぎ、仕立て部屋より甘く艶めかしい嬌声が響いておりました。

 大半の人々は畑の方に出払って農作業や伐採、嵐で傷ついたバリケードの補修をしている頃です。子供たちに聞かれなかったのは幸いでしょう。


「だってぇ……。穴がこんなにあると、大変――んっっ、うっ、くぁぁぁ……っっ?! やぁっ、そんなにしちゃ、ダメですアルスさん……っ、ひゅぁぁっ!?」

「グフフ……ではなく、フフフ――元聖職者とはとても思えないな。そんなにこれが気持ちいいのかい、グフ、グフフッ……。それにしても美しい……。クーさんはボクの女神様だよ!」


 声こそ妙に色っぽいものの、二人は別にいかがわしいことをしてはいません。

 アルストロメリアがシスター・クークルスの頭を膝に乗せて、綺麗な白布で、ただ耳掃除をしていただけでした。

 もちろん、ザガの余計なお世話で増えた方の耳をです。


「はぁ、はぁ……うふふっ、くすぐったいですよーアルスさん」

「逃げちゃダメだよ、キミのその美しいサエズリをボクにもっと聞かせておくれ。ほら、ここかい、ここも綺麗にしないとね……」


「ひゃぅっ!? そ、そこはダメですっ、あっあっあぁっ、ふぁぁぁーっっ♪」

「フフ、フフフフ……。ボクはこの里に来て、初めて自由になれた気がするよ、クーさぁぁーんっ!」


 二人でいつまでも勝手にやってなさい。と言いたいところでしたが、それを見ている者がいました。

 ええそうです。ジョグとリセリが部屋の外から二人をのぞき見していたのです。


 何せ現場は仕立て部屋、盲目ながら裁縫技術の高いリセリには、職場の1つでもあります。

 過激なものを目撃してしまい、二人はしばらく固まっていたようでした。


「で、出直すべ……。食堂、でよ、ちょいと、お茶でもどうだべ……」

「…………」


 ジョグからするといたたまれない空気でした。

 そこで小声で移動を持ちかけたものの、リセリはそこから動かない。何やら熱心に耳を澄ませて聞き入っていました。


「リセリ、これぇ、ただの耳かきだべ……。二人とも、変なことしてねぇよぉ……?」

「……嘘。てっきり私、もっと……あ、ううんっ、なんにも勘違いしてないよ私……っ」


 鋭い感知能力があったところで、言ってしまえばリセリは色ボケです。

 思わぬ現場に大好きなジョグさんと一緒に遭遇してしまって、敏感な乙女心を高ぶらせていました。


「ほら見てごらん……。こんなになっているよ……」

「ぁぁ……アルスさん、そんなの見せないで……。こんなにベッタリこびり付いてるだなんて、恥ずかしいわ……」


 もちろん耳垢の話です。

 しかし盲目のリセリからすると、なかなかそうは聞こえなかったのかもしれません。


「ね、ねぇジョグさん……本当に、耳掃除、なんですよね……?」

「そ、そうに決まってるべ、どこからどう見ても、ただの耳掃除だべ……」


 片方の耳が終わると、アルスは布を引っ込めてクークルスを起こしました。


「ほら、反対側もやるよクーさん」

「ありがとうございます♪ 毎度すみません、自分でやるとまだ大変で……」


 慣れた様子でクークルスがくるんと反対に寝転がりました。

 姫君ハルシオンの膝の上で、腹のほうに顔の正面を向けたのです。


「こっちも汚れているね。じゃあいくよ、入れるからね……」

「は、はぃ……よろしくお願いします、アルスさん……。は、はぅっ!?」


 そこから先は先ほどと変わりません。

 敏感な器官を傷つけないようやさしく、アルスが猫耳を掃除してゆきました。


「ジョグさんっ、反対側、反対側って、なに……っっ」

「だ、だから耳の話だべよぉっ」


「じゃ、じゃぁ……ジョグさんも、ああいう声、出るの……? 私、ジョグさんに、してあげたい……」

「お、おらぁ、あんなエッチな声出ねぇべよ……っ」


 ジョグは戸惑いと共に一度断りました。

 ですがリセリは鋭い。それが本当の拒絶ではないことくらい、わかっていたようです。


「でも、してあげたい……。ダメ、ですか……?」

「お、おらぁ……でもよぉ、なんか、アレ見ちまうとよぉ……」


「目が見えない人に、耳を任せるのは、怖いですか……?」

「そんなことはねぇべっ。た、ただ少し、抵抗があるだけだべ……おら、たぶん、重いしよぉ」


 ジョグ、耳くらい別にいいではないですか。

 リセリの細い脚に、あなたの大きな頭と太い首は、確かに釣り合わないかもしれませんが。


「ふぁぁ~、きもちいいー♪」

「フフフ……クーさんのために秘密兵器を用意しておいたのさ」


 ところがまた甘い声が部屋から響いて、二人の視線がのぞき見に戻ります。

 見れば今度は、クークルスの猫耳が小さなブラシで擦られていました。


「かゆいところに引っかかって、んっんぁっ……もっと、もっとお願いします♪」

「その言葉を聞けて良かったよ。あのスケベ男に、下げたくもない頭を下げたかいがあったというものだ……!」


「あら、バーニィさんに……? んっんんっ、くぅぅん♪ これぇ、癖になっちゃいます……♪」


 それはバーニィに作らせた木製のブラシでした。

 もう春ですから、ブラシが往復するとクークルスの猫耳から毛が抜けてゆきます。わかります、それがまた気持ちいいのですよ。


「おお、あれはちょっと、いやかなり気持ちよさそうだべ……」

「私、してあげたいですっ。ずっと、してあげたかったけど、勇気が出なくて……」


 私もバーニィに注文してみましょうか。

 あるいは彫金師のアンに、銀のクシを作ってもらうのも悪くありません。


「じゃあ今夜お願いするべ」

「今夜……。わかった、お風呂入ってから、がんばるね……」


「そこで何でお風呂が出てくるんべさ!? あ……」


 ついジョグが大声を上げてしまったせいで、ついに気づかれてしまいました。

 アルスの方は、調子に乗って好き放題していた自覚があったのでしょう。固まっていたそうです。自然体だったのはクークルスだけでした。


「あらおかえりリセリちゃん。はぁぁっ、抜け毛って大変ですねジョグさん……。これがかゆくて、かゆくて……」

「おいらはワイルドオークだからよぉ、そういうのあんまりねぇべ」


 ゴワゴワした毛並みをかいて、ジョグはばつが悪そうに目をそむけました。

 甘い声を上げる二人を、こっそりのぞいていた事実は変わりません。


「リセリくん、良かったら後でこれ使うかい?」

「い、いいんですかっ!? 貸して下さいっ、それでジョグさんをっ、ジョグさんを……!」

「お、おら、あんなかわいい声っ絶対出さねぇべよ!?」


 リセリは言っていました。

 自然体で大胆なスキンシップをする二人の姿が、羨ましくも参考になったと。


 わたしだって羨ましいです。

 わたしもあのブラシを借りて、パティアに冬毛をといてもらいたい。


 あの子のことですから、抜けた冬毛を後生大事に抱え込みそうで、迷うところではありますがね……。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