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32-4 ニャンコとワンコが出発します

・(ΦωΦ)


「石鹸2袋と海綿、それに軽石を手配して下さい。海綿がダメならヘチマでもかまいませんよ」

「石鹸に海面、どういう意味だ? おい猫野郎、まさか地面から温泉が沸いてきただなんて言うなよ……?」


 わたしの要求に男爵は面食らいました。

 確かに石鹸もパティアが喜ぶ物かもしれませんが、大浴場という情報が抜けていたために上手く繋がらなかったようです。


「まあそんなところです。温泉ではありませんが、見事なものですよあれは」

「おいテメェ、さすがにそれは嘘だろ……?」


 さすがに信じるわけがありません。

 メギドフレイムを使って風呂を沸かす、という発想もありました。が、何せ取り扱いが危険な炎なので、そこまではわたしたちもしてきませんでした。


「お風呂!?」

「お風呂あるのか最長老っ!?」

「お願い、そこ詳しく教えて欲しい!」


 ところが男爵に言ったつもりが、ネコヒトたちが仕事を投げ出して集まってきました。

 クレイがそうであるように、わたしたちは猫と違って風呂が好きなのです。


「実は城の地下に大浴場を発見しまして。そこには不思議な力で24時間ずっと、熱い湯船がはられているのですよ」

「本当かっ! 聞いたかお前たちっ、何がなんでもここはがんばろう!」

「ミャーーッ!!」


 素直なネコヒトに反して、男爵は元からシワクチャな顔をボロ雑巾みたいにされていました。

 そんな都合の良いことが実際に起こるものなのかと、たちの悪いわたしの冗談ではないかと怖い顔で怪しんでいます。


「疑うよりも見た方が早いですよ。とにかくお風呂道具の手配を」

「おい、なら1つだけ聞く。パティアさんの裸を、のぞき見するようなバカ野郎は、テメェの里にいねぇだろうな……?」


 パティアと出会って以来、わたしの知る男爵像がどんどん崩れていって困ります。

 それほどまでにあの子はあなたの心を狂わせますか。


「はい、パティアが男湯に押し掛けるたびに、カールが鼻血を出す程度ですね。……おや、ところでアレは?」

「そうか……。ああ、パティアさんと一緒に、風呂に入りてぇ……」


「ちょっと男爵、あなたの指示を皆さんが待っているようですが?」

「うるせぇな、人が幸せな妄想に浸ってるところにテメェらは! おらっ、そいつは大工道具一式だ。子供やネコヒトどもでも使えるよう小さく作ってある、さあ運べ!」


 見ればその道具、どれもなかなか見事な仕上がりでした。

 その中には手斧もありました。その刃にはピカピカとした銀の光沢があって、キレ味も強度もかなりの期待ができそうです。


「てめぇのそのレイピアと同じ鍛冶師が仕上げたやつだ」

「彼とお知り合いだったのですか」


「ああ、武器防具以外はあまり作りたがらないやつだが、てめぇらは特別だってよ」


 ありがたいことです。機会を見つけて直接お礼に行きたいくらいでした。


「最後はコイツだ。石工のダンだったか、アイツから頼まれてたやつでな。まあ渡せばわかる」

「はて何でしょう」


 まだ大工道具の積載に時間がかかっているため、ネコヒトが近づいて大きな布袋の封を勝手に開けました。

 男爵の喉がグルルと怒りを呈しましたがね、わたしの知ったことではありません。


「なんだ、月光石でしたか」


 これは昼の光を蓄えて夜に明るく光る不思議な石です。

 なるほどこれは便利、無口ですがあなたも考えていますね、ダン。


「ケッ、ソイツを城から住宅までの道に飾るそうだ。パティアさんが道を間違えたら大変だ。ダンって野郎は気配りのできる良いヤツだな、性悪なテメェと違ってな!」

「フフ……そこは否定できませんね」


 その月光石も今ネコヒトたちに抱えられて、馬車に運ばれて行きました。

 おそらくこれで全部でしょうか。その証拠に男爵が外に向かって指示を始めました。


 後はこちらがオーダーした石鹸とスポンジになる物、軽石を積めば出発できます。

 ところがその男爵が何か思い出したのか戻ってきたようです。


「何か忘れ物ですか?」

「ああ、最後にギガスラインの話をテメェにしておく……」


「きな臭い話ですか。それよりあちらに着いたら一緒に一風呂どうでしょう?」

「けっ、一応考えといてやるよ! だがそれより聞け!」


 こうして情報をわたしに流してくれるのは、わたしを心配してのことでしょう。

 なんて伝えてはへそを曲げるでしょうがね。


「殺戮派がベルン王国側――つまり北部ギガスラインを完全に陥落させた。当然、人間の連合軍が北に援軍を出したらしいが、間に合わなかったみてぇだ……」


