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33-1 思い出の中のバーニィ・ゴライアス

前章のあらすじ


 ネコヒトは物資調達のために冒険者狩りの町カスケード・ヒルに向かった。

 ところが牝馬ピッコロと共にグスタフ男爵に接触すると、ネコヒト12名の移民希望者と膨大な支援物資という思わぬ展開に遭遇する。


 男爵は穏健派のサレと手を結んだ。

 またそのサレとパナギウム王国が秘密裏の不戦協定を結ぶことになったため、レゥムに行くなら今が最後のチャンスになるかもしれないと男爵が情報を提案してくれた。


 物資と移民希望のネコヒトたちを連れて、エレクトラムは隠れ里に帰還した。

 そこで晩餐の準備が始まるまで入浴をすることになる。ところがそこにパティアが男湯に入り込んで、男爵とネコヒトたちをメロメロにした。


 歓迎の晩餐会が盛り上がった。

 しかしパティアがバーニィのやり方を模倣して、とつじょ多数決決議を始める。

 議題はネコタンランドへの里の名称の変更。議決により隠れ里ニャニッシュは、その日よりネコタンランドに名前を変えた。


 シベットはパティアが大好き。パティアはキス魔。シベットは初めての体験に硬直した。


――――――――――――――――――――――――

 レゥム再遠征

  魔界ネコは子供たちのために親を盗みに行くそうです

――――――――――――――――――――――――


33-1 思い出の中のバーニィ・ゴライアス


・赤毛のタルト 15歳


 レゥム旧市街にバーニィ兄ぃが帰ってきた。

 偉い騎士様の養子になって、レゥムを出てっちまったバーニィ兄ぃがあたいの前に帰ってきた。あたいのことを忘れてなかった。


 旧市街のバザーで今晩の食材を見つくろっていたら、あたいとバーニィは鉢合わせになって、どっちも驚いて固まってた。


「バーニィ兄ぃっ!」

「う、嘘だろ……あんなちっこかったガキがよ、こんな……こんな美人になってるたぁな……。タルト、タルトだよな、本当にお前さんなのか?」


「うん……あたいだよ、バーニィ兄ぃ……」

「うひゃ~……おったまげたわ。こんなに驚いたのはよ、宿舎のベットにバカでけぇウシガエル仕込まれとき以来だわ、はははっ元気だったかよタルトーっ!」


 久しぶりに会ったバーニィ兄ぃは昔より格好良くなってた。

 ちょっと不良っぽくてやんちゃで、6つ下のあたいの面倒を見てくれていたお兄ちゃんが、少し渋くて大人っぽい騎士の姿で戻ってきた……。


「そういやお前さん、酒とか飲めるっけ?」

「え……あ、の、飲めるけど。だってあたい、もう大人だから……」


「んん~~? お前さんって、そうだっけか……?」

「そうだよ!」


 あたいは嘘を吐いた。あたいはまだ15の子供だった。


「まあ細けぇこたぁいいか。しばらく任務でレゥムに滞在することになっててな、ぶっちゃけ遊び相手が欲しい。今度飲みに行こうぜ」

「いいよっ、バーニィ兄ぃと一緒に行く!」


 だけど憧れのお兄さんの気を引きたくて、それに帰ってきてくれたのがただ嬉しくて、その素敵な騎士様に嘘を吐いていた。


「いや、その呼び方をまずどうにかしようぜ……。そうだな、バーニィでいい、お前ももう大人なんだろ」

「うん……あたい大人だよ、また会えて嬉しい、バーニィ!」


 昔は小さかったから、憧れてもバーニィはあたいを眼中にも入れてくれなかった。

 だけど今は違う。バーニィがあたいを女の子として見てくれている。それが嬉しかった。


「ここは良いな……昔を思い出すわ。金は無かったけどよ、とにかく自由だった。もう今さら、大工になんて戻れねぇけどな……」

「あ……あたいがいるよ、あたいは変わってないよ。バーニィ!」


 それにどこか辛そうだった。だってバーニィのお父さんもお母さんももう亡くなっている。

 跡を継いだバーニィのお兄さんは両親が死ぬとレゥムを出て、もうどこに行ったのかもわからない。


