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31-3 バーニィはかく語りき - 里の未来を左右する大事な話 -

 ところがその日の宴は、けして綺麗とばかり言えない終わり方をしました。

 ええ、順を追って話しましょう。それはリセリの美しい歌とわたしたちの合奏が終わり、人々の興奮が最高潮を迎えた後のことです。


 そろそろ眠気を覚え始めて、己の寝床へと皆が戻ろうと考え始めたであろうその時そのタイミングを狙って、バーニィが騒動の種を持ち出してきたのです。


 今思えば彼は、わたしたちから場の注目がそれるのを密かに待っていたのでしょうか。

 それぞれが席に戻ると、今度はバーニィが弦楽器と竪琴の残された食堂の中央に立ち、いきなり場をしきりだしました。


「聞いてくれみんな、今日は俺からみんなに提案がある! この里の未来を左右する、大事な話だ! 少しだけでいいからよ、ちょいとだけ聞いてくれ!」

「教官、バニーは何のことを言っているんだ……?」

「はて」


 聞いておりません。彼が言うには大事な話だそうですが、事前にわたしへの相談はありませんでした。


 いったい何をやらかすつもりやら、筋肉質の不良中年は自信満々で皆の注目を受け止めています。

 そして彼はほどなくすると、ただ正直にこう言ったのでした。


「実はここ数日、風呂場の男女別化工事が止まっている。原因は簡単だ、俺が納得してねーからだ! だから石工のダンにも作業を止めるよう言っといたぜ!」


 その一言がリックをイスから飛び上がらせました。

 彼女も感情で身体を動かすタイプですから両手で力強く机を叩き、ただちに強く抗議をします。


「ちょっと待てバニー! お前、どういうつもりだッ! オレは、仕切りの完成を、心から楽しみに、していたんだぞッッ!」

「お、落ち着いて、リックさん……子供たち、怖がります……」

「やな予感がしてきたにゃ~。それとシベット、興奮した牛さんには何言ってもムダにゃ、血が上ると止まらない人だにゃ」


 リックの欠点と言えばそこです。

 不器用で辛抱強く心やさしい反面、ひとたびキレると手が付けられないのです。


 特に彼女はパワーにおいては里一番の豪傑ですので、もし怒らせたら誰にも止められません。


「どういうことだよバーニィのおっさんっ! え、まさか、おっさん……」

「バニーとはもう付き合い長いべ……。おいらぁ、もう何となくわかってきちまったべよ……」


 ええカールとジョグの予想通りでしょう。

 男女で風呂を分ける。そのプランにバーニィは反対したいのです、混じりっけ無しの、そのスケベ心(・・・・)のためだけに。まったくこの男は……。


「ごめん……お、おら、バーニィさんに、止められてた。バニーさん、譲らなくて、聞かない……」

「謝らなくても良いですよダン、バーニィの性質については、皆が理解しておりますので」


 バーニィは実質的にこの里の村長のようなものです。

 わたしという寝坊助との合議で、今日まで様々な決断をしてきました。


「おいおい違うって! いいかお前ら、俺は何もスケベ心で言ってるわけじゃねぇ! ただ、俺はこう思うんだよ! 別に、混浴でもいいじゃねぇか……なあお前ら、そうだろ……?」


