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32-3 ニャンコ配達します グスタフ商会

 グタグダから仕切り直して、わたしたちはやるべき仕事に向き合いました。

 まず男爵がわたしに向けて納品書を読み上げて、それから労働者が該当する物資を馬車へと運ぶ段取りです。


「まず小麦が48袋、未製粉だ」

「え……?」


 その一件目からわたしは我が耳を疑うことになりましたよ。


「よしテメェらっ詰め込め! ネコどもはこれが仕事納めだ、気合い入れやがれよッ!」

「ニャーッ!!」


 労働者はネコヒトの移民希望者たちと、グスタフ商会のイヌヒトたちです。

 男爵のワンマン気質に慣れきった様子で、彼らはすぐさま倉庫から外の馬車へと小麦袋を運び出しました。


 袋はネコヒトが1匹入れそうなくらいに大きなものででしたから、2、3人がかりです。


「ちょ、ちょっと、アレを48ってどういうことですかっ!?」

「へっ……テメェの驚く顔を見れるたぁ気分がいいぜ。何か問題でもあるかよ、おい?」


 フードをかぶってチラリと倉庫の外を見れば、運搬用の大型馬車が確認できる限りでも5台も並んでおります。

 あまりの規模に目と男爵の正気を疑う他にありません。


「よし、その次は大豆が12袋と種の詰め合わせだ! おらネコヒトなんかに負けんじゃねぇぞ同胞ども!」

「ちょっと男爵! 外のアレはどういうことですか!?」


 わたしの予定と食い違います。

 里の外では動乱が始まり、派手に動けなくなっているはずでした。


「お豆お豆~♪」

「最長老の前だ、イヌヒトさんたちには負けないぞー!」


 一方のわたしの同胞たちは陽気でした。大豆袋を抱えて倉庫と馬車を往復しています。

 大型の馬車5台以上、ネコヒトの移民希望者だけでも12名。もはやハイドで隠し通せる大きさではありませんでした……。


「空中庭園、俺は良いと思うぜ……。花に囲まれて笑うパティアさんの姿が、俺には見える……ああ、パティアさん、パティアさぁん……早くお会いしてぇよぉ……」

「男爵……。あなたわたしの話を聞いていますか?」


 わたしにだって見えますよ。

 あの子は花畑が大好きですから、庭園で幸せな笑顔を浮かべて踊り回るに決まってます。


「うるせぇ! 引きこもってるテメェと違って、俺はちゃんと話を付けてあんだよ!」

「話ですって? わたしに勝手にどこの誰とですか……」 


 しかしわたしたち以外の第三者と勝手に協力、その点はいただけません。

 わたしたちはできる限り、里とその地に住む者の情報を隠したいのです。


「サレのやつだ。魔軍穏健派のサレ、魔界最大の穀物地帯を持つあのサレだ」

「フフ、誰かと思えば――わたしをハメた魔将の1人のサレですね。まさかあの年寄りに、ほだされたんじゃないでしょうね……」


 あまりサレを里に近付けたくありません。こうやって繋がりを持ってしまえば、理由を付けて隠れ里にやってくる可能性がある。

 その際にもしサレがパティアを見てしまったら、彼はどう思うでしょう。


 人間と魔族の双方を言葉通り魅了する特別な子供。

 将来美しく成長すれば、傾国の美姫にすら……いえ、ちょっと無理がありましたね、それはまずないかと思われます。


 とにかくもしわたしと同じように、サレがパティアの資質を魔王様と重ねて見てしまったら、どうなるか想像すらしたくありません。


 穏健派の魔将サレはイェレミア様が消えてより、ずっとずっと魔王の器となるべき者を探していたのですから。

 その300年がけの執念は、必ずやたちの悪い怨念に変わるでしょう。


「次は調理道具一式と食器だ。人が一気に増えるからな、必要だろ」

「ええまあ、そうなのですが……ええ、ありがたいですよ、リックどころか里の皆が喜びます」


 目に付いたのは大鍋と蒸し器でした。

 あの蒸し器があればふかし芋が作れます。野菜が今よりずっと食べやすくなるでしょう。


「次、彫金道具。おい、研磨剤も忘れずに詰んどけよテメェら!」

「男爵、あなた本当に気が利きますね。顔に似合わず」


「けっ、鏡見て言いやがれ!」


 わたしと男爵に見守られて、イヌヒトとネコヒトが競うように仕事を進めていきます。

 彫金道具は特殊工具にあたります。ちょっとした物でも1つ1つが高価なはずでした。


「しかし彫金師のアンだったか、あのプリズンベリルの指輪はなかなかの上物だ。だからこれはただの先行投資だ、勘違いすんじゃねぇぞ!」

「そうですか。ではアンさんにはそっくりそのまま、お伝えしておきますよ」


 今思うとあの2人、良いタイミングでベルンから逃げてきたものです。

 夫のパウルはギガスライン勤めになるはずだったそうですし、駆け落ちしなければほぼ確実に死んでいました。


「次、スパイダーシルクとコットンだ。パティアさんはコットンのふかふかがお好きだからな……」

「否定はしません。ああそうでした、あなたに頼みたいものがあるのですが」


 そのためにわたしとピッコロはとある代価を運んできました。

 大きなリュックからある袋を取り出して、床に置いて中を男爵に見せました。


 リックと共に迷宮から手に入れたあの大粒の魔石です。

 細かく言えば、運びやすいようにそれを半分に割った物でした。


「でかいな……おい、まさかこれも迷宮から手に入れたのか?」

「ええ、他にも魔界の森から回収した物を里に保管してあります。帰りに持って行って下さい」


 これを好んで食べる魔族がいます。

 例えばミゴーらデーモン系の種族の胃袋では、これが消化できるようになっているのです。


「テメェんところの迷宮は太っ腹だな……。で、頼みってのは、パティアさんがお喜びになることなんだろうなテメェ?!」

「断言しましょう、あなたに満面の笑顔を浮かべて感謝しますよ」


「よし乗ったッさあ言えッ! 早くパティアさんを喜ばせる方法を教えやがれ猫野郎!」

「石鹸2袋と海綿、それに軽石を手配して下さい。海綿がダメならヘチマでもかまいませんよ」


 男爵は古城地下に大浴場が生えてきたことを知りません。

 それが本当にパティアを喜ばせることができるのかと、半分いぶかしんでおりました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 その頃、里では――


