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29-9 やっぱ、ねこたんらんど……?

 わたしとクレイ、それに妹のシベットと従姉妹、ネコヒトの移住希望者合計14名の旅は、魔将サレの手引きで何事もなく進みました。


「流れが変わった、貴様の指名手配を解いておく。アガレスにもそれとなく話を通してみよう」

「それはどうでしょう、あれもバカではありません。私がリードを城よりさらったことを、存じているかと思いますが」


「やはりか、イスパも喜んでいるだろう」

「ただの誘導尋問でしたか……やられましたよ」


「半分は本気だ。彼は実利を重んじる、情勢が変われば、態度をコロコロと変えるやつだ」

「信用なりませんよそんな人。魔王様の外戚のくせに、後継者を勝手に騙って……」


 まあそんなことがありましてね、サレがどこまでそのつもりはわかりませんが、穏健派の勢力圏ではある程度安全に活動ができるようになりそうです。

 さてネコヒトの里でのことはここまでにしましょう。


 ニャニッシュへの帰り道は行きよりも手を焼きました。

 何せ人数が人数ですし1人は病人です。せっかく療養のために向かうのですから、無理をさせたくありません。


「これがお兄ちゃんが話してくれた、里の外側の世界……えへ、お兄ちゃん、これからはずっと一緒だね……」

「もちろんにゃ。ちゃんと大先輩の背中につかまっててにゃ、心配にゃ、先輩丁重に頼むにゃ!」

「ええご心配なく。わたしは元からあなたよりずっと紳士ですので」


 そこでバイコーンから降りた後は、ヘンリー・グスタフ商会と再び接触して、荷物の運搬を請け負いました。

 荷台にシベットとわたしを乗せて、カスケード・ヒルへの輸送に見せかけたのです。


 ●◎(ΦωΦ)◎●



 それからゆっくり4日かけてカスケード・ヒルにやってきました。

 荷馬車隊ごと男爵の商会倉庫に入り込むと、さも当然だとブルドッグづらの彼が待っていました。


「くせぇ……スンスンッ、かぁぁくせぇっ、ネコヒトの匂いで馬車が染まっちまったらどうしてくれんだ、猫野郎!」

「ちょっと男爵、わたしとクレイに対してはいつものご挨拶でしょうが、他の者から見れば心証が悪いですよ」


「ケッ、余計なお世話だ! 欲しいのは布と石鹸と、チェロでいいんだなてめぇっ!?」

「ええ、とても助かりますよ男爵」


 次々と荷馬車に物資が積み込まれてゆきます。

 チェロと石鹸と布、ただそれだけのオーダーだったはずがアレもコレも、男爵は行動で真心を込めてくれるのだから嫌いになれません。


「相変わらず、言ってることとやってることがメチャクチャな人だにゃ」

「ん……? なんだ、誰だてめぇ……?」


「みゃーだにゃっ、クレイだにゃ!」

「ぷっ……笑わすな、似合わねぇ格好しやがって……」


 ちなみにいつものことですが、男爵は代価を払おうとすると怒りました。

 しかしチェロは上物も上物、それは魔界の古木を使ったもので、黒曜石のような輝きとつやがあります。


「いらねぇって何度言やわかるんだテメェ! ただ代わりに、パティアさんとピッコロのところに俺を連れて行け……最近は物騒だからな、帰り道も頼むぞ猫野郎」


 同行者全てにハイドをかけられるほど、わたしの魔力は無尽蔵ではありません。

 なので堂々とまっすぐ行くしかありません。


 荷馬車を率いて、わたしたちはそこから大地の傷痕を目指しました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 そこまで遠くはありません、半日ほどでわたしはあるべき里に帰ってきました。

