34-6 ピーマン畑でつかまえて
リードが彫金師アンのところで魔石を砕いてもらっている間に、パティアとわたしは畑に実験に使う作物を植えます。
ニンジン、ホウレンソウ、ピーマンを他から移して、新しく種をまきました。
そこにリードが戻ってきて、細かな破片状の魔石をまけば、作業はこれにておしまいです。
後は一晩様子を見ようと決めて、解散となりました。
わたしですか? パティアと一緒に寝直しましたよ。
皆さんには悪いのですがね、この体質ばかりはどうしようもありません。
●◎(ΦωΦ)◎●
翌日の早朝、わたしはパティアに揺すり起こされました。
寝ぼけた自分がどこをどう歩いたのかすら、まるで覚えていません。
ふと気づいたら、わたしはあの畑の前に立っておりました。
「あの……起きて下さい、エレクトラムさん、おきて……」
「まどりんはー、やさしいな。パティアにまかせて、ねこたーんっ、ぶちゅーっ♪」
すみません、また寝てました。
なんだか頬の毛がベタベタしています。天気雨でも降ったのでしょうか……。
「おや、あなたは……」
「マドリです、マドリ! 間違えないで下さいね!」
「それよりねこたんっ、これみてー!」
それからわたしは畑を見せられました。
いえもう見たつもりでいたのですが、その時はまぶたを閉じていたようです。
「おーい、ねこたん……?」
「寝てます……」
「ねこたんっ、おきてーっ! ちょっとだけだから、め、あけてー!」
「はて、もう見ましたよ。フフフ……綺麗なお花畑ですね、パティア……」
「めーつぶってるぞ、ねこたん! それちがう、ゆめだ! おはなばたけ、ないっ、おーきろぉー、ねこたーんっ」
パティアがわたしにしがみついている。
いつものことでしたが、夢だと言われて夢なのに気づきました。
そこでうっすら目を開けると、そこに実験の結果がありました。
「お見事。後はお任せします、リード……」
「だから、私はマドリです……マドリなんです……」
すみません。昼にもう一度見せて下さい……。
●◎(ΦωΦ)◎●
目覚めるとそこは畑でした。
どうも野生動物みたいに、わたしは畑近くの地べたで眠っていたようでした。
そういえば昨日、ここで実験をしたんでしたね。
そこであらためて見れば、実にわかりやすい結果が現れていました。
結論から言いましょう。
魔石を使いすぎると、成長が過剰促進されて、まともに育ちません。
特に種の段階から魔石を使ってしまうと、若葉のまま過剰成長して茎が自重でへし折れるようでした。
ほうれんそうのような葉物野菜には、これはこれで悪くない結果に見えましたがね。
ただ成熟していないので、これでは種が取れません。
一方、苗の段階から育てた株は、たくさんの花を咲かせていました。しかし実は1つもありません。
受粉の問題だけは、魔石ではどうにもならないようです。
最初から花が咲いていたピーマンの株には、大きなピーマンがいくつも実っていました。
使いにくい力ですが、悪くありません。
後はリードに任せて、もう少し経過を見守ることにしましょう。
「あ、ねこたん!」
「おやパティア、どうされましたか?」
「たいへんだ! あたまに、おはなついてる!」
「わたしですか? おや本当ですね……」
誰がやったのやら、わたしの頭の毛にピーマンの花が刺されていました。
子供のいたずらでしょうかね。白くて小さな花は、女性が喜びそうな慎ましさです。
「へへへ……じつはなー、はんにん、しってる」
「あなたですか?」
「ちがう。あのね、クーがねー。うふふー、ねこさんのおかおー、かわいいわー、うふふー。ってね、やってた」
「そうですか。それはシスター・クークルスらしいですね」
わたしは白い小花をパティアの頭に移して、ネコヒトらしくあくびと、簡単な伸びをしました。
嵐に荒らされた里の様子を眺めてみれば、間違えて一日多く寝過ぎたのではないかと思うほどに、とても綺麗に片付けられてました。
がんばりましたね皆さん、それとバーニィ。
「ねこたん、パティアににあうかー?」
「ええ、あなたに花が似合います。お姫様のようにかわいいですよ」
「でへ……でへへへへへ……わるいき、しねぇぜ……」
「あなたの嫌いなピーマンの花ですがね」
「うげ……」
そこまで嫌わなくてもいいでしょうに。
パティアはビックリと驚いて、己のブロンドからピーマンの花をはたき落としていたのでした。
「ねこたん……パティアのあたまが、にがくなったら、どする。もう、こまるでしょー……!」
「花は花です。苦くなるわけないでしょう」
この子の築いたアイスウォールの壁は、まだ完全に溶けずに残っています。
あれが暴風雨を遮ってくれたおかげで、ずいぶんと被害はマシなってくれたのでしょう。
だというのに……。
「なーにー?」
「いいえ、そろそろお昼ご飯ですね。食堂に帰りましょうか」
「うん! ねこたん、いっしょにかえろー」
わたしは少し頭が残念な我が子と手を繋ぎました。
それからパティアに手を振り回されながら、リックとタルトの手作り料理が待つお城に帰って行くのでした。
器用な手先と身のこなしを最大限に活用して、さっきのピーマンの花をパティアの頭に戻しつつです。
「どうしたの、ねこたん? なんでー、わらってるのー?」
「あなたがかわいいからですよ。それとリックの料理が楽しみで」
「わかる! パティア、うしおねーたんのなー、ごはん! たべれるだけで、しあわせだ……」
食堂に着くまで、パティアは嫌いなピーマンの花を乗せて笑い続けていました。
その後、わたしのいたずらにプリプリとお怒りになられましたがね。