 時にそれはバーニィの事後報告になることもしばしば、バーニィ・ゴライアスという世慣れたおっさんがいなければ、わたしたちはまとめ役に困ったことでしょう。


「ふざけるなッ、良いわけがあるかッ! バニーッ、お前という男は、どうして、いつもいつもそうなんだッッ!!」

「どーどー。うしおねーたん、おちつけー? ほら、ねこたんみてー、みてると、おちつくぞー」


 リックが怒った恐い顔でわたしを睨みました。

 なぜバニーを止めようとしないんだ教官! とでも言いたそうな恨めしい感情を溢れさせています。


「あ~~、でも~一理あるのではないでしょうか~?」

「クークルスッ、な、何を言っているんだっ!?」


 シスター・クークルスはいつだってマイペースです。

 鬼気はらんだリックに少しも怖じ気ません。のんきにほがらかに微笑んで、言いたいことを述べてくれました。


「だって~、男湯と女湯にわけてしまったら……ネコさんのお背中お流しできませんもの。はい、確かにそうかもしれませんね~、バニーさん♪」

「だからって混浴だなんてッ! 教官ッ、教官も何とか言ってやってくれ!!」


「ちょっと、こんなバカ騒ぎにわたしを巻き込まないで下さいよ……」


 バーニィのスケベ心はさておき、わたしもパティアと一緒にお風呂に入りたい気持ちがないわけじゃありません。


 むしろ女湯でパティアが野放しになるのもなんだか――いえとても、わたしとしては不安を抱えざるを得ない事案でもありました。


「ならいっそ、バーニィお得意の多数決を取ったらどうですか。あなたは最初からそのつもりなのでしょう……」

「バレてたか。まあそういうわけでよ、今から多数決を取ろうじゃねーか!」

「た、多数決だと……!? バニー、お前本気か!?」


 リックは驚きました。多数決を取ればバーニィの意見など通るはずがない、と思ったのでしょう。


「おうっ、俺ぁ本気だぜリックちゃん。さあ! 混浴か、男女分離か、よーーく考えて決めてくれみんな! わざわざ男と女で、分ける必要があるかどうかをよっ!」


「クフフッ……やれやれだ。彼のスケベ心にはボクも負けるよ……」

「ああバーニィ先輩……。昔は、こんな方じゃなかったんです、昔はもっと立派で、格好良くて、やさしくて、それこそ騎士の模範だと俺は、ぅぅ……」


 良いことを言っているようにも見えますが、バーニィの魂胆は見えています。あれはただ目当ての女の子と一緒に風呂に入りたいだけです。

 ですが、彼の提案と利害が一致する者も少なからずいました。


 わたしやパティア、むしろ男女別になるとかえって危ういことになるアルスにマドリ、どうにかジョグの気を引きたいリセリも含むでしょう。


「おっさんの真面目な騎士時代か~、なあジアお前想像つくかー?」

「そんなの無理に決まってんじゃん……きっとキシリールさんの妄想だよ」


「はははっ、だよなぁ~っ!」


 おまけにネコヒトの大半は毛にまみれていることから裸を気にしない者が多いですし、蒼化病の年少組も同様でしょう。


 シスター・クークルスもあの通り大らか、もしこのまま採決を取ればリックの予想に反する結果になることも十分にあり得ました。


「けどサイテー……ちょっとバーニィさん、タルトさんにこのことチクってもいいのっ?!」

「へっタルトぉ!? 何でそこにアイツが……べ、別にかまやしねぇよ! タルトなんて……俺ぁ、こ、ここ、怖くなんかないねっ!」


 だいぶ無理をした反応でした。ですけどそうでしょう、あのタルトの気の強さといったらそうそう世にいるものではありません。

 もしタルトが全く恐くない方がいるとしたら、そいつはきっとミゴーみたいな異常者ですよ。


「うわ、開き直ったよこの大人……サイッテー」

「バーニィのおっさんって、いくらなんでも自分に正直すぎだろ……」


 しかしカールにあきれられ、思春期のジアから冷たい目線を受けてもバーニィは止まりません。

 とにかく彼としては、男女で風呂を分けるなど無粋、言語道断だそうでした。


「さあ採決だっ、お前らもう考えはまとまったなっ!? じゃあ始めるぞ!」

「もう好きにするミャ。シベット、ああいう大人になったらいけないミャ」

「うん……なりたくても、なれない気がする、かな……」

「同感だにゃ……」


 ダマスカスとシベット、クレイも呆れ果てた目線をバーニィに向けています。

 いえ訂正しましょう。場の誰もがバーニィの強引さと、しょうもなさと、年齢に見合わない元気すぎるスケベ心に、心より深く呆れて抗議すら忘れかけました。


 時間を与えて冷静な判断をされる前に議決を急ぐ。そこまでしますか……。

 ちらりとパティアをのぞき見れば、パティアたち年少組はなんだか嬉しそうです。


 バーニィの主張が通れば、わたしや仲間と毎日お風呂に入れますからね。


「決を取る! あれだけ広い湯を半分に分けるとかいえ、景観と解放感を損ねる無粋な行為に賛成の者!!」

「ちょっと待てバニーッ、その言い方は、いくらなんでも、ずるいぞッ!」


「汚いべ……」

「お、おら……おらは関係ないよぉ。バーニィさんが、強引に……おらは反対、反対だったんだよぉ……」


 寝る前にこんなバカ騒ぎ引き起こして、興奮した子供たちが寝れなくなったらどうしてくれるんでしょうね。


「よし、ん~~、13名か。んじゃ逆に聞くぜ、仕切りなんて付けないで、みんなでわいわい楽しく風呂を浴びたいやつは挙手だ!」

「バニーッッ!!」


 汚い手を使った時点で無効票な気がしますが、わたしは挙手をしておきました。

 隣を見ればパティアも一緒に手を上げて、それはもう嬉しそうにこちらへ笑いかけています。


 ええそうですよ、わたしはあなたと一緒にお風呂に入るのが好きです。

 目を離すととんでもないことをしますから、リックには悪いですが仕方ありません。


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