 魔王様、いえ邪神が焼き払ったのも北部ギガスラインでした。

 それが現在ではパナギウム王国と穏健派は陰で繋がり栄えて、ベルン王国と殺戮派は殺し合う。不公平なものです。


「では大戦争の幕開けですね。300年前のあの頃ほどは、派手にはならないでしょうが」

「ケッ、やっぱりテメェは他人事かよ……」


 邪神がいないだけマシというものです。

 メギドフレイムに国土を焼き払われる以上の惨禍など、この先もそうあるものではないでしょう。


「ええ、わたしたちは隠者ですので。俗世の争乱に関わらずに済む立場にある以上、好き好んで巻き込まれに行く理由がありませんね」

「テメェのそういうところが俺は嫌いなんだよ……。だが、パティアさんのことを考えれば、わからねぇでもねぇ」


「そうですよ。そしていばりん坊のあなたまで魅了する、パティアという存在をサレに見せるわけにはいきません。おわかりでしょうか? パティアは、人間であることをのぞけば、魔王イェレミア様の代わりにピッタリなのですよ……」


「あいにく俺は魔王に会ったことはない。だが、パティアさんの幸せは最優先だ……わかった、サレには言わん」


 おかしなもので、わたしと男爵はパティアのことになると穏やかに話せました。

 パティアというきっかけが、わたしたちの仲を改善させた。以前のわたしたちからすれば信じがたいことです。


「しかし大戦争か、確かにそうだ。だが反面、南のパナギウム側の情勢は落ち着いたようだ。噂じゃ穏健派とサラサール王が秘密裏に不可侵条約を結んだ、とも聞くぜ」

「フフフ……サレもサラサールもくせ者です、どこまで本気なのやら。……ですが、そうですか、情勢が落ち着きましたか」


 世界が戦乱に飲み込まれてゆく中、隠れ里ニャニッシュは秩序を保ち続ける。

 男爵はそのことそのものに意味や価値を抱いています。でなければここまで支援してくれないでしょう。


「そうだ、多くの人間を連れて行き来するなら、今が最後のチャンスかもしれねぇ。俺はそう言ってんだよ猫野郎……」

「あなたのお節介さには涙が出ますよ、男爵」


 この情報は実際極めて重要でした。

 それにより、今日まで抱えてきた1つの案が頭に思い浮かびます。


 蒼化病の子供たちに会って、親が望むなら連れてくるという約束。あの約束を果たすならば今しかありません。

 確かにこれを逃すと、次の機会が来るかどうかすらもわかりませんでした。


 子供との離別で人生が崩壊してしまった親もいるでしょう。

 わたしだってパティアをもし失えば、生きる希望を失ってしまいます。ならばやるしかありません。


 移民を望む親を探し、今のうちに隠れ里ニャニッシュに導きましょう。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「猫野郎、風呂道具一式が届いたぞ!」

「さすがに早いですね」


 帰り道はわたしが斥候を受け持つことになります。

 ピッコロとわたしが急ぎ腹を満たしていると、外では出発の準備が済んでしまっていました。


「別の倉庫をひっかき回して取ってきただけだ。さあ出発だテメェら、ネコヒト1ダースと1匹の配送に行くぞッ!」


 大型馬車が6台も止まっています。

 男爵も何とも大胆なことをするものでした。


「猫臭くてたまらねぇが……スーハァスーハァ……里まで付き合ってやるよ! パティアさんのお美しさを見て、腰なんて抜かすんじゃねぇぞテメェらッ!!」

「ミャーッッ!!」

「ネコヒトの英雄、ベレトートルートの娘にして人間! 絶世の美女っ、楽しみですー!」


「フフフ……ずいぶんと大げさに伝えてくれたものですね、男爵。さすがに盛りすぎでは?」

「何言ってやがる、ただの事実だろが!」


 男爵はわたしをかわいそうなものを見るかのような目で哀れみました。

 事実というのは、見る者によって変わるようですね。


「本気で言ってるんですね、あなた……」

「ケッ、パティアさんの美しさがわからねぇとは不幸なやつだ、哀れみすら覚えるぜ……心からな!」


 パティアが女性として美しいかどうかはさておき、今がレゥムとの行き来の数少ない好機となればもう仕方ありません。

 これもあの蒼化病の子供たちのため。彼らの家族に対面して、移民話を持ちかけることにしましょう。


 わたしがそう覚悟を付けると、にゃぁにゃぁと騒がしい一行が隠れ里に向かって出立したようでした。

 すみませんがバーニィ、これから里が、ネコヒトだらけになるようです……。


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