・たまたま通りがかったウサギさん


 今日はちょっと面白れぇもんが見れたからよ、後でネコヒトの野郎に報告しようと思う。

 といってもよ、里の運営に関わる話ってわけでもねぇ。いや将来的にはどうかわからねぇけどな、へへへ……。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 予定外の移民が12名もきた。そのおかげで計画が狂ってたよ。

 移民者の中には、木工仕事もお手の物の相棒になれるネコヒトも混じってたんだが、こうなると材料の材木の方が足りん……。


 しょうがねぇから俺とジョグ、それにリック、あとベルン王国から来たパウルに頼んでこの前からコツコツと伐採を進めていたよ。

 で、俺はパウルと伐採仕事を交代するために、あいつら夫妻の家に行ったんだよ。


 そんときに見たんだ。かわいい嫁さんのアンと、パウルのやつが家の軒先で唇と唇をネットリ重ねるているところをな。

 悪いおっさんはよ、ちょいとからかってやろうと思った。だが気が変わった、何と付近の畑に先客がいたんだよ。


「ほわー……」

「き、キスしてるよ……っ?!」

「そりゃ、そりゃするだろ、大人なんだからよ……っ」


 ジアとカール、あとお邪魔虫のパティ公だ。

 特に面白れぇのはジアとカールだな。2人は顔を赤くしてよ、パウル夫妻の情熱的で長いキスに目を釘付けにしてたよ。


 パティ公の方は説明するまでもねぇ、パティ公は基本的に何でも遊びだと解釈するからな。のほほんって笑ってたぜ。


「行ってくるよアン……また後で」

「パウル、今日は早めに晩餐を切り上げて、家でゆっくりしない……?」


「ああわかった、ならそうしよう」

「ああパウル……早く太陽が落ちればいいのに……」


 で、お熱い2人がようやく愛の巣からそれぞれの持ち場に戻って行った。

 するとお出ましだ、パティアのやつがとんでもねぇ爆弾発言をしてくれた。


「ねぇねぇカール。パティナなー、ちょっとな、かんがえたんだけどなー、あれ、パティアとやってみるかー?」

「へ……?」


「だからー、パティアがなー、カールに、ちゅーしてあげよっかなー?」

「ちゅ、ちゅぅ!? な、何言ってんだよお前ッッ?!」


 パティ公め、ジアの前で何てこと言いやがるんだちくしょうめ、こりゃ面白いことになってきたな! って思ったよぶっちゃけなぁ、ははは!

 ああジアの反応か? 言葉の意味が理解できなかったらしくしばらく固まってたわ。


「えーー? やってみよーよ。パティアなー、ねこたんひとすじだけどなー、カールなら、いいぞー? おともだちだからなー!」

「ま、マジで……?」


 おいおいカール、ジアの前でそのリアクションはアウトだろ……。

 お前どれだけジアに愛されてるのか、自覚がねぇにもほどがあるっての!


 いや鼻の下を延ばす気持ちはわかるけどな、同じ男としてよ。


「ちゅーするごっこだからー、いいんだぞー? それじゃ、いくぞぉーカールぅー、とやぁーっっ!」


 おいおいパティ公、かけ声上げてキスするやつがどこにいるよ……。

 カールのやつもさすがに及び腰になってたわ。


「パティアダメッ! それだけは、それだけは絶対に絶対ダメーーッッ!!」

「おわーっ!?」


 ジアの甲高い声が里に響き渡ってたよ。

 これってアレだよな。はたから見りゃよ、私はカールが大好きです、って言ってるようなもんだよな……。


「ほわぁぁ……びっくりしたー……えー、なんでー? なんでだめなのジアー?」

「み、耳いてぇ……。いきなり大声だすなよなジア!」


 カール、半分はお前のせいだっての……。

 ジアちゃんはよ、お前さんとちゅーしたいって言ってるんだよ、男ならわかってやれって。


 ま、無理なのは俺もわかってるけどな。男の子ってのはそういうもんだ。


「わ、私に黙ってパティアとキスなんてしたら、両方殴るからッッ!! わかった2人とも!?」

「お、おぅ……ジア、なんか、ごめんねー……?」

「お前よぉ~、パティアに当たるなよ。パティアはごっこって言ってただろ~?」


 だからその対応は違うんだってのカールよ……。

 ジアの気持ちを考えてみろよ、ジアはお前さんに味方してもらいたいんだよ……。


「全然ごっこじゃないもん! とにかくダメったらダメなのっ! カールは私以外としちゃダメだからッッ!! …………あ」


 パティ公もカールも黙り込んじまったよ。

 ま、パティ公は言葉の意味を理解できてなかっただろうけどな、カールの方はどうかはわからん。


「お、おい……ジアお前、今なんて……?」

「カールは、ジアいがいと、しちゃダメーっていったんだぞー?」

「うっ……ぁ……っ、ぁぅ……わ、私、私もう帰る!! カールのバカァァーッッ!!」


 で、ジアはいたたまれなくなって逃げちまったってわけよ。

 ははは、早くこの話をお前さんにするのが俺ぁ楽しみだよ、ネコヒトよ、早く帰ってこいよ。


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