29-4 リード・アルマドと木漏れ日の日々 - ミゴーとギガスライン -
・嫌われ者のミゴー
俺たちはサラサール王の手引きによりパナギウム側のギガスラインを抜けた。
そこから山岳地帯を北へと抜けて、まんまと北部ギガスラインの背後になだれ込んでやった。
当然ベルン王国の軍勢は大混乱だ、裏門を破られて要塞内部に入り込まれ、今じゃ俺たち殺戮派の魔族と城内戦を繰り広げるはめになっている。
昔あの野郎が言っていた。
戦って、戦って、戦って何になる。何も変わらない、何も変わらなかったから抜けた、ってよ。
だが俺は迷わん、俺は結果を求めねぇ、戦うことそのものが大好きだ。
「ば、化け物……ギャァァッッ?!」
ニュクスの頭ん中は知らん。だがこのギガスラインの制圧ってのは、なかなか面白い戦争だ。
これまでこの長城を盾にしてきた連中を、今は正面から叩き伏せることができる、ただこれだけで快感だったぜ……。
「これ以上はさせん! 殺戮派のミゴー、その首俺が貰い受ける!」
「ヒャハハッ、出たな命知らず。お前は、ああ、お前は当たりかもなぁ……せいぜい俺を楽しませてくれ、そのために俺様はここに来たんだからよォッ!!」
たまに骨のあるやつともやり合えるから悪かねぇ……。
しかし最後には俺が勝つと決まってる。戦闘力だけなら俺様は殺戮派のナンバー2だ。
「つ……つよ、すぎる……む、無念……」
「てめぇ、いくつだ?」
「なぜそんなことを聞く……俺は、22だ……」
「ならまだ伸びるな。今は斬らねぇでおいてやるよ、おらぁっ!」
ちょっと期待できそうなやつの腹を、俺は蹴り飛ばして長城の壁に叩き付けた。
そこで体力が戻るまで死んだ振りをしてりゃいい。
伸びしろがなさそうなやつは殺す。そうじゃなかったら生かす。
ニュクスには悪いが戦うことそのものが俺の目的だ。将来の強敵を全部摘み取ってたら、いつまで経っても出会えねぇからな……。
「ミゴー! 貴様っ何を手ぬるいことをしている!」
「んんー、誰だぁてめぇ? 誰が手ぬるいって、おい?」
「人間に情けをかけるなど、殺戮派の思想に反――す、ぁ、ぁれ……? き、貴様、俺を斬っ、ゲッゲハッッ……?!」
どこかで見たミノス族の男の腹を俺は刺した。
まだ喋る気だったからな、後腐れなく喋れなくしてやったよ。
「悪い、手が滑ったわ。まあ気を付けろよ、俺は嫌われ者のミゴー、戦場じゃ不幸な同士討ちなんていくらでもあるんだからよ」
だから俺は嫌われ者のミゴーなんだろうな。
ニュクスの野郎は俺のこの悪癖を知っているだろうに罰さない。大将にはありがたくて涙が出るよ。
とにかく早いところここを制圧しねぇとならねぇ。
ギガスラインの北側全部を俺たちの縄張りにして、やつらに真の恐怖を与えてやらねぇとな。
ベルン王国を守る盾はもう存在しねぇんだってなぁ……ヒハハハハッッ、やっとこさ楽しくなってきたぜ、ありがとよニュクス!
そんでクソネコよっ、てめぇが隠遁してる間に、世界を楽園に変えておいてやるよ! 魔王様とやらの仇を、血をもって俺が討っておいてやる!
今回は分割の都合で短くなっています。




