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33-2 レゥム再遠征 魔界ネコは子供たちのために親を盗みに行くそうです - 二人の両親 -

「カールとジア、あのかわいらしい2人組だね。あの2人は見てるだけでヒヤヒヤするよ……。あのくらいの年頃の男女はさ、ちょっとしたことで関係が崩れちまうんだよ」

「あなたが言うとなかなか重みがありますね」


 奇しくもそれはカールとジアの両親でした。


「はぁっ、誰が行き遅れのババァだいッ!」

「誰もそんなこと言ってませんよ。ところでリセリの方は、説得は無理だと聞きましたが……」


「そりゃそうさ。いや無理っていうよりさ、蒸発しちまったんだよ、娘を守らなかったのを悔やんでたのかもね。だから母親の方が病死すると、親父の方は町から消えちまったのさ」

「ああ、あなたがリセリにあれほどまでに肩入れするのは、それもあったのですね」


 ですが安心して下さい、今のリセリにはやさしく頼もしいジョグがいます。

 里の仲間たちに囲まれていつだって笑っています。


 自分たちがこの笑顔を作ったのだと、わたしやバーニィは誇らしい気持ちを抱いています。


「さてね、あたいにはわからないよ。それより早速やるべきことをやるよ、あんたは少し休んでな」

「すみませんね、突然の依頼ばかりで。ではお言葉に甘えて少しゆっくりさせていただきましょう」


 男衆を集めて手紙の配達と移民の誘いを指示する。

 そうなるとだいぶゆっくりできそうです。もう日没前ですから、場合によっては出立は朝になるでしょうか。


「ああそうそう、エレクトラム・ベル。アンタに聞きたいことがあったんだけど、聞いてもいいかい?」

「ええどうぞ、あなたとわたしの仲です、ぜひ何なりと」


 タルトが一階へと降りようとしましたが、何かを思い出したらしく急に目の前まで引き返してきました。

 彼女はたくましく腕を組む。しかもさっきまでの親密感はどこへやら、笑いも怒りもしない赤毛の美人の眼差しがわたしを見下ろしています。


「アンタ、恋愛小説とかは読んだりするのかい……?」

「……ええ、まあ読んだことはありますね。これだけ長生きすると一通りの娯楽に精通しておりますが」


「ああそうかい……やっぱりねぇ……。どうりで、おかしいと思ったよ、はっ……」


 わたしの返答は彼女をすこぶる不機嫌にしたようです。

 無表情が殺意にも等しい威圧と変わり、今度の今度こそわたしをおっかなく睨んでおりました。


 どうやらこれは、バレていたらしいですね。

 わたしが彼女の秘密の本棚を漁っていたことが。


「タルト、これから人の運命を左右させるボランティアを始めるのです。よくわかりませんが、今その話は……」

「しらばっくれるんじゃないよっ、今じゃなくていつするんだい!! アンタ見ただろ、この棚の向こう側を! 本の順番が変わってた、アンタが来た日からだよッッ!!」


 このもの凄い剣幕、言い逃れはもはや不可能、下手にごまかしても火に油を注ぐだけのようです。

 それに親を招きたいという事情もありますから、彼女の気分をこれ以上害するのはよろしくありません。


 ええ、元はと言えばプライベートを侵したわたしのせいですかね。

 だけど面白かったのですよ、だったらしょうがないじゃないですか。


「本当にあなたは恐ろしい人ですね……。もう少し老人をいたわって下さっても良いと思うのですが、どうでしょう?」

「読んだんだね……やっぱりそうかい、良い度胸じゃないか……。乙女の秘密を探るなんて、年寄りなら許されるとでも思ったのかい……?」


 タルトの声が震えております。それくらいわたしに知られるのが恥ずかしい趣味だったようです。

 タルト、わたしから見れば、あなたもまだまだかわいらしい乙女ですよ。きっとバーニィからしてもです。


「わかりました白状します、見ました。勝手に読んでおいてなんですが、とても楽しかったです。騎士と平民乙女のラブロマンス、王道は愛されるからこそ王道なのですね。身分差、これほどのスパイスはそうそう世に無いでしょう。いえすみません、どうかお許しを……あなたの大声を聞くと寿命が縮んでしまいそうなのです」


「はっ、そんだけ生きといてよく言うよ……」


 するとタルトがおかしなこと始めました。

 状況と発言と全く矛盾した行いです。急に酒棚をどかして、なんと奥の隠し本棚に手を突っ込んだのです。


 その手のひらが蔵書の1つをつかむと、なんとそれをわたしに差し出したのでした。


「読みな。感想を聞かせてくれたら許すよ。だけど余計な詮索なんてしたら、わかってるだろうね……?」

「フフフ……寛大なご配慮に感謝しますよ。しかしそれでしたら、そちらの2巻を下さい、これはもう読みました」


 古風なお辞儀と共に本を返却すると乱暴にふんだくられます。続いて2巻を渡して下さいました。


「あたいってこの通りだろ……だからこういうの、語り合う相手がいなくてさ。アンタで我慢するから付き合いなよ……」

「いつまで行き来できるかもわかりません。ですので3巻目も下さい、今日中に読んでしまいますので」


「う、うちの連中にはバレないようにしなよ……っ」

「ええもちろん」


 変なところで恥じらうタルトの姿はわたしには若返ったように見えました。

 ならばいっそ、自分の後継者を育てて、わたしたちの里に身を寄せればいいのに。


 そう言えば余計に話がこじれるに決まってますから、今は止めました。

 何十年も続けてきた生き方を、急に変えることなんてできないのです。まあ昼寝好きの年寄りの感想ですがね。


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