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33-2 レゥム再遠征 魔界ネコは子供たちのために親を盗みに行くそうです - 手紙 -

 やるからには迅速にまいりましょう。

 レゥムとの行き来が今だけは安定しているので、皆さんの親をこれから呼びに行くと、昼食後の子供たちを食堂に残してお伝えしました。


「しかし前もって言っておきます。ご両親にも今の生活があります。それを捨ててまでここに来てくれる可能性は、残念ながらかなり低いです。ですから、その……」

「希望を持つな。エレクトラムさんはそう言いたいんだよ、みんな」


 一番言いにくい部分をどう表現したものやら迷いました。

 ところがリセリが代弁して、隣のイスのジョグがその背中をいたわるように抱いて下さいました。


 リセリはあの隔離病棟、安らぎの里の代表です。

 子供たちの大半は思っていたより冷静に彼女の言葉を受け止める。


 そうでした、わたしは勘違いをしていようです。

 一度絶望を味わった子供たちが、この程度でうろたえるはずもなかったのです。


「しかし心変わりさせる方法があります。ご両親への手紙を書いて下さい。その際に親と自分だけしか知らない事実を、手紙に入れて欲しいのです」


 それからわたしは人数分の紙と、ペンを机に1つずつ配布しました。

 子供たちのためにペンを買っておけば良かったと、今さら後悔しましたよ。まあ買い物というのはそういうものです。


「わかったよ、エレクトラムさん」

「ねぇ手伝って、リセリ」

「うん、任せて」


 あそこはリセリとジョグがいれば大丈夫でしょう。

 何となくカールとジアのいる机が気になり、わたしはそこを受け持つことにしました。


「手伝いますか?」

「いいよ。つーかそんなに気を使うなってっ、俺たち全然平気だし、なあジアっ!」

「へー、でもカールさっき鼻すすってなかったー?」


「ば、バラすんじゃねーよっ! 男がこんなことで泣くわけねーだろっ!」


 親。それは最も身近で、かつデリケートな問題です。

 人間の世界での生活を捨ててまで、子と共に生活したいと望む両親がどれほどいることやら……。


 彼らを親に会わせてやりたい反面、これは残酷な行いでした。

 親に捨てられたと気づいている彼らに、事実を突きつけることにもなるのです……。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 まあ昨日はそんなことがありました。

 では現在のわたしはともうしますと、実は既にギガスライン要塞を越えております。


 ちなみに警備状況ですが、秘密の不戦協定もあって要塞の兵員が目に見えて減少していました。

 おめでとうございます、ここ300年間での最低レベル更新ですよ。


 続いてわたしはいつものようにフードローブで身を隠し、夕刻のレゥムに潜入しました。

 目的地はもちろん旧市街。骨董屋タルトの正面口を開き、その2階にいたタルトに子供たちが書いた手紙をまず見せたのです。


「まずはこれを」

「はぁ……しょうがないのはわかっちゃいるけどさ、アンタはいつだって突然だね」


 タルトは人数分の手紙に目を落とすと、その中から無作為にカールの手紙を選んで開きました。

 だてに歳を食ってはいません。もう一度一緒に住みたいというカールの切なる願いにも、あまり驚いた様子はありませんでした。


「その文面の通りです。子供たちのご両親に会ってわたしたちの里に誘います。ですがわたしだけではさすがに手が回りません。ですから報酬を支払いますので――」

「バカ言いなよッ! みんなリセリと同じ病気を患ってる子たちだよッ、金なんて取れるかい!」


「そうはいきませんよ、あなたの部下にはちゃんと報酬を支払いませんと。いくら信用できる仲間だからって、公私混同が度を過ぎると要らぬ反発を招きますよ」


 ヘンリー男爵が運んできた公益品の中で、特に金銭価値の高いスパイダー・シルク、その特一級品の生地をリュックから酒の染み着いた机に乗せました。


 倒した魔族から血塗れの残骸を奪うことはできても、これだけの面積と品質はまず手に入らない。

 それゆえこちらでは大きな価値がある。全て男爵の受け売りですがね。


「ネコみたいな姿してるくせにさ、律儀なもんさね……」

「ネコではありません、わたしはネコヒトですよ、お忘れなく」


 それに彼女が手配してくれたバイオリン、あれのおかげでわたしもリードも毎日が充実しております。

 これくらいの謝礼、何のことはありませんでした。


「はいはいわかったよ。ならコレはありがたくいただくよ」

「そうですか、ご理解が早くて助かります。では話を進めましょう。すみませんがわたしはこの身体、レゥム近郊での説得活動に専念したいと思います」


「ああ、そんなの全部わかってるさ。うちの者を手紙と一緒に派遣する、あたいらが前からやってたボランティアと、そうやることは変わらないよ」


 親の住所については子供たちよりタルトの方が詳しいです。

 つまりこの計画は、彼女ら夜逃げ屋無しには成り立ちませんでした。


「そう言って下さって良かったですよ。子供たちに希望を見せた以上、ここで断られたらどうしようかと」

「はっ、あたいらが断るわけないだろ。それじゃあたいとあんたはレゥム近郊のご両親を受け持とうじゃないか」


「……はい? まさかついてくるおつもりですか、わたしとしては単独の方が身軽なのですが」

「間抜けなこと言ってんじゃないよッ! フードの中を見せたがらない怪しいやつの言葉なんて、いったいどこの誰が信じるんだいっ!」


 そこはどうにかするつもりでした。

 しかし言われてみればその通りですね。さらにタルトならば家族の信頼も既に十二分、これ以上の同行者はいません。


「フフ……言い返す言葉が見つかりませんよ。ではお付き合い願いましょう」

「任せなよ。何なら若い頃のバーニィの笑い話でもしてやるよ」


「おや、それはとても楽しみです。では、このレゥム周辺となりますと……ふむ」


 望みのありそうな親、そうでない親で手紙を2つに分けました。

 後者は幸せな楽園に拾われて元気に生きていると、手紙に一文を加えてもらいました。


 かつては読み書きもできない子もいましたが、リードやクークルスの努力もあってそれももう過去の話です。

 まあそういうわけです。望みのある者に絞り、直接わたしとタルトが向かうことになりました。


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