 時刻はもう夕方前、暗くなる前にたどり着けて良かったです。


 ここでは割り符を持った者と、それと接触している者だけ、結界の内側を認識できるようになっています。

 それはなんて不思議なことなんだろうと、シベットが興奮気味にクレイへと外の世界への驚きを語っていました。


 さて、結界の中に足を踏み入れると後はいつものお約束です。

 すぐにしろぴよがわたしの前に飛来しました。


「あ……この子、シベットにお花くれるって……」

「しろぴよさんは頭の良い鳥様にゃ、ありがたく受け取るといいにゃ」


 ところがいつもと少し違います。

 しろぴよがクレイの妹を見分けると、彼女の前に飛び込んで白い小花をプレゼントしてくれたのです。


「ありがとう、しろぴよさん……お兄ちゃん、ここすごく、良いところだね……わくわくする……。中は、どうなってるんだろ……」

「ピュィッピュィィーッ♪」


 花を渡してくるりと愛想を振りまくと、丸くて白い鳥が空へと消えていきました。

 しかしそれはいつもの前触れです。


 ほどなくすると、いつものようにパティアを連れて戻ってきました。

 そうなるとそうでしょうね。パティアからすれば、ネコヒト14名による最高の絶景が広がっていたに違いありません。


「ほわぁぁぁ……ねこたんが、ねこたんがいっぱい……あっ、ぶるたんもいるー! はーー……かわいい、みんな、かわいい……ゆめか、ゆめかこれ……ほわぁぁぁ……これが、しあわせか……」

「パッ、パパパアッ、パティアすわぁぁぁーんっっ!!」


 お目が高いですね、パティアはクレイの妹の姿に興奮していました。

 わたしの存在も、もちろん男爵なんて全く眼中に入れないで、1番かわいいネコヒトに飛びつきました。


「えっえっ、なにっ、きゃっ?!」

「いらっしゃーい、ずっとずっと、まってたぞー! パティアはー、ねこたんのなー、むすめだぞー! えっと、んと……だから、だからなー、ねこちゃんたちはー……パティアを……きょうだい? みたいにー、おもってもいいからなー!」


 パティアは新しいオーバーオールを着ていました。

 そのポケットの中にはしろぴよが入り込み、ちょこんと膨らんだ姿はまるでカンガルーみたいです。


「うん、わかった……お兄ちゃん、わたし、人間の女の子の兄弟だって……」

「良かったにゃ~、シベット。パティアは今まで見たことないくらい変な子だけど、面白いのは保証するにゃ」


 それはそうと男爵なのですが、森の草地の上に寝そべって、腹と舌を出してパティアをまだ待っていました。

 ですがパティアは今クレイの妹に夢中、それでも男爵は甘い声を上げて、自分の番を忠犬のように待っていたのでした……。


「キュゥゥン……キュンキュゥゥゥン……♪」

「男爵、どうしてあなたはいつもそうなのです……こんなお子様に骨抜きにされて、男爵家の男としてのプライドはないのですか……」


 知っています、わたしの言葉なんて聞こえてません。

 男爵はパティアに夢中で、彼女の意識が自分に向いたことで意識が天国に飛んでいました。


「ぶるたぁぁぁーんっ♪ ごめんねぶるたーんっ、ぶるたんもー、パティアあいたかったぞー! がばーっっ、あーっよしよしよしよしぃー♪」

「おんっあんっおおんっ♪ パティアさんっパティアさんっ、パティアさぁぁんっっ!!」


 エドワード・パティントンが娘の復活に魔王様の魂を使った。

 男爵の醜態をみるたびに、わたしはその仮説を信じたくなりました……。


「にゃぁー、これじゃ先に進めないにゃ! みんな、パティアをかついで、里に飛び込むにゃぁっ!」

「テメェッ、さんを付けろ糞猫野郎ッッ!」

「お、おわーなにをするぅーー?! おおっ、ふわふわがー、ふわふわが、パティアをもちあげ……ふへ、ふへへへへ、ふかふかが、パティアを、ぐへ、ぐへへへへぇ……」


 この日、クレイの妹と従姉妹、若いネコヒト10名が里に移民することになりました。

 新居作りで寝床も外へと分散していましたし、ちょうど良いといえばちょうどいいあんばいの増員です。


 といっても一日平均12時間睡眠の種族に過度の期待なんてされても困ります。

 堅実に仕事をこなしますので、ゆっくりマイペースにお付き合い下さると幸いです。


 チェロをリードに見せるのも楽しみです、シベットたちの歓迎会が盛り上がることが、早くもわたしには見えていました。

 リード・アルマドの幸せは、やはり隠れ里の中にあるのです。


「やっぱ……ここ、ねこたんらんど、かも……。へへー、みんな、みんなみんなっ、いらっしゃーいっ!」


 いえだから、ネコタンランドはダメだと何度言ったらわかるんですかパティア……。


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