 あたいがバーニィ兄ぃを慰めてあげなきゃ。

 そうしたらもしかしたらあたいも、旧市街と、父の家業と離れることができるかもしれない……。相手が騎士様なら父も納得してくれる。きっと。


「いや変わったさ。まさかこんなに美人になるたぁな、さすがにこの出会いは予想してない。もし同僚にお前さん見せたら、色目使われそうで今から冷や冷やするぜ」

「あたいって、そんなに美人なの……? バーニィから見て、そんなに?」


 何だか女性を口説き慣れてる感じがした。

 けど悪い気がしなかった。バーニィに気に入られるくらい、あたいは綺麗だったんだって嬉しかったから……。


「当たり前だろ! こんな美人とお知り合いだったなんて、俺ぁ鼻が高いぜ!」

「じゃあ……今から行く! バーニィとお酒が飲みたい!」


「お、おう、今からときたか……」

「ダメ……? 今は忙しい……?」


 生まれて初めて男の人に媚びてみた。

 バーニィの手を引いてあたいは笑う。生まれの素が出ないように、できるだけ女の子っぽく。


「任務……まあしょうがねぇ、バックレちまうかっ! お義父さんに死ぬほど怒られちまうけどなっ、そりゃ良い考えだ、よし行くぞタルト!」

「え、そんなのダメだよバーニィ兄ぃ、お仕事はちゃんとしようよ!」


「嫌だね! さあ行くぞタルト! お義父さんなんて怖くないぞ俺はーッッ!!」

「わっ、行くってどこに!? ねぇバーニィっ本当に仕事とか平気なのっ!?」


「平気じゃねーけど今はそういう気分なんだよ! お前にまた会えて良かったよタルト、旧市街に帰ってみて正解だった!」



 ●◎(ΦωΦ)◎●



・赤毛のタルト 36歳


 もし、バーニィとあたいがあの日出会わなかったら……。

 あのバカは金なんて盗んで逃げなかったかもしれない。


 平民出身でも気にしない寛容な家の、ちゃんとした慎ましいご令嬢を見つけて、準騎士ゴライアスの家を正しい形で継いだのかもしれない。

 あたいがバーニィの運命を狂わせたんじゃないかって、時々どうしても思う……。


 あの後、レゥムでの任務が終わるとバーニィはあたいの前から去った。

 ときどき手紙を寄越したり、ギガスライン近郊の仕事のときだけ姿を現すようになったけど……。


 それでも次第に関係が薄れていって、それからあたいの父が死んで、あたいが旧市街のお役目を継ぐと、ますます会いにくくなっていった。

 お互い心の底でわかってたのさ。ヤクザの娘と、騎士の養子じゃ住む世界が違う。


 あたいの生まれはバーニィの妻に相応しくない。

 バーニィは騎士の地位をもう捨てられない。お互いに他の生き方を知らない。疎遠になるのも当然、もうしょうがなかったのさ……。


 それっきりあたいらは手紙のやり取りすらしなくなった。

 だけどもう一度、レゥムの町でバーニィとあたいが再会することになった。


 偶然じゃない、どっちも仕事さ……。

 危険なお尋ね者がレゥム旧市街に潜んでるそうで、バーニィがあたいとのコネを利用したのさ。


 だけどその頃にはもう遅い。

 お互い老けちまってさ、あたいもこの通りすっかりひねくれて、かわいくもなんともなくなってたさ……。


 まだ15だったあの時、あたいは言って欲しかった。

 ヤクザの父親なんて捨てて、俺と一緒に来いって……言って欲しかったよ、バーニィ。


 けどそんなことはアンタの義父ゴライアスが絶対に許さない。平民の養子が、平民の娘と結ばれることは絶対に無い。

 当時のあたいはそんなことすら想像できない、ただの小娘だったのさ……。


 だからバーニィ、せいぜいあのネコヒトとパティアに感謝しなよ。

 あの2人のおかげで、アンタはようやく自由になれたのさ。アンタとリセリがあの里で幸せに笑ってくれるなら、あたいはもうそれだけでいい。


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