31-3 バーニィはかく語りき - 数の暴力 -
「な……なん、だと……みんな、何を考えて……卑怯だぞバニーッ!」
「だってー、楽しそうなんですもの~♪」
わたしの予想通り、シベットをのぞくネコヒト族の全て、クークルス、アルス、マドリ、リセリ、意外なところではベルン王国から来たアンとパウルまで手を上げて、蒼化病の年少組もよくわかっていないのか元気良く腕をかかげていました。
見れば明白。バーニィの汚い口車により、混浴派の過半数達成でした。
「り、リセリぃなにおめっ、手ぇさ、上げてるべよぉっ?!」
「だって……分けちゃったら、私、ジョグさんと一緒に入れないもん……」
「おや、奇遇だねマドリくん……フフ、フフフフ……」
「き、奇遇ですね、アハハハ……一理あるかなって、思っただけで、はは……」
どちらも逆の性別の風呂に入るなんて、耐え難いことだったでしょう。
恋は盲目と言ったものです。リセリはジョグとの関係性以外を度外視しておりました。
「ベルンの故郷では自然なことです。パウルもそう言ってます」
「教官っ、なぜ貴方まで手を……!」
「すみませんリック、わたしも人の親らしくてですね、娘のかわいらしさに当てられました。わたしは娘と一緒にお風呂に入りたいのです」
「クッ……それは、そうかもしれないが、だがこの結果は問題が……」
そうでしょうね、問題があります。
思春期の男女もいますから、やはりこのままではまずいでしょう。
「ふぅ……これで解決だなっ、ってことでこの城の風呂は混浴だ! 男女で分けるなんて俺たちは、いや、俺は絶対イヤだ!」
「バニーッ、まだオレは納得していないぞ! もしオレの居る湯に入ってきたら、殴り飛ばしてやるからなッ!」
「そ、そこまで怒らなくてもいいじゃねぇかよリックちゃんっ!? 落ち着けってっ、その拳ぷるぷるさせるの止めろっ、リックちゃんの本気とぶつかったら俺でも死ぬってのっ!」
「大丈夫だ……遅かれ遠かれ、同じ結果になる。それなら、いっそ、今――」
ですがこのままではリックと混浴否定派が納得しないでしょう。
多数決を取ったところで折れるわけにはいかない部分ですので、フォローが必要です。
「待て待て待て待てッ、俺が悪かったっ、悪かったからマジギレは止めようぜリックちゃんっ! 助けてくれよネコヒトよぉーっ!?」
「バニー、拳をぶつけ合わなければ、見えないこともある。いくぞ……」
「こうなったら……くそっ、ネコヒトシールドッ!」
「貴様バニーッ、よりにもよって、オレの教官を盾にするなんて、見損なったぞ! 今夜は覚悟するんだなッ!」
バカ騒ぎを終わりにしましょう。
お調子者のおじさんに盾にされたわたしは、左の手のひらをかかげて態度で意見があると示しました。
「じゃれ合っているところにすみませんが、少しばかしお待ちを。こういうことになってしましたが、常時混浴というのも乱暴な話でしょう」
「ちょ、ちょっと待てっ、ネコヒトよっどういうつもりだよお前さん?! お前さんはこっち側だろ!?」
「あなたはただ女の子と一緒に入りたいだけでしょう……」
「ああっ、それの何が悪い!」
「全部だッ、バニーッ、お前はどうして、どうしてそんなにスケベなんだっ!」
リックの叫びはこの場にいる者の共通意見だったのでしょうね。
冷たいような、なま暖かいような目線がバーニィに集中します。
「ここは時間割制にしましょう。夕方から晩餐の間は男女別です。バーニィがご自慢の大工仕事で、男湯と女湯を分ける、折り畳み式の仕切りを作って下さるそうですよ」
「あ、それなら私もお手伝いします。金具部分は私に任せてくれれば、彫金師の仕事でどうにかしてみせますから」
無難な妥協案の登場にバーニィは焦りました。
せっかくのスケベな計画をいきなりひっくり返されたのです。なんともうしますか、ええ、無様でした。
「ちょ、ちょちょちょっ、ちょっと待てっそれじゃダメだってっ! それじゃ男女で分けるのと、そんなに変わんねーじゃねぇかよぉっ!?」
「諦めろバニー、この案ならオレはかまわない。教官が、パティアと一緒に入りたい、気持ちも、分かるからな……」
そうなのです、バーニィ以外の誰にも損はありませんでした。
スケベだけが得するプランなど廃して、この妥協案に落ち着きたいと皆の顔に書いてありました。
「ボクもそれでかまわないかな……」
「私も、むしろそっちの方が都合が良いというか……い、いえやっぱり何でもありません……」
アルスとマドリとしても、他の者の入浴がより夕方から晩餐に偏るその形の方が素性を隠しやすいです。誰も反対などしませんでした。
「ということで決まりです、諦めて下さいバーニィ」
「やってくれたなネコヒトよ……。まあいい。そっちがそういうつもりなら、こっちだって……まあいいっ、やってやろうじゃねぇか! 折りたためて便利な、仕切りを俺が作ってやるよ!」
どういうつもりでしょうか、妥協と立ち直りが早過ぎます。これはまた悪いことを考えていると見るべきでなのしょうか……。
頼むからバーニィ、あなたもう良い歳なんですから落ち着いて下さいよ……。
「あの、ジョグさん……さっきの話、なのですが……よかったら、今度……」
「お、おぅ……でもぉ、いいのかよぉリセリぃ……?」
「ジョグさんを洗いたいんです、私……貴方の毛並みが好きだから……ッ、ッッ……」
「んじゃあ……お言葉に甘えるべ、ずっと目、つぶっとくよぉおいら……」
「目、開けてても、良いのに……」
それにしてもバーニィのスケベ心が、奇しくもジョグとリセリの背中を後押しするとは面白いです。
律儀に目をつぶり続けるジョグと、それに気をもむリセリの姿が目に浮かぶようです。
「やったー! ねこたーんっ、これからもいっしょだぞー! こんどはパティアがなー、ねこたんをなー、あらったげるからなー!」
「いえあまり頻繁に洗うと、わたしたちネコヒトは毛並みがガサガサに……いえ、聞いていませんねあなた……」
こうして夕方から晩餐までは男女別という将来のルールが決まり、バーニィの野望が潰えるのでした。
何か、よからぬことを考え付いたようにも見えますがね……。




