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33-4 牛魔族ホーリックスの料理歌

 レゥムに戻るとホルルト司祭とマダムに接触して情報交換をしました。ざっくり羅列するとこんなところです。


 軍の主力が王都周辺に集結している。

 王都で女の失踪が続出している。

 サラサール王はギガスラインが陥落したというのに、ベルン王国からの援軍要請を突っぱねた。


 こうなればパナギウム王国の未来は暗いです。

 サラサール自ら史上最低の王になろうとしているようにしか、わたしたちには見えませんでした。


 さて、それからしばらくは成果待ちとなりました。

 遠方に向かってくれた男衆たちがもうじき戻ります。


「他に無いよ。みんな危険を承知で行くんだ、どうにか守り抜くしかないさ」

「規模にもよりますね。説得の成功を祈りたい反面、民間人が増えるほど旅が困難になります」


 どうやって南部ギガスラインを越えるか。それが1つ目の問題でした。

 一般市民がギガスラインの向こう側に行く理由がないのです。普通に通ろうとすれば怪しまれることになるでしょう。


 そこで冒険者に扮装できるたくましい者をのぞき、荷馬車の中に息を潜めてもらうことに決めました。

 もしバレたら言い訳ができません。手を打ちたいところです。


 また仮にギガスラインを無事抜けても、その先がやはり大変です。

 一般人の護衛をしながら進むことになるわけです。


 魔界の森はアクシデントが多いですし、実際のところどんな脅威が現れるかもわかりませんでした。


「まあこれ以上考えたってしょうがないさ。うちの連中がどれだけ説得してくるかもわからないんだからね」

「そうですね……おとなしく集結を待ちますか。あなたの蔵書でも漁りながら」


「ど、どうだったんだい、この前の本は……?」

「良かったです。こんな世の中ですからね、物語の中だけでも、救われるラブロマンスがあったっていい。わたしはそう思いますよ」


「そうかい……。あ、このことはバーニィのバカには絶対に秘密だよ!! 漏らしたらアンタでも刺し殺すよあたいは!!」

「そう何度も何度も言わなくともわかっておりますよ」


 騎士バーニィ・ゴライアスと自分自身に重ねて、騎士と平民の身分差恋愛本を収集している。事実上、それは自白と同義でした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



その頃、里では――


「うしおねーたん、きょーは、ジアいそがしいからな、パティアがきたぞ」

「そうか。なら早速、手伝ってくれ」


「おう、まかせろー。パティアは、りょうりもできる、おんなをめざす」

「パティアは勉強熱心、だな……」


 その日はパティアが晩ご飯の支度を手伝いました。

 パティアは物を教えていて面白い子です。リックもその例外ではなく、すっかり楽しくなってしまったそうです。

 そこでついつい、歌を歌ったのが全ての発端でした。


「ポテトの皮を~、むきましょう~♪」

「おおっ、まかせてうしおねーたんっ!」


 料理歌です。さすがに皮むきはパティアに任せる気はないようで、そちらは彫金師のアンさんに任せたそうです。


「お鍋でじっくりことこと、ほくほくにゆでたらー、ぐーにぐに~♪」

「おおっおおっ、りょうりのうた! それりょうりのうたか!」


 ゆでたジャガイモをパティアがつぶしました。

 リックの音程のずれた歌は温かく、幸せな気持ちにさせるようです。


「脂と一緒にフライパンで炒めて~、ベーコンたまねぎ加えて、塩コショウ♪ はいできあがり、魔界風ポテト炒め♪」

「ほわぁぁぁーっ! うしおねーたん、しゅごい、それおぼえたら、パティアでもつくれそう……」

「温かい良い歌です。私も覚えようかしら」


「や、止めてくれ二人とも……オレはただ、パティアを喜ばせたくて……」


 リックのかわいい歌声にパティアはご機嫌でした。

 当のリックの方は既に後悔していたようですがね。


 ところがです。そこでこの話は終わりませんでした。

 パティアはその歌がよっぽど気に入ったらしく一度で覚えてしまったのです。


「ポテトのかわをーむきましょうー。おなべでじっくりことと、ほくほくゆでたらー、ぐーにぐに~っ♪」


 その翌日、同年代や年下の子供たちの前で、畑仕事をしながら歌い出しました。


「あぶらといっしょに、フライパンでぼわぁーっ!! ベコーンたまねぎいれてー、しおコショ。はいできあがりー! ネコタンランドポテト~」

「パティアッ、なにそれ、おもしろーい!」


「へへへー、うしおねーたんがなー、うたってたやつなんだぞー!」

「リックお姉ちゃんが? 歌とか歌うんだぁ~」


 その独特のやさしい歌い口が良かったのでしょうか。

 子供が喜びそうなコメディな歌詞でしたし、大好評になりました。


「あっ、そうだー、みんなでうたおう! パティアのあとに、つづけてうたってー」

「楽しそう! わかったよパティア!」


 そうしてその後、里の子供たち、特に女の子の間でリックの歌が流行しました。

 歌の名前は『リックお姉ちゃんのお料理歌』で定着したようです。作詞作曲ホーリックスと言っているようなものですね。


「もう止めてくれパティア……その歌は、気がおかしくなりそうだ……」

「えーー、かわいいのに……。うしおねーたんのうた、パティアも、みんなも、だいすきだぞー」


 リックは恥じらい、困り果てて、後でわたしに愚痴を漏らしました。

 そんなに羞恥心を抱くほどのことではないと思うのですがね。でなければ、歌なんて誰も歌えませんよ。


「ねるまえ、うたってくれても、いいくらいだ……」

「お願いだ、もう勘弁してくれ、パティア……恥ずかしいんだ、とても……」


 料理歌を子守歌代わりにしたら、それこそお腹が空いて眠れなくなるのでは。


 わたしは隠れ里を離れるたびに思います。

 外の世界に出るのは開放的ですが、リックの温かい料理を食べられないのが何よりも困りものだと。


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