32-5 第二次ネコタンランド騒動 - キス魔 -
「偉大なる竜殺しの刃グラングラムが、ネコタンランドか……はははっ、今夜は特に楽しかったぞ新しき王よ」
風呂に浸かれば一通りのことを忘れることができる。
だというのにそこへ黒猫の亡霊ザガが呼んでもいないのに現れていました。
彼は先ほどまでの顛末がずいぶんお気に召したようですね……。
「それ以上たちの悪い冗談を言うと、例え亡霊であっても斬りますよ……」
「まあ称号などどうでもいいものだ。ベレトートルート・ハートホル・ペルバストよ、そなたは長く生きた者の義務を果たせ、彼らをこれからも見守ってやれ」
「やれやれです、見ているだけの亡霊が簡単に言ってくれますよ」
「ああ、見ているだけというのはな、なかなか歯がゆいものだ……だから頼む」
王であるはずのザガが、湯船でだらしなくくつろぐ白いネコヒトに、片膝を突いて頭を下げました。
よっぽどこの地が再び栄えるのが嬉しいのでしょうかね。わからないでもありません。ザガは取り戻したいのでしょう、過去の栄光というものを。
「偉そうなこと言われなくともわかっていますよ。亡霊は亡霊らしく、いちいち口をはさまずにそこで傍観していて下さい」
「期待している。ネコタンランドの守り神よ」
「それはあなたのことでしょう……。はぁ、どうしてこうなってしまったのでしょうね……」
「それはそなたら親子が愛されているということだ。誇りに思え」
こうしてこの日を境に、隠れ里ニャニッシュという名称は薄れ、ネコタンランドとかいうかわいらしいが落ち着かぬ名前に移り変わってゆくのでした……。
もしもこの名前がミゴーの耳に入ったら、きっと吹き出すでしょうね……。
●◎(ΦωΦ)◎●
・マタタビ酒を一滴も分けてもらえなかったウサギさん
これはネコヒトが風呂に逃げ込んだ後のことだ。
その後の騒ぎったらなもうなかったよ。俺まで一緒にネコタンランドの誕生を祝ってよ、次々と新しい酒が開けられた。
そんときちょっとした事件が起きた。
今日移民してきたネコヒトたちの差し入れによ、甘いマタタビ酒があったんだよ。
そいつをよ、あのかわいいグレイブルーの子猫ちゃん、シベットがうっかり飲んじまってたんだな。
まったく誰だよ病人に酒飲ませたやつはよ。
おかげクレイの野郎がちょいと不機嫌になっちまったのは、まあ余談だわな。
「ミャーン……」
俺は見た。小柄なシベットがパティ公の前にフラフラ危なっかしく歩いてくのをな。
もしかして急に体調が悪化したのかと心配になったんだがな、どうもこれがそうじゃねぇ。
「パティア……えへ……」
なんかおかしかったよ。マタタビ酒を飲んだと後で聞いたときは納得だったが、普段見せない顔をシベットはパティ公に見せたんだよ。
「おー、べっとーん♪ どうしたのー? パティアといっしょに、あそぶかー?」
夜中にガキがはしゃぐな、面倒見るおっさんの身にもなれ。
「パティア……好き……♪」
「すき!? ほんとうー!? やったぁーっ、パティアも、べっとんだいすきだぞー、べっとぉ~んっ♪」
シベットは行儀が良いからな、普段はべたべたしたりしねぇ。
そのシベットがパティ公に抱きついてよ、子猫みてぇに全身を擦り付けだした。そりゃかわいかったよ。好き好きオーラってのを放ってた。
「嬉しい……パティア、好き! 好き好き好き大好きーっ♪」
「お、おぉぉー……? どうしたべっとん、なんかいつもとちがう……」
ペロペロとパティ公の顔を舐めてたな。もう完全にネコだったよ。
「にゃんか、シベットの様子がおかしいにゃ……?」
「本当ミャ。あ、まさか! 誰かシベットにマタタビ酒飲ませたんじゃないかミャ!?」
シベットのことには従姉妹のダマスカスが一番詳しいそうだ。
すぐに答えにたどり着いていたよ。
「ねぇねぇ、どうしたのー、べっとん……?」
「みゃぁ……♪ パティア、パティア……ゴロゴロ……好き……」
「で、でへへ、でへへへへ……べっとんが、パティアに、ごろごろしてる……へ、えへへへへ……♪ べっとぉぉーん♪」
「パティア♪ お友だち、ずっとお友だち、好き、パティア好き、大好き、ずっと一緒……。パティアのおかげで、毎日楽しい、お魚いっぱい、幸せ!」
それ見て俺ぁ思ったね……。もはや完全にネコタンランドだろここ……。
ネコヒトには悪いがよ、もうこの流れは受け入れるしかねぇぞ。
俺もちょっと前までは想像もしてなかったがよ、パティ公はもうこの里の中心だ。
きっと生まれ持った何かがあるんだろうな。
俺だってパティ公の幸せのためなら命なんて惜しくねぇってよ、感じるようになっちまってる。将来末恐ろしいよ。
そんなわけだ、その日シベットはパティ公と一緒に寝たそうだ。
●◎(ΦωΦ)◎●
で、これはその翌朝だ。早めの飯を食ってたら、食堂に真っ赤になって縮こまったシベットが入ってきたよ。
そんで朝食のパンをリスみたいにモゾモゾかじりながら、シラフに戻った子猫ちゃんはつぶやいたよ。
「もうマタタビ酒は飲まない……絶対、飲まない……ぅ、ぁぅぅ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
かわいい子猫ちゃんよ、酒飲みはみんなそう言うんだぜ。
俺は子猫ちゃんがまた懲りずにマタタビ酒を飲んで、またかわいらしく乱れる日が来るのを楽しみに今日からを生きることにした。
「べっとーんっ、おはよーっ!」 ぶちゅーっ♪」
「えっパティアっ、ミャァッッ?!」
で、まあ……寝坊が日常のお前さんは知るよしもねぇことだが、いきなり現れたパティ公がシベットに不意打ちのちゅーしてたよ。
その、アレだ、具体的な説明はあえて割愛させてもらうぜ。
パティ公からすりゃよ、シベットも一匹のかわいい子猫ちゃんだったわけだ。
シベットは両頬を抱えてよ、食事も忘れてそのままいつまでも固まってたよ。
その後、俺はガキども誘って森に伐採に行こうとしたんだが、ふと様子を見たらまだ子猫ちゃんは固まってた。
モソモソといつまで経っても減らないパンをかじりながらよ。
「パティア……。パティア……パティア……」
とんでもないたらしの名前を何度もつぶやいてた。
アンタの娘のことだぜ、ネコヒトよ。アンタの娘はとんだキス魔だ。
ごめんなさい! またいつものやらかしました、並行連載の方に投稿していました……。
報告を受けて、今更新しました。ごめんなさい!




