34-4 嵐の夜に来た者 - 猫と幼女抜き -
・びしょ濡れうさぎさん
「お、もしかしてアレか? 近づいてみるとでけぇな……」
「バーニィ、頼りにしてる」
大木みたいな影が正面奥にあった。
見間違いであることを信じたかったがな、ありゃホンモノだ……。
リックちゃんが指先でお前は左から行けと指示して、俺たちは挟撃をしかけることにした。
しっかし何も見ぇねぇ、雨の滴が顔面にぶち当たって、風がメチャクチャな方向に俺たちの上半身をあおる。
「うぉっ……?!」
ところが背中の方から光の槍が飛んできた。
いやソイツが標的の背後でいきなり爆発して、空に浮かんだまま小さな太陽になった。
強烈な光が暗闇と嵐の世界を煌々と照らしてくれたのさ。
誰がどう推理したって、こんなパワフルな照明魔法はパティア以外に扱えるはずもないと、考えるだろうな。
「決断早ぇな……」
敵を目視したが、一瞬俺はジョグのヤツじゃねぇかと躊躇した。
だがリックちゃんは違った。まあそうだよな、ジョグのヤツは腕が4本も生えちゃいねぇ。足ならともかくよ。
「怪物が……っ」
俺の目の前で、十字槍を持ったリックちゃんが黒い異形のワイルドオークと死闘を繰り広げた。
とんでもねぇ怪力だ。ネコヒトの重力増加魔法をかけられたリックちゃんと、普通に打ち合っていやがる……。
「ォ……ォォォ……」
「クソッ、視界が……」
付き合いたくねぇ……。と思ったがよ、リックちゃんに良いところ見せるチャンスだ。こっちも静かに忍び寄って、背中から二発同時に斬り付けた。
普段はまずやらん二刀流だ。少しでも体を重くしなきゃ、バランスも取れんからな。
「コイツ、なんなんだよ……おいリックちゃんっ、肉斬った感覚がねぇ! まるで、まるで硬くなった消し炭みてぇだ!」
「そうらしい。バーニィ行ったぞ!」
ヤツの腕には剣が握られていた。
ソイツを俺は受け流す。ネコヒトの野郎を見て覚えた技だが、そいつで正解だった。
まともに受けたら剣ごと吹き飛ばされていたところだ。
しかしリックちゃんと俺は挟撃を維持している。リックちゃんが十字槍でヤツの腹を貫いた。
「続けバーニィ!」
「悪ぃっ、今すっ転んでるとこだ!」
あんなもの食らったバランスが保てん。
俺は愛剣じゃない方を落として、泥まみれの地面を転げ回った。もののついでにヤツの足首から下を、ぶった斬ってやったがな。
「ゥ……ォ、ォォ……」
「でかした! くっ……?!」
転倒した怪物にリックちゃんがトドメの一撃を入れようとした。
だが間が悪い。突風がリックちゃんの前進を押し返してしまった。顔にも雨粒が叩きつけられるからな、あれじゃ何も見えん。
逆に行えば黒い怪物にとっては追い風だった。膝を付いて立ち上がったヤツが、リックちゃんに飛びかかろうとしている。
「下がりなリック! 行くよバーニィ!」
「てめっ?! クソッ、リックちゃんはやらせねぇ!」
とにかく俺は頭を狙った。いきなり隣に現れたタルトと一緒にな。
異形のワイルドオークに、追い風に乗って飛びかかって、俺が頭を、タルトがリックを狙った肩をナイフか何かで貫いていた。
弱点は頭だったみてぇだ。それでようやく怪物は動かなくなったよ……。
「タルトか? 危うく深手を、負わされるところだった。助かった」
「水くさいことするからそうなるのさ。……へくしゅっ! さっ、終わったんなら、さっさと帰ろうじゃないか!」
「賛成だ。タルト、あなたには借りができたな」
「身体張って里を守ろうとしたんだろ、貸し借りなんて無しさ。さあアンタも帰るよバーニィ!」
「お前さんよ、もういい歳なんだから無茶すんじゃねーよ……。はぁ、肝冷えたわ」
こうして俺たちは泥んこまみれの酷い戦場から帰還した。
耳の中まで雨水まみれでよ、マジで散々だわ。
それから俺たちは一緒によ、城の地下の風呂に入ったよ。
この時間は混浴だ。一度そう決まったんだから、変更は俺のスケベ心がぜってー許さねぇ。
「って、なんで居るんだよお前らっ!?」
「おや酷い言い方ですね。慣れない術を使ったので肩がこりまして」
「パティアも、まほーで、おてつだいしたぞー? それよりバニーたんっ、パティアが、あらったげるー!」
だがよ、タルトはさておき、リックちゃんとの楽しい入浴とはならんかった。
「それとも、ミャーたちが洗ってあげましょうかにゃー、ウサギさん?」
「クレイにしては名案!」
「そうしよう、さあこちらへどうぞバーニィさん!」
おまけにクレイと大勢のネコヒトが押し掛けて、ご親切にもミャーミャーと俺を洗ってくれたわ……。
「あいったぁぁっっ?! 何すんだてめぇパティ公っ!?」
「あれ……。これ、いと、かとおもった。だって、しろかったからなー……」
中年男の前髪を抜くのは、笑えねぇ暴挙だと思うぜ……。
しかもそれ白髪じゃねぇかクソ、最近また増えてきた気がするぞ。
「はっ、ソイツは白髪だよ、白髪っ、おじんの証さ!」
「そうかー。あ、わかった。しらがって、おじいちゃんに、はえてるやつかー?」
俺はまだ42だ。おっさんなのは認めるがよ、俺はまだジジィじゃねぇよ。頼む勘弁してくれパティ公よ……。
●◎(ΦωΦ)◎●
翌日の朝遅く、畑の2割方を食らって嵐が通り過ぎていった。
未熟だった実は落ちたり潰れたり、作物ごと風に押し倒されたりと、そりゃもう散々だ。
「戦には勝ったが、すっかりやられちまったな……。どうしたパティ公?」
昨晩は忙しかったからな、ネコヒトはまだ熟睡している。
パティ公と一緒に広場の畑に向かうと、なんか黙り込んじまっていた。
「おい、パティ公? 聞こえてるか?」
「あ……。あのね、バニーたん……」
「おう、どうしたよらしくねぇな?」
「あらしって、こわいな……。パティアたちのはたけ、つぶれてる……」
「はははっ、今さら気づいたのかよ。そうたぜ、嵐っていうのは怖いんだ。よーく覚えておけよ。けど次はこうならんよう、もうちょっとがんばらねぇとな」
「うん……パティアも、がんばる! あらしにまけない、おんなになる!」
「うっし、バリケードの方を見に行くぞ。早く直さねぇと危なくてしょうがねぇ」
「おうっ! うしろは、パティアに、まかせろバニーたん! おう、たよりに、してるぜ……」
「最後のやつは俺のセリフだっての……」
うんざりするほどぶっ壊されちまったが、まあこれから全部直して改良していきゃいい。
なんだかんだ邪魔者は入ったがよ、リックちゃんと一緒に風呂に入れたからな、へへへ……。
ああ、何度見ても思うわ。あの乳は反則だろ、魔界ってのはマジですげぇな……。




